【Cafe:iRiS 】〜乙女ゲームのヒロインや攻略対象と仲良くなる世界線はありですか?〜


 月曜日。午後六時。

「いらっしゃい、竜星くん」

 ましろは扉を開けて最後のお客さんを迎え入れる。他のみんなはすでに集まっており、各々好きな場所に座っていた。賑やかしいのは間違いなく一葉《かずは》と朱莉《あかり》のせいだが、そこにましろもこの瞬間まで混ざっていたのでなんなら三人のせいでもある。

「……お邪魔します」

 のそ、と入って来た竜星だったが、ましろの笑顔に対して長い前髪の隙間から覗く金色の瞳を細め、じっとその顔を無言で見つめる。

 そんな竜星を不思議そうに見上げてくるましろ。特になにか会話が生まれるわけでもなく、いつもの感じになってしまう。

「竜星くん、苦手なものとかある? 俺も手伝ったんだけど、今後の参考に後で教えて!」
「…………?」
「今、色んな料理の勉強中なんだ。葵さんに教わってるから味は保証できるよ」
「…………苦手なものは、ない」
「そっか! じゃあ竜星くんに味見係になってもらおっと」

 みんな待ってるから、早く早く! とましろは竜星の後ろに回ってその背を押してリビングまでの廊下を進む。明るいリビングからは一葉と朱莉の笑い合う声が聞こえてきて、キッチンを通り過ぎた時にエプロン姿の葵と目が合った。

「こんばんは、竜星くん」

 柔らかい口調で葵が声をかけてくれたが、その視線は後ろにいるましろに向けられているように感じた。竜星は「お邪魔します……」と会釈をし、そのまま先に待っていた一葉たちの方へと連れて行かれる。

 ガラスのテーブルを真ん中にして一葉が奥のベランダ側、入り口側に朱莉が向かい合うように座っていて、竜星はソファが置いてある方の反対側、ベランダ寄りに腰を下ろした。

 テーブルにはオードブル風に一皿に並べられた、手作りの唐揚げや串焼き系のおつまみと、飾りのミニトマトやレモン。別の皿にはタコのカルパッチョ。あとはそれぞれ持ち寄った酒類やジュースがビニール袋に入ったままカーペットの上に置いてあった。

「グラスと氷が欲しい人はセルフでね。ましろくんにはお酒は飲ませないこと」

 このゲーム内の成人は現実セカイと同じらしい。おそらく十九歳っぽいましろは微妙なので無難にお茶が入ったグラスをテーブルに置いた。元々の年齢も同じなのでそもそも酒は遠慮したいと思っていたため、その提案はありがたかった。

「じゃあみんな揃ったってことで、乾杯」

 葵とましろがソファの下に寄りかかるように座り、一葉の乾杯でみんなが各々飲み物を掲げた。今回の集まりの目的は作戦会議のはずだったが、完全に飲み会という名の交流会になっている気がする。

「唐揚げうまっ」
「味付けから揚げるところまで、全部ましろくんが頑張ったんだよね、」
「はい、唐揚げって自分で作れるんだという新発見でした」
「そうなんだ〜。今度私にも教えて欲しいな」

 朱莉はましろの横でさりげなくアピールをしてみるが、ましろは「じゃあ今度一緒にチャレンジしてみましょう!」とのってくれた。

「一葉、本来の目的を忘れていない?」
「忘れてるわけないだろ。あ、このアスパラとベーコンの串もうまい」
「えっと、小鳥遊(たかなし)さんの件ですよね。それなんですけど、俺、この前ちょっとだけ彼女と話す機会があって、その情報を共有してもいいですか?」

 いつの間に……、と他の四人がましろに注目する。まだ数日程度しか関わっていないはずなのに、いつそんな機会があったのか。

「俺、そんなの聞いていないけど?」
「あ、はい。つい昨日の話だったので、今日みんなと共有すればいいかなぁと思って」

 葵の目の色が一瞬変わったのを一葉は見逃さなかったが、とりあえずそれなりの理由があったおかげで「すん」と落ち着いたようだ。

 そんな葵の視線になど気付きもしない平和なましろは、昨日の帰り道、偶然にもお店の近くで雛希(ひなの)と遭遇したところから話し始めた。