目隠しが取られ、星野あさひは目を開けた。
コンクリートの匂いがする。
薄暗く、広い部屋だ。後ろ手に拘束されているため背後はわからないが、正面の壁面には、壮麗な細工の施されたパイプオルガンが置かれていた。
その部屋の中央に置かれたティーテーブルの席に、あさひは座っていた。背後には、あさひをここまで連れてきた管理局の職員がいる。そして、向かいには男が腰掛けていた。
西洋人らしい、堀の深い顔立ち。深い青にも近い巻き毛を後ろで結いている。奇妙なのはその服装だった。中世の貴族のようなベストにジャケット。袖口からはレースが覗く。コスプレのような格好だが、不思議と男にはよく似合っていた。
「おはようお嬢さん。と言ってもまだ未明だが」
男はガラスのティーポットから色の薄い茶を注ぐと、あさひの前に押しやった。
「手が縛られていたら飲めないだろう。外してやれ」
「しかし……」
職員は躊躇っていたようだが、男が不機嫌そうに手で示すと、あさひの手首の拘束を解いた。
「飲みなさい。リラックスしろ。そしてよく考えるんだ」
あさひは、僅かに痺れの残る手でカップを包み込み、口に運んだ。ハーブティーだろう。カモミールの香りがする。
「君が取ることができる行動は少ない。地球でこのまま、自分の名前も忘れるくらい長い間拘禁されるか、惑星ラザロに強制送還されるか。ああ、変な気は起こすなよ」
男は、カップを握りしめるあさひの手に、軽く手を触れた。
氷の何倍も冷たい指が、あさひの指をなぞった。
「君が強制送還されていないのは私が取りなしたからだ。なぜ私がそんなことをしていると思う?」

