8月24日からの6日間、2人はほとんどの時間を共に過ごした。
小学生の頃、毎日のように通っていた川に立ち寄り、一緒にザリガニを探した。
水面はキラキラと揺れていて、木々のざわめきが耳を癒した。高校3年生にもなって、制服のズボンの裾を膝丈まで捲り上げて、必死に川底に手を突っ込む姿は、傍から見れば滑稽だっただろう。
それから、少し森の中に入ってカブトムシを探しにいった。
風夏は、虫の苦手な秋帆の背中にセミの抜け殻をくっつけたり、石をひっくり返して裏に隠れていたミミズやダンゴムシを見せつけてきたり、それはもう散々だった。
でも、それでも悪くなかった。
子供みたいなことではしゃいで、時間も勉強も進路も、全てを忘れて遊んだ。
おかげで気づいたら8月30日になっていたし、あれから1秒も勉強してないし、日焼けしすぎて真っ黒焦げになった。
8月30日も終わろうとしていた夕暮れ。コンビニで買ったアイスを、慣れ親しんだ公園のベンチで食べる。もちろん秋帆の奢りだった。
「うま〜!」
目が細められて、頬に手を添えて喜ぶ姿を見ると、たった数百円の出費は痛くも痒くもなかった。秋帆もアイスキャンディーに食らいついた。
手を絡め合ったカップルが目の前を通り過ぎた。秋帆はバレないように横目で風夏を見た。
友達以上、恋人未満。今の2人の関係を一番近い形で言い表した言葉だろう。
でも、この言葉が、2人の関係の全てを表すことができているわけではない。
幼馴染の枠には収まりきらないし、だからといって恋人と表すのは、何か大切な部分が抜け落ちたような感覚に陥る。実際、秋帆はこの関係が心地よかった。
告白する勇気なんか持ち合わせていないし、何より、この関係が崩れてしまうのが怖かった。
そんなことを考えていたら、もう2人ともアイスを平らげていた。
「ねぇ秋帆、右手出して。」
風夏はポケットの中を探っている。
「なんで?」とは聞き返さずに、素直に風夏の前に右手を差し出した。すると、風夏が取り出した何かを、手首に巻きつけられた。
「はい、できた。結構似合ってるじゃん。」
「何これ?ひも?」
「違うよ。…ミサンガ。手作りなの。」
「すご… やっぱり器用だな。綺麗…」
朱色と白色と桃色の糸が綺麗に編み込まれていた。日の光にかざしてみると、糸に編み込まれた小さな飾りが光を反射した。
生まれてこの方、アクセサリーをつけたことのない秋帆にとって新鮮だった。何より、風夏の手作りという事実が秋帆の胸を熱くする。
風夏も、自身の右手にミサンガを巻きつけた。
「じゃーん!」
こちらは、青色と水色と白色のミサンガだった。秋帆のとは違い、どこか涼しげな印象を与えるそれは、風夏にぴったりだった。
「すごい似合ってるよ。ありがとう、風夏。大事にするね。」
「ダメだよ。大事にしないの!」
「え?どういうこと?せっかく作ってくれたのに…」
もう片方の手で、愛おしげにミサンガを撫でた。
ほんの少しだけデコボコしているが、滑らかな糸の感触が心地よかった。身につけてまだ数分しか経っていないのに、もう愛着が湧いていた。
風夏は、ニコッと笑って言った。
「自然に切れたら願い事が叶うの。素敵じゃない?」
「そうなんだ。なんか…神秘的だね。」
こんな浅い感想しか出せない自分に腹が立った。
「風夏は何をお願いするの?」
「んー…そうだな…」
風夏は、少し悩むような仕草をしたあと、胸の前で両手の指を絡めた。
「ずっと夏でいられますように。」
風夏の声はどこまでも澄んでいて、まるで穏やかな波のようだった。
「ほら秋帆も!」
「う、うん…」
秋帆も胸の前でそっと手を合わせた。
「…風夏と、楽しい夏の思い出がずっと作れますように。」
「…何それ。告白?」
「ち、違うし…」
意地悪な笑みを浮かべる風夏に、秋帆はそっぽを向いて否定するしかなかった。
「…ていうか、間違ってもハサミとかでちょんぎらないでね?自分の手で切ったら願い事は叶わなくなっちゃうんだから。」
「僕がそんな乱暴なやつに見える?」
「やりかねないでしょ?」
2人は、どちらからともなく声をあげて笑い出した。それは、蒸し暑さなんてどこかへ吹き飛んでしまうような、春の日だまりを思わせる温かな雰囲気だった。
「風夏、明日、花火しようよ。なんだかんだで今シーズンは1回もしてないじゃん?」
「もう!秋帆ったら夏休みの最終日まで一緒にいたいなんて私のことどんだけ好きなのよ〜」
風夏は体をくねらせて茶化す。
「悪いかよ!僕の奢りなんだから感謝してほしいぐらいだし!」
笑い交じりにツッコミを入れる。
「とにかく明日!8月31日!午後7時にここの公園集合!わかった?」
「お母さんみたい… あ、そろそろ門限だから帰るね。じゃあね〜」
ふらっとベンチから立ち上がった風夏は、右手をひらひら振りながら帰路に向かった。
秋帆は、夏の空気を胸いっぱいに吸い込んで、元気よくベンチから立ち上がった。
