高校生の頃。数人の女子に告白され断る理由が見つからず、付き合っては別れてを繰り返していた。
昔から女の子に対して好意を持ったことがない。そういう感情が欠落しているのだろうかと思いつつも、別に悩むことはなかった。恋はせずとも付き合うことはできる。一緒に会話をしたり楽しむこともできたからだ。
けれども。
「雨月くんって、私のこと本当に好きなの?」
付き合ってひと月ほど、長くて三ヶ月くらい経つと、全員がそのセリフを口にした。そもそもこちらから告白したわけでもなく、彼女に対して好きも嫌いも存在しなかった。
「……私たち別れよっか。今まで付き合ってくれてありがとね」
「うん、ごめんね」
わかっていて、告白をしてくるのだと思っていた。でなければ、別れたと知ってすぐに告白などしてこないだろう。それとも自分なら、と期待を持たせてしまうのだろうか。
「また別れたの?」
幼稚園からの幼馴染。誰かと付き合えば「また告白されたんだ」と言い、別れれば「また別れたの?」と、何度となく繰り返されるやり取り。
「来るもの拒まず、去るもの追わずってやつ? 女子たちもチャレンジ精神旺盛っていうか。葵がそういう奴だってわかっててやってるよな〜」
「告白してくれるのは嬉しいよ」
「ふーん? でも好きじゃないんだろ?」
「好きになろうと努力はするし、付き合っている間は優しくしてるつもりだけどね」
それ以上の関係を築く気がないだけで。
「手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、その先に進みたいとか思わないの? 健全な男子なら好きな女子に触りたいって思うのが普通じゃない?」
「手は繋ぐよ? 女の子が繋ぎたいって言ったら」
キスしてって言われてもしないけど。
「顔良し、性格良し、頭良し、って、なんでもできちゃう奴なのに、そういうところが残念なんだよな、葵は」
女の子に触れても何も感じない。楽しく会話をしても、一緒に何かをしても、好きにはならない。
「もしかして男が好きとか?」
幼馴染のその言葉に、葵は薄青の瞳を細める。そんなわけないでしょ、といつもなら適当に誤魔化せるのに、その時だけは何故か言葉が出なかった。放課後の教室で、二人きり。そんな場面で言葉を詰まらせた葵に対して、
「……マジ? そっか、そうなんだ」
「…………幻滅した? 」
「驚きはしたけど、別に幻滅なんてしてない。葵は葵だろ? どんな葵でも、俺にとってはめちゃくちゃ大切な幼馴染!」
幼馴染の水上凪砂が座っていた机の上からゆっくりと降りて、緋色の瞳で見上げてきた。
「じゃあさ……葵はどんな子がタイプ?」
「なんでそんなこと訊くの?」
「気になるからに決まってるじゃん」
「……タイプなんて、考えたことない」
幼馴染をそういう目で見ていた、なんて。知ったらきっと引くに決まってる。だからそんな風に期待を持たせないで欲しい。葵はずっと胸の奥に秘めていた想いに気付かれたくなくて、目を逸らす。
「じゃあさ……俺にもチャンスある?」
それは予想もしていなかった言葉だった。
「俺と付き合ってください」
にっと葵が好きな笑みを浮かべ、突然の告白をしてきた凪砂。これは本当に現実なのだろうか。冗談でもなければ、からかわれているわけでもない。
「だめ、かな?」
「だめなわけない……」
「……そっか。じゃあ俺たち、今日からただの幼馴染じゃなくなったってこと?」
「そうだね」
それから高校を卒業し、お互いの夢のためにそれぞれ進学し、両親には二人の関係は明かさずにルームシェアをすることになった。
就職して、いずれは自分たちのお金でマンションを借りて同棲しようと約束した。それが、最悪の終わりに繋がる始まりとは知らずに……。



