尊が手伝ってくれたので、作業は思ったより早く終わった。
といっても、学校を出たときには、すでに陽が暮れてしまっていたが。
僕と尊はご近所さんなので帰り道は同じだ。駅まで続く道をならんで歩き、私鉄に乗って同じ駅で降りる。
足の長さが違うのに、僕たちの歩くペースは変わらない。尊が僕にあわせてくれているからだ。
僕の幼なじみは見た目だけじゃなく、中身までイケメンなのだ。
女の子にモテるはずだよなあ……。
家へ続く道を歩きながら、隣を歩いている尊を見上げる。
尊の半分、いや、 三分の一でも僕がイケメンだったら、いまごろはとっくに彼女ができていたはずだ。
「なに?」
尊は不思議そうに僕を見てきたが、
「彼女が欲しいなあって」
思いをそのまま口にすると、千回分の溜め息を呑みこんだような顔つきになった。
「また、それか。空はどうしてそんなにも彼女が欲しいわけ」
どうしてって、健全な男子なら誰だって彼女が欲しいのが当たり前だ、と思う。
「彼女がいたら、毎日が楽しくなりそうだから」
「いまは楽しくないってこと?」
「えっ? ……ううん、楽しい――うん、毎日楽しいよ」
「じゃあ、彼女なんていらなくない?」
うっと言葉につまる。
「でも、ほら、彼女がいたら一緒に映画を観にいったり」
「映画なら俺といけばいいよ」
「遊園地とか」
「俺といけばいい」
「手をつないで歩いたり」
言い終わる前に手を握られた。
「俺でよくない?」
尊が立ち止まったので、つられて立ち止まる。
夜の住宅街に人影はなく、僕と尊は街灯に照らされながら見つめあった。
そういえば、小学校低学年のころまでは、尊とよく手をつないで歩いたっけ。
あのころは身長も手の大きさも、それほど変わらなかった。尊のほうがちょっと大きいくらいで。
今はもうぜんぜん違う。身長も、手も、尊のほうがずっと大きい。
「高校生の男子はさ、友だちと手をつないで歩いたりしないと思うよ」
「空は彼女を作らないほうがいいって思う」
空にはまだ早い、とさんざん言われてきたけれど、作らないほうがいいと言われたのははじめてだ。
「なんでだよ。僕が彼女を作ったら、なにがあるっていうんだよ」
「さっきも言ったけど、彼女なんて作ったって利用されるだけだよ。それも無自覚に。空は底抜けに人がいいんだから」
「人を利用するような人間は好きにならないよ」
僕にだってそれなりに理想はある。
彼女にするのなら、優しくって笑いのツボがあう人がいい。
いくらモテないからって、人を利用する人間とはつきあいたくない。
僕を見下ろす尊の目は生温かい。愚かな子供を見るような目つきだ。
「空は、人から利用されても気づかないじゃない。ただのクラスメートでさえそれなんだから、彼女なんて作ったらどうなると思うんだよ」
「どうなるって……いまよりもっと毎日が楽しくな――」
「なりません」
尊は食い気味に否定してきた。
「彼女なんて作ったら、さんざん利用されてこき使われて小遣いも貯金も巻き上げられて、尊の言うとおり彼女なんて作らなきゃよかったー、って泣くことになるだけだよ」
「尊、ネガティブすぎない?」
尊の中では、僕が恋人に利用されまくるのが決定事項になっているらしい。
夜道を通りかかる人はいない。街灯の下で手をつないでいる男子高生。端から見れば奇妙な光景だ。
握りしめられている手がじっとりと熱くなってきた。
「悲観的になってるわけじゃないよ。十六年間、すぐ傍で空を見てきたからこその結論だよ」
「じゃあ、僕は死ぬまでずっと彼女を作れないってこと?」
「うん、そうだよ」
あっさり言われて愕然とする。
尊はただの幼なじみじゃない。親友だと、大人になっても、ふたりがおじいちゃんになってもつきあっていけると、そう思っていた。
そんな相手にこんなひどいことを言われるだなんて、夢にも思わなかった。
「空は彼女よりも、彼氏を作ったほうがいいよ」
「は?」
言っている意味がわからない。
彼女を作らないほうがいい。ここまでは、まあわからなくもない。
尊には、僕がとんでもないお人好しに見えていて、彼女を作ったら利用されまくるって心配しているんだろう。
なんだってそんな心配をするのかはわからないが、言っている意味はまだわかる。
が、しかし――
彼女よりも彼氏を作ったほうがいい。
これはまったく意味がわからない。
「僕は男子よりも女子とおつきあいしたいんだけど」
だいたい、彼女に利用されるのなら、彼氏にだって利用されるんじゃないのか。
「彼女よりも彼氏のほうがいい理由は、あとでしっかり説明するよ。とりあえず家に帰ろ。空、腹が減ってるだろ」
尊はにっこりと微笑むと、僕の手を握ったまま歩き出した。手を握られているので、必然的に僕も道を歩き出す。
彼女よりも彼氏のほうがいい理由。そんなものあるだろうか。
歩きながら隣のイケメンを見上げたが、いくら考えてもそんなものがわかるはずもなかった。

