デートの場所は動物園。最初から決めておけば良かったと思いつつも、雛希と連絡が付き、現地集合ということになった。雛希には朱莉と一葉が二人で出かける姿を目撃したということと、動物園に向かうらしいという情報を共有した。
ましろ、葵、竜星の三人は、朱莉と一葉の姿が見えるギリギリの距離を保ちつつ、二人がチケットを購入して園の中へ入って行くのを確認してから、葵が発券場で四人分のチケットを購入してくれた。
「俺たちも純粋に動物園を楽しもうか」
はい、とその内の二枚をましろに手渡して、いつもの優しげな笑みを浮かべる。竜星はなぜ自分も付き合わされているのか不思議でならなかったが、一葉に自分が言ったセリフを思えば、まったく関係ないとは言えない立場だった。
『……上坂さんと環さんが付き合っていることにすれば、あの子は納得するんですよね?』
あんなことを口にするなんて、自分でも驚いた。一葉が嫌いなわけじゃない。むしろ感謝すらしている。無口で言葉足らずな部分をちゃんと理解してくれる、そんなありがたい存在。
カフェのみんなは、まるで家族みたいな絆があり、こんな自分でもここにいてもいいのだと言ってもらえているような安心感さえある。
「ダメですよ。あと、俺が小鳥遊さんと合流したら、葵さんと竜星くんがペアになるので、二人とも顔が良すぎて目立つのは仕方ないですが、彼女にだけはバレないようにしててくださいね」
「はいはい」
「……了解した」
ましろがやる気満々なので、二人は各々思うところがありつつも頷き、そのまま園のゲートの奥へと向かって行った。少し遅れた頃に雛希が駐車場の方から姿を現す。その横には見知らぬ女性がおり、一緒にこちらにやって来るようだ。
「お待たせしました。彼女は住み込みで世話係をしてくれている子で、花乃彩音。私がモブ先輩と動物園で推し観察をすると話したら、自分も行くと言って聞かなくて。ご迷惑でなければ同行させても良いですか?」
「初めまして。花乃と申します。お嬢様とは幼少期の頃から一緒に育ち、現在は直属のメイドをさせていただいております」
長い水色の髪の毛は後ろで編み込まれ、三つ編みが背中で揺れている。物静かで穏やかそうな顔立ちと、気品のある口調が耳に心地好い。身長はましろより少し高いくらいだろうか。
穏やかだと思っていたのは最初だけで、雛希の後ろに立った途端、深い青色の瞳でこちらをじっと見据えてきた。それは目に見えて「お嬢様に近づく虫は許さん」的なオーラを放っているようで……。
「伊波ましろって言います。小鳥遊さんとは同じバイト先で、推し活仲間として協力させていただいている次第です」
とにかくややこしいことにならないようにと意識した結果、畏まったセリフになってしまう。
雛希も彩音も同じようなロリータファッションで、雛希は白い襟がついた膝丈の黒い半袖ワンピース、いつものポニーテールではなくハーフアップにした髪の毛にレースの黒いリボンを飾っていた。
それに対して彩音は、レトロ風な深い緑色のチェックのワンピースに白い七部丈の袖広のブラウスという格好で、二人並ぶとかなり目立つ。
白いレースの日傘を持ち、雛希を紫外線から守っている彩音は、まさにお嬢様に仕えるメイドさんという感じだ。
「彩音はスタイルが良いので、何を着せても似合うんです。なのでいつも私の趣味に付き合ってもらっています。最初は環さんの服装に憧れて始めたのですが、最近はこちらの方にも目覚めてしまって」
「お嬢様のためなら、私はマネキンにだってなってみせます」
こっちはこっちで強火な予感がする。
二人のやり取りに対して、ましろは「そうなんだー」と半分棒読みで答えていた。
「あ、小鳥遊さんと俺のチケットは用意してるんだけど、花乃さんの分はなくて」
「問題ありません。私は自分で用意しますので」
推定年齢十八歳くらいで、専属メイドさんという特殊ジョブを持つ彩音。もしかしたらましろより収入がある説も?
「動物園は、幼い頃に一度だけ来たことがあります。ふれあいコーナーに感動した記憶が」
どこか寂しげにそう呟いた雛希。お嬢様というのも色々と大変なのかもしれない。ましろのお嬢様のイメージといえば、親にめちゃくちゃ甘やかされて溺愛されているか、逆にものすごく厳しくされているか。あまり深く突っ込めないが、雛希は親のコネで採用されたと言っていたので、愛されてはいると思われる。
「じゃあ、行こっか」
ましろはこの動物園に来たことがあった。朱莉とデートの下見として色んな場所を巡った時に、一度だけ。その時は二人で楽しく過ごせたわけだが、朱莉には同じように一葉と楽しんでもらえたら良い。
自己紹介も終わったところで、ましろを先頭にして三人はゲートの先へと向かった。



