「訊きたいこと、ですか?」
うん、とましろは軽い調子で頷く。午後四時過ぎ。夏の夕方といってもまだ全然明るく、夜までは随分と遠く感じる。雛希は大きな灰色の瞳を細め、ましろを見据えた。
「小鳥遊さんが朱莉さん推しになったきっかけと、なぜ一葉さんとくっつけたいのかを知りたいな〜って。ちなみに俺も一葉ルートでハッピーエンド計画を目指しているので、今後の参考にしたいというのも本音で……、」
「一葉ルート? なんだか乙女ゲームみたいな言い方ですね」
「そう! まさに乙女ゲームのヒロインが朱莉さんで、一葉さんはその攻略キャラっていう設定なんだけど、小鳥遊さんも乙女ゲームするの?」
「乙女ゲームは最高です。環さんがヒロインというのも賛同できます。あんなに可愛らしい方が男の人だと知ってからも、私はあの方を推し続けることを誓いました。それは環さんの輝きに魅せられたからだと今でも思っています」
いつも元気で明るい笑顔。誰にでも気兼ねなく接するところ。失敗してもめげないところ。見えないところでたくさん努力しているところ。ぜんぶ、推せる。そんなヒロインが現実にいるなんて思わなかった。
「あなたとはどうやら気が合いそうです」
「俺もそう思ったんだ。だからこそ知りたい。今までお客さんとして見守っていたはずの君が、どうして今回のような行動に出たのか」
朱莉と一葉をくっつける。つまり恋愛関係になるように画策する。しかしそのために具体的にどうするかは本人にもわかっていないように思える。
二人と仲良くなって、それから何か意識的な操作をし、お互いが好き合っているような雰囲気にもっていくとか、そのようなふわっとした状態で、果たして成功するだろうか。
「……私がモブ先輩に初日に言ったセリフを憶えていますか?」
「邪魔するな、とか。存在感が空気とか? あとは勘違いしないで、だったっけ?」
「まあそんなところです。私、モブ先輩みたいな人は環さんには相応しくないって思っていて。一葉さんのようなカッコよくて人当たりもよくて顔も心もイケメンな方が、環さんを幸せにしてくれるんじゃないかと思っていました」
それにはましろも同意だった。そもそも自分が同じ土俵に立てるとも思わないし、朱莉はヒロインなので攻略キャラと結ばれるべきだと考えている。その中でも一葉はお似合いだと思っていて、それ故に一葉ルートを目指しているのだ。
「でもいつからか、あなたが……"伊波ましろ"という存在があの方の中で変化していって、今では環さんの視線は常にあなたを追っているんです」
「え?」
「二ヶ月前ほど、お店の前で環さんとお話してましたよね? 手を繋いで楽しそうにどこかへ走っていく姿を目にしました」
「ん?」
「あれ以来、二人でお出かけしたりしてますよね? 私、偶然ですが駅前で一緒に歩いている姿を目にしたんです。モブ先輩にその気がないのはさきほどの会話でよくわかりました。でも環さんは違うと思います」
真剣な眼差しで語られるそれは、ましろにとっては目から鱗で、どうしたらそんな妄想が生まれるのかがさっぱりわからなかった。
「いやいやいやいや。朱莉さんとは戦友だけど、そういう雰囲気じゃないし! そもそも朱莉さんも今後の恋愛成就のためにデートの下見をしてるだけで、俺なんかとどうにかなる未来なんて考えてないと思うよ?」
「……モブ先輩がそんな感じだから、私はどうしても一葉さんに環さんとくっついて欲しいんです。あなたはあの方を幸せにはできないって思うから」
自分は対象外で関係ないと言い張るましろの鈍感さが、自分の推しを傷付ける要因になりかねない。雛希は今、この瞬間にそれを確信した。それでは朱莉が報われなさすぎる。
「あなたが環さんに好意がないのがわかっただけでじゅうぶんな収穫です。モブ先輩、邪魔するなとはもう言いません。あの方を幸せにするために、私に協力してください」
雛希はましろの手を取り、まっすぐに見上げてきた。その指先には力が入っており、彼女の本気が伝わってくる。
「うん! 俺にできることならなんでもするよ!」
その熱量に影響され、ましろもまたその手を握り返す。そんな風に返されるとは思っていなかったのだろうか、雛希は少し驚いたような表情を浮かべ、それからほっとしたような笑顔になった。
そこには信頼のようなものが確かに芽生えており、二人は推しのために協力関係を結ぶことを誓い合うのだった。
□□□
「―――という、ことになりました」
ましろはそう言って満足げに頷き、それを聞かされていた他の四人は各々違った感情を胸に抱く。共通するのはただ一つ。
「うん、どうしてそうなったのかな?」
葵がにっこりと怖い笑顔で横にいるましろに問う。朱莉はむうと頬を膨らまし、一葉はうわぁ……という表情を浮かべ、竜星は小さく嘆息した。
とどのつまり、ましろはこちら側ではなくあちら側についたということらしい。
■STAGE:3 〜END〜■



