【Cafe:iRiS 】〜乙女ゲームのヒロインや攻略対象と仲良くなる世界線はありですか?〜



 あの可愛らしい反応を目の当たりにしたせいで数秒時が止まってしまったが、ましろは我に返って問いの続きを口にする。

「その反応を見るに、してるんですね? してる、で間違いないですね?」

 あえて距離は詰めずに冷静に確認する。ここでヒロインにキモがられたらお終いだ。

「……後輩くんはそれを聞いてどうするの?」

 微妙に警戒されてる感が……、と少し怯みつつもこちらはこちらで必要な情報でもある。少し考えて、ましろはこの質問の意図を朱莉(あかり)に伝えることにした。

「俺、お節介かもしれないんですけど、先輩の恋が成就するようにお手伝いがしたいんです。なにか悩みなどがあれば話を聞きますし、同じ男としてアドバイスもできるかも。俺、先輩には幸せになって欲しいんです」

 おふざけゼロの真剣モードで、ましろはド直球の真顔でそう言った。

「……幸せ、に? 私が?」
「はい、じゃあ明日から一葉(かずは)ルート完全攻略のために作戦を練りましょう」
「ルート? 攻略? え? 上坂さん?」
「大丈夫です! 誰にも言いませんから!」
「……う、うん?」

 朱莉の顔を覗き込むようにまっすぐに見つめて、ましろはプレイヤーとしてヒロインを全力で応援しようと心に決める。

「でもまだお付き合いまでは至っていないんですよね? 二人でどこかに遊びに行ったりとかは? 誕生日にプレゼントとか?」
「ま、待って。ええっと、なにか勘違い……あ、そうだ! おじいちゃんのお店に行こ?」

 朱莉はましろの手を取り、ぐいぐいと引っ張るように歩き出す。

「え、あ、ちょっと待ってくださいっ」
「ほら、早く早く!」

 意外な展開にましろは少し首を傾げつつも、自分で招いた結果なので文句は言えない。ヒロインの祖父の店といえばレトロな雰囲気の喫茶店で、ヒロインがカフェで働く理由がその喫茶店を継ぐための勉強だったはず。なぜ祖父のお店でそれをしないのか、までは書いていなかった気がする。

(となれば、そのあたりのヒロインの事情も知れるってこと?)

 ましろはゲームがプレイできなかった分、ヒロインの近くで流れを見守ろうという気持ちだったが、これは良い展開かも? とテンションが上がった。そのため、そんな二人の後ろ姿を見つめる一人の少女の視線に気付くわけもなく……。

(あれは……、)

 ピンク髪のポニーテールの少女は、手を繋いだまま遠ざかっていく二人の様子に眉を寄せる。少女は店の前のあの場所で、五分くらい話し込んでいた二人の姿を窓越しにずっと見つめていた。

(私の(・・)環さんに馴れ馴れしく話しかけるなんて、いったいどこの誰です?)

 最後の一切れとなったパンケーキにフォークを乱暴に突き刺して、口の中に運びブレンドコーヒーで流し込むと、何事もなかったかのように口をナプキンでふいて席を立った。一葉が空いている時を見計らい、会計をお願いする。

 いつものやりとりだが、なかなか言葉を交わすことにさえ慣れない。わけもなく緊張するのは、隠し事を悟られたくないからかもしれない。一人の客として笑顔を向けてくれていることも知っている。

 あのひと(・・・・)に相応しいのは、やはり彼しかいない。それ以外はとても考えられない。

「……私がなんとかしないと、」

 ぽつりとわざと意味深に呟いたセリフは、一葉には聞こえていなかったようだ。少女はゆっくりと外開きの扉を開け、店を後にした。