『身バレ怖い。結婚詐欺訴訟怖い』
その一心で黒川くんと距離を置こうとした昨日の俺へ。
今日の俺は積極的に、自分で自分の首を絞めにいっています。
「水野イベントクエどこまで進んだ?」
「まだ一本目やな。ラスボス前のヤツ探すので手間取ってる」
「あれこの前も言ったけど平原より山岳地帯の方が出現率高い」
「まじか。黒川くん装備何つけてる?」
「イベント配布のやつ」
「あれ使える?俺的には火力微妙やと思うんやけど」
「あれ単体だと使えないけど、防具のスキルと加工でこのスキルつけたら……」
「…………あー、なるほど!そしたら使い勝手良くなるんや!」
よう知っとるな、と驚く俺の横で黒川くんが得意げな顔になる。
——とはいってもほとんど無表情やけど。
あんなことがあった教室の片隅で、俺たちは朝からスマホ片手に話し込んでいたりする。
なぜこうなったかというと、話は昨夜までさかのぼる。
ゲーム内でレンに会った俺は、速攻レンの違和感に気がついた。
『レンくん、今日なにかあったん?』
そう聞く俺に、レンは驚いたようやった。
『どうしたのモモさん。別に何もないよ』
『嘘や。だってあんま喋らへんもん』
それに、会えてうれしいよ、とも言ってくれへんし。
これはさすがに恥ずかしくて黙っていたが、レンは結婚して以降、最初にかかさずこう言ってくれる。
『話くらいなら聞けるで』
そう送った俺に、しばらくしてからメッセージは返ってきた。
『今日クラスの一人がこのゲームやってるって聞いたんだけど』
『うん』
『協力プレイするのは断られた』
うん?俺の話?
思わずコントローラーを一度置き、目を擦ってからもう一度メッセージ読む。
…………やっぱり俺のことやんな。
画面に表示されている内容に、俺は驚愕する。
つまり、黒川くんはリアルな知り合いと協力プレイしてみたかったってこと?でも誰ともやらないって言っとらんかったっけ?
あまりにもイメージとかけ離れた姿に、俺は首を傾げる。
『レンくんはお友達と一緒にプレイしたかったん?』
『別に』
「ちがうんかい」
思わず画面にむけて突っ込んでしまう。過度にかまえていた自分が恥ずかしくなる。
なら何故、と不思議に思う俺に、レンが理由を教えてくれる。
『モモさんのこと紹介したかった』
その一文に俺は固まってしまう。
紹介?誰に?リアルで?フリーズする俺にレンが続ける。
『この前、モモさんが好きってクラスで宣言してきた。そしたらモモさんのこと皆に見せびらかしたくなった』
『モモさんはこんなに可愛いんだって、誰かに言いたくなったんだ』
これは……結構はずかしい……。
モモに言ってるんだってわかっていても、読んでいる俺まで頬が熱くなってくる。
黒川くん、ここまでモモの中の人が好きなんや。
そこまで情熱をかたむけてくれる彼に、胸の奥が熱くなる。
だが一方で、絶対に俺が中の人だとバレてはいけないと重圧を感じるようになる。
彼は、こんなこと知らなくていい。俺は決意も新たにコントローラーを握る。
『それにプレイ人口が増えたらこのゲームもしばらくは安泰だし。盛り上がっている間は、モモさんもプレイしてくれると思って…………』
画面越しのはずなのに、こちらを伺うような黒川くんが見えた気がした。
これもモテる理由か!彼がモテる理由を身をもって知ることになるとは思わんかった。
『私はやめる予定はあらへんよ』
そう伝えた俺に、レンは画面上で嬉しそうなリアクションをした。
中の人=黒川くんだとわかってから、レンの先に彼を想像してしまう。
結果、動作一つ一つを彼が選んでいるのかと思うと何とも不思議な気持ちになってくる。
意外にわかりやすい人なのかもしれない、俺のなかで黒川くんへの興味が膨らんでいく。
『じゃ、今日も素材集め?』
『あっ、うん。そうしてくれると助かる』
『山岳地帯に行ってみよう』
『レンくん、情報よう知っとるなあ』
そう送った俺に、レンが不思議そうなリアクションをする。
『そう?』
『そうやって。私そこまで情報には詳しくないもん』
『調べるの好きだし。図鑑とか埋めるには一人だと限界もあるし。俺、情報集めたり、探したりするの好きなんだよね』
交流板とかも見てるし、と話す彼に、俺は教室でなぜ声をかけられたかわかった気がした。
なんだかんだ理由をつけてはいるが、結局彼は、誰かとゲームについて語りたいのだ。
典型的なやりこみ厨やなあ、と俺は思わず笑ってしまう。
『明日、もう一度そのクラスメイトと話してみたら?』
俺のメッセージに、画面の中のレンの動きが止まる。こんな事言われても困るか、と昼間見た黒川くんの興味を失った顔が頭に浮かぶ。
でも、俺は黒川くんと話してみたい。だから、ちょっとモモの力を借りることにする。
『その子もびっくりしただけで、本当は話したいかもしれんし』
『…………モモさんがそう言うなら、考えとく』
「素直やなー」
黒川くんの反応に思わず声が出てしまう。
モモの力は偉大や。我がアバターながら影響力がでかい。
「でもこんな卑怯な手使ったんやから、俺も頑張らんとな」
そして俺は、黒川くんが食いつきそうなネタを探しに、さらにゲームに没頭した。
ーーわけなんですが。
当然寝坊するよな!!
熱中しすぎたあまり、気がつけば就寝時間を大幅に過ぎていた。部屋の時計は午前二時をさしており、家の中も静まり返っている。
明日も学校やっちゅーのに!と慌ててベッドに入るが、そこは予定調和のように朝盛大に寝坊した。
またまた遅刻ぎりぎりの電車に滑り込んだ俺は、そこで黒川くんを見つけることができた。
相変わらず、扉にもたれているだけで絵になりすぎる。
同じ車両に乗り合わせた人が何人も彼を気にしていた。
話しかけるタイミングを見計らっている女の子もいた。
けど、俺はそのタイミングよりも一歩先に足を踏み出す。
「おっ、おはよっ!黒川くん」
黒川くんに向けられる視線の中を突っ切って、俺は黒川くんに話しかける。
黒川くんが目を丸くして、耳からワイヤレスイヤホンを取る。
「おはようっ!」
「………………はよ」
「早いなあ黒川くん!」
いや全然早ないねんけどね!遅刻ぎりぎりの電車なんやけども!
同じ学校の人やろうか、複数の視線が俺に集まるのがわかる。
じっとまとわりつく視線に、それでも俺は笑顔で黒川くんを見上げる。
「昨日、ちゃう言うたんやけど、黒川くんと話したいなって思って」
「何が」
「ゲーム…………俺……本当はな……」
俺は一度、乾いた唇を舐める。
「前回のクエストで実装したモンスター武器、レベルマックスにしてん!!」
その瞬間の黒川くんの顔を、俺は一生忘れることはないだろう。
そして冒頭に戻る。
思った通りゲームの話題に食いついてくれた黒川くんは、それはそれは早口で学校につくまで隣で話してくれた。
「装備素材のドロップ率について」
「実装された装備の有用性と効率のよいレベルの上げ方について」
「それぞれの装備の最強装備は何か、またそれに伴うスキルの活用法について」
学校までの道のりでは足らず、靴箱でも、廊下でも話続ける黒川くんに、すれ違う生徒の視線が俺に集まる。
あいつは誰だ?横切る生徒達の声に、一クラスメイトのゲームオタクですよ、と心の中で呟く。
そんな事は知らない生徒達(おもに女子)が、驚愕の顔で俺を見ているのが視界の端にうつる。
その顔はどう見ても、二人を穏やかに見守ってます、とは正反対な顔で、俺は引きつった笑みを浮かべることしかできない。
「じゃ、水野。またあとで。あとで推しスキル何か教えて」
まだ話すことあるんかい。
クラスに着いた黒川くんはそう言うと自分の席へと向かう。そこに待ってましたとばかりに何人かの女子が向かう。
俺なんかが独占してすみませんでした。
そんなことを思いながら俺は自分の席へと向かったわけですが。
「あれ?」
黒川くんに何かを話しかけていた女子達が、皆戸惑った顔をして黒川くんから離れ始める。そして揃って俺を見たかと思うと、一斉に俺の席を取り囲み、にこりとモデル顔負けの可愛らしい笑みを浮かべる。
「水野くん、黒川くんと仲いいんだ」
挨拶も早々に本題にはいるらしい。
初めて話したかもしれない、クラスの一軍グループの中心にいる女子達が小首をかしげて笑う。その笑みに、俺たちを見守っていた男子の何人かが反応したのが空気でわかる。
だが俺の経験則ではあまりうれしい笑みではない。
姉ちゃんが面倒事を押しつけるときと同じ笑みを浮かべる彼女達に、ほかのクラスメイト達が俺たちを遠巻きに見ているのがわかる。彼女達の後ろで、かっちゃん達が俺に心配そうな顔を向ける。
「黒川くんに用事やったんちゃうの?」
「そのつもりだったんだけど、ひと言で終わっちゃって。水野は何の話してたのかなって思って」
「ゲームの話しかしてへんけど……」
「あの黒川くんが昨日言ってたゲーム?」
「水野、あのゲームしてたんだ!」
取り囲む女子達が驚いた顔をしては、隣の人と目配せし始める。
ゲームにそんな反応するか?と不思議に思う俺に、リーダーらしき女の子が興味深そうな目で俺を見る。
「水野くん今日時間ある?昼休みに屋上に続く階段に来てほしいんだ」
疑問形の割にははっきりした口調に、俺はどうするべきかと頭を悩ませる。
俺を呼び出す目的は一つだろう。チャイムが鳴り担任が教室に入ってくる。
クラスの皆が慌てて自分の席に戻り、何人かが教室から出ていく。
やはり他のクラスからも見に来ていたらしい。朝一緒に登校しただけでこうも注目されるとは、黒川くん人気は恐ろしい。
「じゃあ昼休みに」
リーダー格の女の子ーー南さんが自分の席にもどる。
話題の中心である黒川くんを見ると、いつも通り涼しい顔して前の席の男子と話している。
まあゲームの話題以外、俺に興味ないやろうしなあ。
ため息をついて俺は次の授業の準備をする。
そして昼休み、俺は一人指定された階段へ行く。屋上へと続く階段は、校舎の中央、俺のクラスの隣の階段から続いている。
三階からさらに上、屋上まで続く階段をのぼっていくと、屋上の扉の前で既に彼女たちは待っていた。
南さんの他に、三、四人、落ち着かない様子の女子がその場に立っている。
約束通り来た俺に、彼女達は不安と期待が入り混じった顔をむける。
「ごめん、来てくれてありがとう」
「ええよ別に。それで、呼び出した理由は?」
「私達、水野にお願いがあるの!」
南さんの一言に、その場にいた女子たちの目がすべて俺に向く。期待のこもった瞳に、わかってはいたけれど一歩後ずさる。
「私達を黒川くんに紹介してほしいの!」
「無理!」
予想通りのお願いに、俺は思い切り首を振る。
即答の俺に、彼女達が不満そうな顔をする。
「俺は黒川くんとそこまで仲良くはない!」
あくまでゲームの話しかできひん!
そう胸を張る俺に、しかし彼女達はあっさりと「知ってる」と肯定する。
「そこは大丈夫」
「普通に黒川とは喋るし」
「何だったらLINE知ってるし、グループでLINEしてるし」
ねえ、と頷き合う彼女達に、俺のほうが驚きで口を開けてしまう。
俺より断然好感度高くありません?
それゲームで言ったら何個かイベント済ませたくらいの好感度やで?なんて考える俺に、南さんが真のお願いについて説明する。
「ゲーム内で、私達を黒川くんに紹介してほしいの」
ゲーム、と呟く俺に、周りの女子達も追随する。
「ゲームも始めたの!」
「だから黒川くんとゲーム内でフレンドになりたいの!」
お願い!と口を揃えて俺を見る彼女達に、ようやく俺は呼び出された理由に納得する。
つまりゲーム内で、俺を通して黒川くんに近づきたいわけか。
一晩でアカウント作った彼女達の、恋心からの行動力に感心する。
だが。
「それなら黒川くん、直接言ったらフレンドになってくれるんちゃうん?」
俺の予想に反し、彼女達は暗い顔になる。
「LINEで伝えてみたけど、『そう』のひと言だけ」
「こっちのアカウントに興味なし」
悲しそうにそう呟く子に、俺も黒川くんの意外な対応になんでだろうと首を傾げる。
「レベル低すぎて同じクエスト無理だからって」
「ああー……。彼、古参組やしレベル高いからなあ」
あのやり込み厨。
彼が断る理由に納得する。そもそも彼のレベルだと、彼女達が参加する初級クエストを選択できない可能性すらある。
逆に黒川くんのクエストに参加しようと思ったら、まずそれ相応のレベルが必要になる。
「黒川くんと同じクエストに出るには、レベルってどれくらい必要なの」
それでも努力の姿勢を見せる彼女達に、俺はこれを伝えることを申し訳ない気持ちになる。
「とりあえず三桁は欲しいなあ……」
「三桁って」
「100台。数カ月はかかるやろうなあ」
数カ月……と言葉を無くす彼女達に俺も暗い気持ちになる。
「でもっ、交流なら低レベルでもできるんじゃ……」
「彼、交流メイン層ではないんやないかな……」
俺の分析は皆も考えていたようで、また重い空気がその場に流れる。
ゲームを通じて黒川くんと仲良くなるまでの道のりは長いようだ。
「水野のレベルはいくつなの?」
南さんに聞かれ、俺はどきりとする。
モモ自体はレベル三桁だ。何だったら黒川くんより上だったりする。
だけどこの場でモモの話は出せない。どうしよう、と悩む俺の後ろから、誰かが階段を上がってくる足音が聞こえる。
「水野」
俺を呼ぶ低い声に、南さんたちが反応する。
「黒川くん!」
「なんでこんなとこにいんの。スキルの話するって言ったじゃん」
あれ約束やったんかい。無表情の割に拗ねた声で黒川くんが俺に言う。
「早く」
そう言って南さん達を見ることもなく、黒川くんは階段を降りていく。
頭の中はゲームのことでいっぱいなのだろう。教室に戻ろうとする黒川くんに、俺は隣にいる南さん達を見る。
じっと黒川くんの背中を見つめるだけで、誰も声をかけようとはしなかった。
遠慮を見せるその姿に、俺は我慢できなくなって思わず黒川くんに声をかける。
「黒川くん!」
黒川くんが足を止めて、俺たちを振り返る。
「南さん達もアストラル・ゲート・オンライン始めたんやって!プレイ人口増えるのうれしいなあ」
そう言った俺に、黒川くんが片眉を上げる。南さん達から戸惑った声が漏れる。
「南さん達、これからレベル上げ頑張るんやって!もしかしたらあっという間に黒川くんのレベルに並ぶかもな」
な、っと南さんをみたら、南さんがおずおずと頷く。
「そしたら皆でクエストしたいな。人数が多いほうが進めるの楽になるし。皆で装備話し合って、現実で作戦立てられたら絶対楽しいやん」
なあ、と黒川くんに振ると、黒川くんが南さんたちを見上げる。黒川くんの視線を受けた南さんたちがたじろぐ。
「……南達、そこまでレベル上げするつもりなの?」
声をかけられ南さん達が驚いた顔になる。
じっと見つめる黒川くんに戸惑いながら、それでも彼女達は力強く頷く。
「うんっ、私もレベル上げ頑張る!」
「ゲーム面白そうだし、ちゃんと進めるよ!」
「だから、レベル上げたら、一緒にプレイしてくれる?」
不安そうに口々にそう言う彼女たちに、黒川くんの無表情が反応する。
ふっと柔らかくなった雰囲気に、俺たちは全員息を呑む。
黒川くんが、目元を緩めて彼女達に笑いかける。
「待ってる」
イケメンの微笑みの威力はえらいもんやった。
顔を赤くして言葉を無くした彼女達を放置し、黒川くんは俺に視線を向けるとさっさと来いと促す。
俺も余韻で足が動かなかったが、黒川くんに促されどうにか足を動かす。
「じゃ、頑張ってな」
俺は早足で階段を降りて黒川くんに並ぶ。
それでスキルのことだけど、と話しだした黒川くんに、俺は一つ疑問が浮かぶ。
俺、自分のレベル明かしてない。
なのに何で黒川くんは俺は相手にするんだろ。
「なに?」
「うんっ!?いや、なんで黒川くんは俺は誘ってくれるのかと思って」
俺、モモってことも、レベルも何も明かしてないのに。
改めて考えると、秘密にしている情報が多すぎる。
しかしそんな俺の悩みなど、彼にとっては些末なことだったらしく、黒川くんが呆れ顔でため息をつく。
「水野、レベル三桁はいってるだろ」
「なんで知ってっ!?」
「武器レベルマにしようと思ったら、高難易度クエの素材必要になるだろ」
しかも複数個、と言われて合点がいく。
高難易度クエに参加するには一定以上のレベルがいる。そして俺は朝、武器のレベルマを達成したと宣言した。
つまり、自分はそれなりにやりこみ勢ですと宣言したわけだ。
「なるほどー」
「水野のレベルだと、だいたい俺と同じクエスト難易度だろ」
むしろ上の可能性もある、とまで看破されてしまった。そう言われて、俺は「当たり」と心のなかでかえす。
黒川くんは俺が思うよりずっと推理力が高い。
「だからアバター名教えてほしいんだけど」
「それはちょっと勘弁してほしいっちゅーか」
恥ずかしいやん、と誤魔化す俺に黒川くんは分かりやすくむっとした顔になる。
だが黒川くんはそれ以上追及することなく、機嫌を直して喋り続ける。朝より少し早口で、口角の上がった顔に俺はピンとくる。
「……もしかして機嫌いい?」
「なにが」
「黒川くん。今日めっちゃ機嫌いいな」
不思議そうな顔をする黒川くんに、笑顔やもん、と俺は自分の口元を指す。
にこにこさんやな、と付け加えると、黒川くんの頬が赤く染まる。黒川くんは色が白いから赤い色がよく分かる。
「プレイ人口も増えてゲームも賑わうし、モモさんもよろこんでくれるんちゃう?」
そう言ってから、俺は遅れて自分が口を滑らせたことを自覚する。
なんで俺がモモのレンの会話知ってるんや。
案の定気になったらしい黒川くんが足を止める。
「なんでモモさん?」
切れ長の黒い瞳が、真意を探るように俺を見つめる。俺は冷や汗を流しながら、それはほらっ、と明るい声を出す。
「黒川くんといえばモモさんやん!それに誰だってプレイ人口増えるのはうれしいし、人気ってことはそれだけ長く遊べそうってことやし」
皆考えるやろ!と主張する俺を黒川くんは訝しげな顔で見る。
それに笑みを返しつつ、俺は必死に別の話題を探す。
「そういえば、今回のイベ武器のレベルどこまでいった?」
そう聞けば、黒川くんの表情が変わる。
いそいそと話し出す彼の隣で、俺はさっきまでの会話を思い出し、心にちくりと棘が刺さる。
つまり俺はレベルが高いから相手してもらえてるんか。
もし、俺もモモもレベルが低かったら、黒川くんには見向きもされていなかったんやろうか。
「遠距離近距離調整して作戦考えられるのは楽かも。といっても、南達そこまで続けるのか」
「続けるかもしれへんよ。黒川くんとも語っちゃうかも」
「それは………」
そこで言葉を切ったけれど、黒川くんの顔はうれしそうやった。
やりこみ厨の考察好きだ。そりゃ討論も情報交換も大好きだろう。
もし南さん達のレベルが上がったら、彼女達ともこんなふうに話すんやろうな。
隣の黒川くんを見る。既に心はゲームのことに向かっているらしく、何事か深く考えている。
黒川くんが他の子達に、こんなふうに一生懸命ゲームについて話す。
想像して、またちくりと心が痛む。一方で秘密を抱えている心は、離れるべきだと俺に訴えてくる。
「水野?なんかぼうっとしてるけど」
「んー?別になーんもないで」
これからどうなるかなんてわからない。
ならレベルを上げた誰かがこの席につくまで、もうちょっとだけ俺はここにいさせてもらおう。
「じゃ、また明日」
そう言って俺は車内にいる黒川くんに手を振る。学校からの帰り道、黒川くんの降りる駅は俺の降りる駅よりもう少し先だ。
「ん」
と、黒川くんが小さく反応する。
電車が去っていくのを見送り、俺は改札を抜ける。
家までの道すがら、今日あったことを思い出す。
南さん達は今頃ゲームをプレイしているのだろうか。
追いつくまで時間はかかるが、レベルを上げる方法なんて調べればいくらでもある。
「……もしかしたら早いかもなあ」
彼女達が俺達に追いつくのも。
俺がこの場所を退くのも。
そうはいっても簡単にモモはやられへんよーっなんて考えながら、俺は玄関のドアを開け、そこに並ぶ靴をみて思いなおす。
ちがった、ラスボスは別にいた。
靴を脱ぎリビングへと向かう。そこには、長い茶髪を揺らす一人の女性。女性の手にはコントローラーが握られている。
正面のテレビではアストラル・ゲート・オンラインがプレイされていて、モモが杖片手に微笑んでいる。
「おかえりっ!ねえ湊、モモまた強くなった?」
振り向いた女性が俺に笑いかける。猫みたいに丸い宝石みたいな瞳が輝く。
俺の姉、水野 凪。
モモのもう一人の「中の人」である。
