黒川くんの指導のおかげで、俺のテストは無事に赤点回避で終わった。
ゲームの許可が出た俺は、学校から帰宅早々ゲームの前に走る。姉ちゃんも最近はバイトが忙しかったので、モモを動かすのは数週間ぶりだったりする。
「最近ログインしとらんかったからなあ」
画面のなかで笑うモモに申し訳なくなる。
当然連続ログインなんて途切れてまた一から。イベントも変わってたりするし、ゲーム内での時間の進み具合に置いてきぼり感をくらったりする。
「黒川くんも最近ログインしてなかったはず……」
ギルド内も装飾が変わっており、ゲーム内でも時間が経ったことがわかる。さらには知らない顔ぶれが増えており、俺は新プレイヤーの名前を確認していく。
「米一粒さんに、モッチさん、春高さんに、師匠さん」
ちょうどタイミングよく黒川くん――レンもログインする。
相変わらずの大剣を背負ったイケメンさんに、俺は早速レンに話しかけようとする。
しかし同じタイミングで、ほかのプレイヤーがレンに話しかける。話しながらリアクションを取るレンに、俺は珍しい、とその場から動けなくなる、
「知り合いなんかな」
レンは基本、ほかのプレイヤーと喋るときリアクションはしない。別に交流はするしクエストなどは一緒に行く。しかし交流メインでないことが話しかけた時の態度でわかる。
そのレンが、長く、楽しそうにモモ以外のプレイヤーと喋っている。
相手のプレイヤー名を確認すると、「みなっくま」とレベル62と表示される。
「そこそこやってるプレイヤーなんかな?」
首をひねる俺に、みなっくまさんと会話が終わったらしいレンが近づいてくる。
『モモさんこんにちは。今日も可愛い。会えてうれしいよ』
『ありがとう。レンも格好良いよ!』
『最近ログインできなかったんだけど、モモさんは?』
『私も。ちょっと私生活が忙しくて』
会話もそこそこに、クエストに行こうという話になる。
なら二人で、と俺が提案しようとしたところで、レンから「モモさん」と声がかかる。
『俺の知り合いも誘っていい?』
知り合い?
レンとのチャットで初めて出た単語に、俺は理解が遅れてしまう。
『もちろんええよ!誰?』
『こいつ。最近始めたからまだクエスト慣れてないみたいで』
『よろしくお願いします!』
と、みなっくまさんから元気のよい挨拶が届く。みなっくまさんは、その名の通り熊の耳をつけた女性のアバターだった。初心者向けのモンスターの防具で装備を固めた彼女は、俺に向けてお辞儀のリアクションをする。
『こちらこそよろしくお願いします』
『モモさん、こいつ湿地帯行きたいんだって』
『水装備が作りたいんです』
『ええよ。私もレンくんもいるし、高レベのとこでレア素材集めしよか』
俺の提案に、レンもみなっくまさんも同意する。そしてクエストを受注しフィールドを駆けている合間に、レンとみなっくまさんはチャットを続ける。
『装備どの程度まで出来た?』
『まだレベルは半分しかいってない。もっと良い装備もあるのかな』
『上位装備はあるけどレベル不足』
『やっぱりそうだよね。レベルっていくつくらい必要?』
クエストには三人で参加しているため、俺にも二人のチャット内容が読める。
俺が何も喋らなくても二人で会話は続いていく。
仲良えな。
俺が見た限り、レンはギルドメンバーとのチャットではもっと丁寧に話す。それがここまで雑に話すってことは、おそらく近しい人なんだろうと推測する。
『モモさんはどう思う?』
ぽんっ、とチャットが更新される。突如話題を振られて俺は慌ててチャットのログを読む。
効率の良いレベルのあげ方についての話題で、俺はほっと胸をなでおろす。
なんで俺今ほっとしたんだ?
自分の行動がわからず俺は首を傾げる。
『高レベの人に付き合ってもらって高レベモンスター倒すのが楽やろ』
『同感。それが手っ取り早い。俺も手が空いてたら付き合うし』
付き合うんかい。
思わず打ち込みそうになって、俺は慌ててコントローラーから手を離す。びっくりしたのはみなっくまさんも同じだったらしく、画面のなかでアバターの動きが止まっている。
『ほんとにっ?付き合ってくれるの?』
『俺も欲しい素材のやつなら』
『それでも助かる!レンありがとー』
そんなやりとりを、俺は話にはいることができずただ眺める。
レンがこんなふうに言うのを、俺はモモ以外に見たことがない。
そんなレンの態度を知っているのか、みなっくまさんもテンションが上がっているようだった。
『また学校で』
投下された個人情報に、俺はみなっくまさんの正体にぴんとくる。
南さんや。
先日ゲームを始めると宣言していた女子のことを思い出す。長いまつげと大きな目で黒川くんを見つめていた綺麗な女の子。
『私はそろそろ落ちるね。今日は一緒にやってくれてありがとう』
クエストが無事終了し、次どうする、という話になり俺は不参加を申し出る。
時間としてはまだ午後六時。ゲームをする余裕はある。
だけど、これ以上一緒に回るのはしんどいと思った。みなっくまさんは俺たちよりレベルこそ低いものの、クエストに参加するには何の問題もない腕前だった。
『わかった。今日はありがとうモモさん。会えてうれしかった』
『今日はありがとうございました!また一緒にできるとうれしいです!』
レンもみなっくまさんも、特に気にせず挨拶してくれた。そして次のクエストについて二人で話し合い始める。
クエストメンバーを抜けた俺に二人の会話はわからない。
なんか、まだ残っとったほうが良かったかも。
抜けたことを少しばかり後悔する。
だけどこのあとも二人と一緒だと、俺はずっともやもやし続けるだろう。
今日は一旦終わりにしよ。
コントローラーを置き、ゲームの電源を切って俺はリビングから部屋へと戻る。
その後もずっとそわそわしたが、振り切ってベッドに潜り込んで目を閉じる。
別にプレイ人口増えるのはええことやし。レンくんも「モモさん紹介したい」とか言っとったし。
だから一緒のクエストにみなっくまさん誘ったんやろ、そう自分に言い聞かせるのに、心の中は暗くなっていく。今後も誰かと一緒だろうか。二人で回ることはなくなるのだろうか。そんな事ばかり頭に浮かんでは心を重く暗くしていく。
とりあえず寝よう。
そう思っても、睡魔なんてなかなか襲ってこなかった。
ようやく眠れたのは深夜過ぎてからで、俺は眠い目をこすりながら学校に向かう。
そうだ、新イベント始まるしそのことについて黒川くんと話そ。
そんなことを考えながら俺は教室のドアを開ける。
黒川くんの席の前には、南さんが立っていた。二人は向かい合って話しており、南さんが笑顔で話している。
その視線の先にいる黒川くんは、無表情やけどいつもより饒舌に見えた。南さんが話し、黒川くんが話し、南さんが笑い声をあげる。
それを離れて見ている俺には、とても親しそうな二人に見えた。
間に入っていく勇気も、二人の間に割り込む話題も持っていなくて、俺は自分の席に座ると教科書を取り出す。
「湊、おはよっ!」
「かっちゃん、おはよう。今日1時間目なんやっけ」
「英語。湊、宿題の訳出来た?」
「できたでー。頑張ったもん」
俺は前に来たかっちゃんと喋りながらも、視界の端で黒川くんを確認してしまう。
黒川くんは南さんと喋っていて、俺のほうを見ることはない。
まあ、しゃーないな。そう思うのに、授業が始まる度に、黒川くんの方を見てしまう。休み時間になっては立ち上がって、彼の近くに人が来るのを見ては座るを繰り返す。
黒川くんは人気者やから、休み時間になれば誰かしらが彼の席の近くにいた。さらには黒川くんが動画を見始めてしまうと、雰囲気的に声をかけることをためらってしまう。
昼休みには、と俺が決意したのも虚しく、黒川くんは昼休みになると教室を出ていった。慌ててその背を追いかけると、廊下に黒川くんと南さんが並んでいた。
「水野、ちょうどよかった」
「水野くんっ!私もクエスト一緒に行けるようになったんだ!」
知っとるよ。
俺を見つけて駆け寄ってきた南さんに、俺は曖昧な笑みを見せる。
「それで、水野くんも一緒に回りたいって思って」
「アバター名、そろそろ教えて欲しいんだけど。検索してフレンド申請するから」
期待した眼差しを向けてくる二人に、俺は何も言うことができず黙り込む。
昼休みの喧騒が遠くに聞こえる。
ここで俺がモモって言ったらどうなるんやろ。
黒川くんがショックを受ける顔が浮かんで、俺は無理やり笑みを浮かべる。
「お誘いは嬉しいんやけど、やっぱアバター教えるんは恥ずかしくて」
「えっ?」
南さんが予想外だと驚いた顔をする。
「なんで?どんなアバターにしたの?」
「ゲームやからって調子にのってん。口にするのも恥ずい名前で……」
「なにそれ、逆に超気になるんだけど!」
ねえ、と南さんが黒川くんに同意を求めるものの、黒川くんはちっとも笑ってなかった。
手元にスマホを取り出して何かしていると思ったら、何かを読むかのように目を左右に動かし眉を寄せる。
「……アバター名、設定画面から簡単に変えられるんだけど」
黒川くんの指摘に俺の肩が跳ねる。
黒川くんがゲームの説明画面を俺に突きつける。
「アバター名変えたら?」
「いや、うん……そうなんやけど……」
二人の俺を疑う視線に耐えられなくて、俺は逃げるように下を向く。それでも黒川くんからの視線はずっと感じていて、廊下のここだけ緊張感が高まっていく。
「べっ、別に教えるの嫌ならそれでもいいじゃん!水野とはまた今度教えてもらってから一緒に回るってことで!」
俺たちの険悪な空気を変えるために南さんが明るい声を出して割って入る。
ねっ、と俺に優しい笑みを向けて南さんは黒川くんの隣に立つ。黒川くんの視線が俺から外れる。空気が昼休みの廊下のものに戻る。
「それで黒川くんっ!今度のクエストなんだけど、かすみんとこっちゃんも一緒に行きたいって」
「誰?」
「澤田琴葉ちゃんと高橋香澄ちゃん!黒川くんとは一年でもクラス一緒だったんだけど」
覚えてないの?と責めながらも甘えを滲ませる声で南さんが黒川くんに声をかける。
黒川くんもいつもの顔をして聞く姿勢をみせる。
ゲームの話にうつった二人から俺は静かに距離をとった。
二人は引き続き楽しそうに話している。
俺はどないしたらよかったんやろ。
黒川くんとの間にできた距離に、俺はただ遠くから彼の横顔を見つめるしかなかった。
ゲームの許可が出た俺は、学校から帰宅早々ゲームの前に走る。姉ちゃんも最近はバイトが忙しかったので、モモを動かすのは数週間ぶりだったりする。
「最近ログインしとらんかったからなあ」
画面のなかで笑うモモに申し訳なくなる。
当然連続ログインなんて途切れてまた一から。イベントも変わってたりするし、ゲーム内での時間の進み具合に置いてきぼり感をくらったりする。
「黒川くんも最近ログインしてなかったはず……」
ギルド内も装飾が変わっており、ゲーム内でも時間が経ったことがわかる。さらには知らない顔ぶれが増えており、俺は新プレイヤーの名前を確認していく。
「米一粒さんに、モッチさん、春高さんに、師匠さん」
ちょうどタイミングよく黒川くん――レンもログインする。
相変わらずの大剣を背負ったイケメンさんに、俺は早速レンに話しかけようとする。
しかし同じタイミングで、ほかのプレイヤーがレンに話しかける。話しながらリアクションを取るレンに、俺は珍しい、とその場から動けなくなる、
「知り合いなんかな」
レンは基本、ほかのプレイヤーと喋るときリアクションはしない。別に交流はするしクエストなどは一緒に行く。しかし交流メインでないことが話しかけた時の態度でわかる。
そのレンが、長く、楽しそうにモモ以外のプレイヤーと喋っている。
相手のプレイヤー名を確認すると、「みなっくま」とレベル62と表示される。
「そこそこやってるプレイヤーなんかな?」
首をひねる俺に、みなっくまさんと会話が終わったらしいレンが近づいてくる。
『モモさんこんにちは。今日も可愛い。会えてうれしいよ』
『ありがとう。レンも格好良いよ!』
『最近ログインできなかったんだけど、モモさんは?』
『私も。ちょっと私生活が忙しくて』
会話もそこそこに、クエストに行こうという話になる。
なら二人で、と俺が提案しようとしたところで、レンから「モモさん」と声がかかる。
『俺の知り合いも誘っていい?』
知り合い?
レンとのチャットで初めて出た単語に、俺は理解が遅れてしまう。
『もちろんええよ!誰?』
『こいつ。最近始めたからまだクエスト慣れてないみたいで』
『よろしくお願いします!』
と、みなっくまさんから元気のよい挨拶が届く。みなっくまさんは、その名の通り熊の耳をつけた女性のアバターだった。初心者向けのモンスターの防具で装備を固めた彼女は、俺に向けてお辞儀のリアクションをする。
『こちらこそよろしくお願いします』
『モモさん、こいつ湿地帯行きたいんだって』
『水装備が作りたいんです』
『ええよ。私もレンくんもいるし、高レベのとこでレア素材集めしよか』
俺の提案に、レンもみなっくまさんも同意する。そしてクエストを受注しフィールドを駆けている合間に、レンとみなっくまさんはチャットを続ける。
『装備どの程度まで出来た?』
『まだレベルは半分しかいってない。もっと良い装備もあるのかな』
『上位装備はあるけどレベル不足』
『やっぱりそうだよね。レベルっていくつくらい必要?』
クエストには三人で参加しているため、俺にも二人のチャット内容が読める。
俺が何も喋らなくても二人で会話は続いていく。
仲良えな。
俺が見た限り、レンはギルドメンバーとのチャットではもっと丁寧に話す。それがここまで雑に話すってことは、おそらく近しい人なんだろうと推測する。
『モモさんはどう思う?』
ぽんっ、とチャットが更新される。突如話題を振られて俺は慌ててチャットのログを読む。
効率の良いレベルのあげ方についての話題で、俺はほっと胸をなでおろす。
なんで俺今ほっとしたんだ?
自分の行動がわからず俺は首を傾げる。
『高レベの人に付き合ってもらって高レベモンスター倒すのが楽やろ』
『同感。それが手っ取り早い。俺も手が空いてたら付き合うし』
付き合うんかい。
思わず打ち込みそうになって、俺は慌ててコントローラーから手を離す。びっくりしたのはみなっくまさんも同じだったらしく、画面のなかでアバターの動きが止まっている。
『ほんとにっ?付き合ってくれるの?』
『俺も欲しい素材のやつなら』
『それでも助かる!レンありがとー』
そんなやりとりを、俺は話にはいることができずただ眺める。
レンがこんなふうに言うのを、俺はモモ以外に見たことがない。
そんなレンの態度を知っているのか、みなっくまさんもテンションが上がっているようだった。
『また学校で』
投下された個人情報に、俺はみなっくまさんの正体にぴんとくる。
南さんや。
先日ゲームを始めると宣言していた女子のことを思い出す。長いまつげと大きな目で黒川くんを見つめていた綺麗な女の子。
『私はそろそろ落ちるね。今日は一緒にやってくれてありがとう』
クエストが無事終了し、次どうする、という話になり俺は不参加を申し出る。
時間としてはまだ午後六時。ゲームをする余裕はある。
だけど、これ以上一緒に回るのはしんどいと思った。みなっくまさんは俺たちよりレベルこそ低いものの、クエストに参加するには何の問題もない腕前だった。
『わかった。今日はありがとうモモさん。会えてうれしかった』
『今日はありがとうございました!また一緒にできるとうれしいです!』
レンもみなっくまさんも、特に気にせず挨拶してくれた。そして次のクエストについて二人で話し合い始める。
クエストメンバーを抜けた俺に二人の会話はわからない。
なんか、まだ残っとったほうが良かったかも。
抜けたことを少しばかり後悔する。
だけどこのあとも二人と一緒だと、俺はずっともやもやし続けるだろう。
今日は一旦終わりにしよ。
コントローラーを置き、ゲームの電源を切って俺はリビングから部屋へと戻る。
その後もずっとそわそわしたが、振り切ってベッドに潜り込んで目を閉じる。
別にプレイ人口増えるのはええことやし。レンくんも「モモさん紹介したい」とか言っとったし。
だから一緒のクエストにみなっくまさん誘ったんやろ、そう自分に言い聞かせるのに、心の中は暗くなっていく。今後も誰かと一緒だろうか。二人で回ることはなくなるのだろうか。そんな事ばかり頭に浮かんでは心を重く暗くしていく。
とりあえず寝よう。
そう思っても、睡魔なんてなかなか襲ってこなかった。
ようやく眠れたのは深夜過ぎてからで、俺は眠い目をこすりながら学校に向かう。
そうだ、新イベント始まるしそのことについて黒川くんと話そ。
そんなことを考えながら俺は教室のドアを開ける。
黒川くんの席の前には、南さんが立っていた。二人は向かい合って話しており、南さんが笑顔で話している。
その視線の先にいる黒川くんは、無表情やけどいつもより饒舌に見えた。南さんが話し、黒川くんが話し、南さんが笑い声をあげる。
それを離れて見ている俺には、とても親しそうな二人に見えた。
間に入っていく勇気も、二人の間に割り込む話題も持っていなくて、俺は自分の席に座ると教科書を取り出す。
「湊、おはよっ!」
「かっちゃん、おはよう。今日1時間目なんやっけ」
「英語。湊、宿題の訳出来た?」
「できたでー。頑張ったもん」
俺は前に来たかっちゃんと喋りながらも、視界の端で黒川くんを確認してしまう。
黒川くんは南さんと喋っていて、俺のほうを見ることはない。
まあ、しゃーないな。そう思うのに、授業が始まる度に、黒川くんの方を見てしまう。休み時間になっては立ち上がって、彼の近くに人が来るのを見ては座るを繰り返す。
黒川くんは人気者やから、休み時間になれば誰かしらが彼の席の近くにいた。さらには黒川くんが動画を見始めてしまうと、雰囲気的に声をかけることをためらってしまう。
昼休みには、と俺が決意したのも虚しく、黒川くんは昼休みになると教室を出ていった。慌ててその背を追いかけると、廊下に黒川くんと南さんが並んでいた。
「水野、ちょうどよかった」
「水野くんっ!私もクエスト一緒に行けるようになったんだ!」
知っとるよ。
俺を見つけて駆け寄ってきた南さんに、俺は曖昧な笑みを見せる。
「それで、水野くんも一緒に回りたいって思って」
「アバター名、そろそろ教えて欲しいんだけど。検索してフレンド申請するから」
期待した眼差しを向けてくる二人に、俺は何も言うことができず黙り込む。
昼休みの喧騒が遠くに聞こえる。
ここで俺がモモって言ったらどうなるんやろ。
黒川くんがショックを受ける顔が浮かんで、俺は無理やり笑みを浮かべる。
「お誘いは嬉しいんやけど、やっぱアバター教えるんは恥ずかしくて」
「えっ?」
南さんが予想外だと驚いた顔をする。
「なんで?どんなアバターにしたの?」
「ゲームやからって調子にのってん。口にするのも恥ずい名前で……」
「なにそれ、逆に超気になるんだけど!」
ねえ、と南さんが黒川くんに同意を求めるものの、黒川くんはちっとも笑ってなかった。
手元にスマホを取り出して何かしていると思ったら、何かを読むかのように目を左右に動かし眉を寄せる。
「……アバター名、設定画面から簡単に変えられるんだけど」
黒川くんの指摘に俺の肩が跳ねる。
黒川くんがゲームの説明画面を俺に突きつける。
「アバター名変えたら?」
「いや、うん……そうなんやけど……」
二人の俺を疑う視線に耐えられなくて、俺は逃げるように下を向く。それでも黒川くんからの視線はずっと感じていて、廊下のここだけ緊張感が高まっていく。
「べっ、別に教えるの嫌ならそれでもいいじゃん!水野とはまた今度教えてもらってから一緒に回るってことで!」
俺たちの険悪な空気を変えるために南さんが明るい声を出して割って入る。
ねっ、と俺に優しい笑みを向けて南さんは黒川くんの隣に立つ。黒川くんの視線が俺から外れる。空気が昼休みの廊下のものに戻る。
「それで黒川くんっ!今度のクエストなんだけど、かすみんとこっちゃんも一緒に行きたいって」
「誰?」
「澤田琴葉ちゃんと高橋香澄ちゃん!黒川くんとは一年でもクラス一緒だったんだけど」
覚えてないの?と責めながらも甘えを滲ませる声で南さんが黒川くんに声をかける。
黒川くんもいつもの顔をして聞く姿勢をみせる。
ゲームの話にうつった二人から俺は静かに距離をとった。
二人は引き続き楽しそうに話している。
俺はどないしたらよかったんやろ。
黒川くんとの間にできた距離に、俺はただ遠くから彼の横顔を見つめるしかなかった。
