ましろはなにがなんだかわからないまま、どうやら新人バイトに嫌われてしまったようだ。嫌われた、というか"余計なことはするな"と釘を刺されたというか。
「大丈夫?」
雛希が休憩に入ったタイミングで、葵がいつの間にかましろの横にいた。
「あ、はい。俺は全然。空気で凡人なのは自分でもよく理解しているので。けど、敵視されてるっていうか。俺、なにかあの子に悪いことしたかなって」
ましろは挨拶をして一分も経たない間に「邪魔をするな」と言われたその意味を、正直把握しきれていなかった。
「君が気にすることじゃないと思うよ。短期だからひと月後にはいなくなる子だしね」
「とはいえ、やっぱり仲良く楽しく働きたいというのが俺のモットーでして」
せっかくのお仕事系乙女? ゲームなのに、ギスギスした気持ちでいられるのもなんだか悲しい。攻略キャラではなさそうだが、一種のイベントキャラ的な立ち位置なのかもしれない。
自分が忘れているだけで、宣伝用PVの中に登場していた可能性もある。良すぎるメインキャラに気を取られすぎて、彼女の存在に気付けなかったのかもしれない。
「二人に聞いてもらいたいことがあるんだけど」
そんな二人の会話を聞いていたのか、一葉がカウンター越しに深刻そうな面持ちで話しかけてきた。
「斎宮さんにはここだけの話、みたいな感じで言われたんだけど。そうも言っていられなくなったっていうか……バイトくんも巻き込まれそうだから話しとこうかと」
「ああ。開店前に斎宮さんとなにか話してたのは、そういうこと?」
葵はどこかいつもと違う雰囲気で、一葉の方に視線を向ける。やんわりとした話し方ではなく、なんだか少し怖い? そんな違和感にましろは葵をチラッと横目に映す。
(一緒に暮らしてみてわかったんだけど、葵さんって表情というより声音に感情が表れるっていうか……今の感じは微妙に怒ってる気がする)
なぜそんな風になっているのかまではわからないが、とにかくなにか気に障ったことでもあったのだろう。ましろはこれ以上余計なことを口走らないように、二人の会話を傍聴することにした。
「あの子、日曜日によく来てる子だよね。一葉がいつも対応してた。それとなにか関係あるのかな?」
「俺もイマイチよくわかってないんだけど。あの子は俺と朱莉ちゃんのことをなにか勘違いしてるみたいで、どうにかしてくっつけたいらしい」
「は?」
「え?」
まあそうなるよな……、と一葉は自分とまったく同じ反応をしている二人に苦笑する。
「斎宮さんの知り合いの娘さんで、たぶん大人の事情ってやつで採用せざるを得なかったと俺は勝手に思ったけど。なんだかさっきの感じだと、バイトくんもこの件に巻き込まれそうな気がしたんで、情報共有しとこうかなって」
オーダーもちょうど提供し終わり落ち着いたタイミングだったのと、葵も厨房から出てきたこともあり今だと思ったのだ。
「それは……、」
しかし一葉の話を聞いたましろは、何かを言いかけて俯いてしまう。
「……ましろくん?」
心配そうに葵がましろの顔を覗き込むが、同時に勢いよく上げた顔と視線が重なった。そこには想像したものとはまったく逆の表情が浮かんでいて……。
「めちゃくちゃ仲良くなれそうな予感がします!」
「……そう?」
目を輝かせているましろに、葵は眉を顰める。なにがどうしてそうなるのか。小鳥遊雛希のあの発言を受けて、一葉の話を聞いて、この反応はどう考えても変だ。
「あの子はバイトくんに任せていいってこと?」
「もちろんです。もう少し仲良くなったら、詳しく話を聞いてみますね!」
やる気満々のましろに対し、葵は薄青の瞳を細めてなにか思うところがありそうだ。そんな対照的な二人の表情に、一葉はややこしいことにならないことを祈るばかりだった。



