三人が退勤した後、一葉は竜星とも情報共有をした。竜星はこの手のことにはまったく興味を示さないと知っていたので、その通りの反応に安堵する。斎宮はいつもの調子なので本当にどうしようもない状態になるまでは動かないだろう。
(葵と一回話した方がいいかも? なんならみんなで作戦会議もありか)
定休日の月曜日に誰かの部屋に集まって話し合うのがいいだろう。
「上坂さん、さっきの話ですけど……」
閉店作業をしている時に、珍しく竜星が話しかけてきた。看板を取り込み扉に鍵をかけながら、一葉は「どうした?」と途切れた言葉の先を促す。床の掃除のためにテーブルの上に上げていた椅子を戻しながら、竜星は「はい……」と低い声でセリフを続ける。
「……上坂さんと環さんが付き合っていることにすれば、あの子は納得するんですよね?」
「まあ、目的はそれらしいからな〜。けど、問題は朱莉ちゃんが恋人のフリをできるかどうか……俺は上手くやれる自信があるけど、あの子そういうの苦手そうだし?」
「けど……上坂さんは誤解されやすいから、それによって他の誰かが巻き込まれるのは良くないと思っていて……」
竜星が言いたいことはなんとなくだが一葉にもわかっていた。自分が誰とでもへらへらと楽しく話せることや、気を持たせてしまうこと。お客さんからも何度か告白されたこともあって、その度に断っては罪悪感を覚えた。
「うん、そうだよな。竜星が心配するのもわかる」
雛希はかなりの強火ファンだ。普段は大人しい感じで接客も丁寧で、正直この仕事に向いている。最初はもう少し笑顔があればとも思ったが、ああいうキャラでやっていくのも彼女の魅力になる気がした。現に、目の前のまったく笑わない男がウケているわけなので棲み分けにはなる。
朱莉は明るく一生懸命なドジっ子キャラ。
竜星は常に無表情だけど意外と気の利くクールキャラ。
葵はいつも優しいお兄さんキャラ。
一葉は誰とでも仲良く話せて場を盛り上げるムードメーカー。
斎宮は余裕のある大人枠。
ましろはみんなに愛される弟系わんこキャラ。
ひと月だけの仲間だとしても、ましろが言ったように嫌な思いだけはさせたくないし、できることならば楽しい経験だったと思って欲しいのが一葉としての本音だった。
しかしこのままだと、そうはいかないことになってしまう可能性もある。それこそ一番最悪の事態、途中退場もあり得る。
「ということで、明後日みんなで葵の部屋に集合」
「……なんでそうなるんですか?」
「葵のご飯食べながら作戦会議しよう!」
「……それ、雨月さんには」
「言ってないよ。後で言いに行く」
はあ、と竜星は無表情だがどこか呆れた様子で見下ろしてきた。
「心配してくれてありがとな?」
「……いえ、別に」
にっと満面の明るい笑顔で一葉は竜星を見上げ、竜星はそんな一葉からふいと目を逸らした。他人から真っ直ぐに感情を向けられるのが苦手な竜星が目を逸らすのはいつものことで。だからこそ不思議でならない。
(やっぱりバイトくんはすごいな)
あの竜星にここまで言わせているのは、ましろが関わっているからだとすぐにわかった。彼のいう「他の誰か」の「誰か」はましろを指しているのだと。そして葵が抱える爆弾のピンを外すきっかけになり得るのも彼だ。
この店はいつの間にかましろを中心に動いている。そんな気がしてならない一葉なのであった。



