あの後、ましろの衝撃的なオチを得た上で、作戦会議は迷走することになる。
あのやり取りのすべてを話したわけではないが、雛希は本気で一葉に朱莉を幸せにして欲しいと思っていること、ましろが推し活仲間として協力すると約束してしまったことをざっくり話した結果……。
「そっか……ましろくんは雛希ちゃんみたいな子がいいんだね」
朱莉がとんでもないことを言い出す始末。ましろはあえて冷静に返そうと試みるが……。
「誤解しないで欲しいんですが、話はすごく合うということはわかったけど、相手は高校生だからそういう感情はないですよ?」
「ふーん。高校生じゃなくなったらそういう感情も芽生えるかもってこと?」
朱莉はじとりとした疑いの眼差しでこちらを見据えてくる。それにはましろも、「いやいやいや」と慌てて否定せざるを得ない。
「それはさすがにないですよ……お互いの推しの話で盛り上がってしまったのは、乙女ゲーム好きとして不可抗力といいますか……、とにかく、彼女に対して下心とかはまったくありません!」
もちろんみんなには内緒だが、朱莉との"デートの下見"の件を雛希に話してしまったのは事実。
「とりあえず、小鳥遊さんがバイトくんを敵視しなくなったということは喜ばしいことじゃない? 初日のあの感じだと目の敵にしてるのがわかりやすく態度に出てたからな〜」
「俺は全然平気でしたけど。強火なファンだなぁとは思いました」
一葉は唐揚げを口に入れては、その度に「うま!」と口癖のように呟く。
「……この会議の着地点はどこなんですか?」
竜星は途端に興味をなくしたのかいつもの淡々とした口調で問う。このままだと作戦会議はただの交流会で終わってしまいそうだ。
「俺が思うに、彼女の妄想を叶えてあげた上で、そうではない現実をさりげなく認識させるのがいいと思うんです。意外と皆さんのことを観察しているようで、特に朱莉さんと絡んでいる人に関しては事細かに記録しているみたいでした」
朱莉が自分を見ているようだということも皆には伏せておいたが、あれに関しては完全に勘違いだと思われる。モブで空気で攻略対象でもないましろがヒロインの恋愛対象になるなどあり得ないからだ。
「妄想を叶えるって、私と上坂さんが付き合っている風を装うってこと?」
「俺は別にいいよ。朱莉ちゃんが嫌じゃなければ、だけど」
「……私は、」
意外とすんなりと受け入れている一葉に対して、朱莉はあまり乗り気ではなさそうだ。嘘でも好きな人以外の誰かと恋人のフリをすることに、抵抗があるのだろう。
「私のせいで上坂さんが風評被害にあったら、嫌だなって」
「俺はそんなこと思わないよ? むしろ大歓迎まである」
朱莉は自身のことを知るお客さんが二人でいるところを目にした時、一葉がそういう目で見られたらと思うと複雑な気持ちになった。しかし一葉はそんな朱莉の不安など気にもしていないようで。
「正直、誰も傷付かないでこのひと月を終わらせられたらって思うし。小鳥遊さんに合わせて俺たちが動くのは変な話だけど、彼女がまたお客さんとして来てくれる未来の方が平和じゃない? 下手に拗らせてややこしくなるよりずっといいと思う」
「上坂さんがいいのなら……やります」
ちらっとましろの方に視線を巡らせるが、当の本人はその意味をまったくわかっていないようだ。朱莉は半分ヤケクソ状態で「恋人のフリ」をすることを決めた。
(……上坂さんと仲良くしている姿を見て、ましろくんが嫉妬してくれるかもしれないし、私の気持ちに気付いてくれる可能性だってあるかも!)
そんな一縷の望みにかけるのもありだ。押してもダメならというし! と、朱莉は両の拳を胸元で握り締め、先ほどよりもやる気に満ちた表情になる。
「じゃあ俺たちは二人のサポート役に回ろう。ましろくんは小鳥遊さんにそれとなく小出しに情報を流して、印象操作をしてもらう。竜星くんはいつも通りでいいよ」
竜星がなにかできるとは葵も思っていない。ならば悟られないようにいつも通り無表情でいてもらうのが吉だ。
(なんだかすごいことになってしまった……)
ましろは自分が余計なことをしてしまった自覚があり、物語がおかしな方向にいってしまうのではないかと不安になってきた。本来のシナリオがわからないというのも問題だ。完全にアドリブ状態でロールプレイをしているような感覚。
このゲームに終わりがあるとしたら、ヒロインがなにかしらのエンドを迎えることだとは思うが、もしそれが迎えられなかったら?
今目の前で起こっているすべての出来事が、本編から外れたものであろうと、この物語は止まる様子がないのも不思議でならない。
自分から始めた展開とはいえ、ましろはモブのくせに物語に関わりすぎたことを、今更ながら後悔するのだった。



