終章
重陽の節句から一月後。
藤原秋定の潔白は証明され、葵には再び貴族の身分を与えられることになった。
そして、葵は今も麗景殿で女官をしている。
そんな葵の元へ時間があれば暁仁は通っていた。
「暁仁様、ご公務はよろしいのですか?」
御帳台にまたしても引っ張り込まれた葵は暁仁を心配そうに見つめる。
「葵に会いたくて、全部終わらせて来た」
「でしたら、今日は縫い祓いのご講義をお願いします」
葵が寝台から起き上がろうとすると、暁仁の腕が伸びて来て、葵を胸に抱きしめる。
衣越しに感じる逞しい胸の感触に葵はドキリとしながら、暁仁が白蓮の姿でいた時、どうして気づかなかったんだろうと思った。
「それもいいが、今日はこうして葵を一日中抱きしめていたい。葵が愛しくて仕方ないのだ」
暁仁の真っすぐな言葉に葵は顔中が熱くなる。
「葵は私とくっついているのが嫌か?」
暁仁に見つめられ、真っ赤になりながらも葵は首を振る。
「私も暁仁様と一緒にいるのが嬉しいです。でも、白蓮様のお姿の時、どうして男性だと気づかなかったのでしょうか?」
疑問を口にすると、暁仁はフフッと口の端を上げた。
「それはな、白蓮の姿には術がかかっていたからだ。白蓮を見た者はみな女性だと思い込む術だ」
それで白蓮様に抱きしめられた時、全く男性だと思わなかったのかと葵は思った。
「暁仁様は人の心に術をかけられるのですね」
「術をかけられるのは姿の認識だけだ。心に術がかけられるのなら、こんなに苦労しない」
暁仁がそう言って、弱々しく葵を見つめる。
自信のなさそうな表情は幼い日の蓮と重なる。
「葵、少しは私に惚れてくれたか?」
「その表情、ずるいです」
葵は困ったように吐息を漏らし、照れくささを隠すように暁仁の胸元にそっと顔を埋めた。東宮として威厳に満ちた姿の裏に覗く弱気な眼差しは、幼い頃の「蓮」そのもので、葵の胸はキュンとなってしまう。
「ずるい? 何がだ?」
「私の心を揺さぶるからです。白蓮様のお姿の時も、こうして殿方のお姿になった暁仁様の時も、私はずっと翻弄されているんです。つまり、術なんかかけなくてもとっくに好きです」
頬を赤く染め、恥ずかしそうにした葵が胸の内を打ち明けると、暁仁の体に力が入るのがわかる。
「……本当か?」
「はい。暁仁様をお慕いしております」
暁仁は驚いたように目を見開き、こらえきれないといった様子で葵をいとおしそうに強く抱きしめた。
「じゃあ、私の妃になってくれるな?」
葵は暁仁の顔を見ながら、静かに頷いた。
次の瞬間、暁仁の唇が葵の唇を甘く塞ぎ、ますます葵は御帳台から出て来られなくなるのだった。
終
重陽の節句から一月後。
藤原秋定の潔白は証明され、葵には再び貴族の身分を与えられることになった。
そして、葵は今も麗景殿で女官をしている。
そんな葵の元へ時間があれば暁仁は通っていた。
「暁仁様、ご公務はよろしいのですか?」
御帳台にまたしても引っ張り込まれた葵は暁仁を心配そうに見つめる。
「葵に会いたくて、全部終わらせて来た」
「でしたら、今日は縫い祓いのご講義をお願いします」
葵が寝台から起き上がろうとすると、暁仁の腕が伸びて来て、葵を胸に抱きしめる。
衣越しに感じる逞しい胸の感触に葵はドキリとしながら、暁仁が白蓮の姿でいた時、どうして気づかなかったんだろうと思った。
「それもいいが、今日はこうして葵を一日中抱きしめていたい。葵が愛しくて仕方ないのだ」
暁仁の真っすぐな言葉に葵は顔中が熱くなる。
「葵は私とくっついているのが嫌か?」
暁仁に見つめられ、真っ赤になりながらも葵は首を振る。
「私も暁仁様と一緒にいるのが嬉しいです。でも、白蓮様のお姿の時、どうして男性だと気づかなかったのでしょうか?」
疑問を口にすると、暁仁はフフッと口の端を上げた。
「それはな、白蓮の姿には術がかかっていたからだ。白蓮を見た者はみな女性だと思い込む術だ」
それで白蓮様に抱きしめられた時、全く男性だと思わなかったのかと葵は思った。
「暁仁様は人の心に術をかけられるのですね」
「術をかけられるのは姿の認識だけだ。心に術がかけられるのなら、こんなに苦労しない」
暁仁がそう言って、弱々しく葵を見つめる。
自信のなさそうな表情は幼い日の蓮と重なる。
「葵、少しは私に惚れてくれたか?」
「その表情、ずるいです」
葵は困ったように吐息を漏らし、照れくささを隠すように暁仁の胸元にそっと顔を埋めた。東宮として威厳に満ちた姿の裏に覗く弱気な眼差しは、幼い頃の「蓮」そのもので、葵の胸はキュンとなってしまう。
「ずるい? 何がだ?」
「私の心を揺さぶるからです。白蓮様のお姿の時も、こうして殿方のお姿になった暁仁様の時も、私はずっと翻弄されているんです。つまり、術なんかかけなくてもとっくに好きです」
頬を赤く染め、恥ずかしそうにした葵が胸の内を打ち明けると、暁仁の体に力が入るのがわかる。
「……本当か?」
「はい。暁仁様をお慕いしております」
暁仁は驚いたように目を見開き、こらえきれないといった様子で葵をいとおしそうに強く抱きしめた。
「じゃあ、私の妃になってくれるな?」
葵は暁仁の顔を見ながら、静かに頷いた。
次の瞬間、暁仁の唇が葵の唇を甘く塞ぎ、ますます葵は御帳台から出て来られなくなるのだった。
終


