秋晴れのもと行われたリアルイベントは、俺が想像していたものよりずっと爽やかで賑やかなものだった。
「めっちゃ広……」
「すごいっ!あそこに水龍の巨大オブジェあるやん!」
「あれ等身大なんかなあ」
「だとしたらめっちゃでかいんやなあ」
屋外に設置されたその会場は東京ドーム何個か分という広大なもので、その中に、特設ステージにモンスターのオブジェにフォトスポット、ショップといったゲーム関連のものがいくつか設置されている。さらにはキッチンカーがずらりと並び、テーブルやベンチがあるのはもちろん、交流スペースやギルドの待ち合わせ場所として、おしゃれなテントが芝生のうえにいくつか建ててある。そんな広い敷地内に、数え切れないほどの人がいる。
テレビで見たフェスの会場のような雰囲気に、俺のテンションは自然と上を向いてくる。
「うちのギルドどこやっけ」
「えーっと、交流スペースのAの2番やね」
入り口で渡されたマップ片手に、姉ちゃんとギルドのチャットを確認する。久しぶりにリアルイベントが開催されるに伴い、ギルド内でもオフ会の話が出ていた。
入り口では、入場券と引き換えにもらったリストバンドをつけてもらった。
さらに姉ちゃんにはアバター名とIDとギルドのマークが書かれたカードがわたされた。姉ちゃんはそれをホルダーに入れると、首から下げて持ち歩いている。会場内を見渡すと、同じようにカードをさげた人が大勢いる。
「湊ももらえたらよかったんやけど」
「しゃーない。ひとつのIDにつき一枚やもん」
俺と姉ちゃんはひとつのIDを共有しているため、俺はカードを貰えない。
これがギルド内での名刺兼証明書になるらしく、それが無い俺はやっぱおまけなんやな、とこんなところでも痛感する。
「それで友達は?」
「……まだみたい」
「じゃあ先にギルドの方いっとこうか」
会場内は人でごった返しており、その中から黒川くんを見つけるのは難しそうだった。
ギルド内のチャットを確認すると、レンから「入場列に並んでる」と送られている。
黒川くんがここに来てくれたことに俺はほっと胸をなでおろす。
先日、黒川くんと姉ちゃんを会わせることに決めた俺は、日曜に開催されるリアルイベントに二人を誘った。
教室で声をかけた俺に、黒川くんは大層驚いた顔をした。そしてうれしそうな顔をしたが、アバターの話じゃないと分かるとすぐにいつもの無表情になった。しかしリアルイベントのことを話すと「行く」と即答してくれた。
二人を誘い出すことに成功した俺は、待ち合わせ場所をうちのギルドに決めた。黒川くんは不思議がっとったけど、それでも俺の勢いに最後は了承してくれた。
ギルドのテントにつくと、そこにはもう十数人ほどの人がいた。
それぞれゲームをしたり喋ったりと楽しそうに過ごしており、和やかな雰囲気に俺は密かにほっと息を吐く。
「いらっしゃい!……ってモモさん?!」
「はじめまして。えーっと、……あっ、きのこさんですか!?」
俺達に気がついて声をかけてくれた三十代くらいの男性が、姉ちゃんの持っているIDカードを見て驚きの声を上げる。
男性の首から下げたカードには「きのこ@旬」と書かれており、俺と姉ちゃんも驚いて、男性の顔とIDカードを何度も見比べる。
「いやー……モモさん、なんというかイメージ通りの子だなあ」
「私はきのこさんのこと、もっと年上の人かと思ってました」
「ははっ、それさっきあっちにも言われた」
きのこさんが笑顔で、顎で中にいた仲間たちを示す。
テント中央に置かれた高い丸テーブルの周りには数人の男女が集まっており、皆一様に俺達を見ては微笑んで手を振ってくれる。
「はじめまして、モモです」
「voidです。モモさんイメージそのまま!」
「米一粒です!やっぱ可愛い人だった!」
二人の感想が、俺の心に深く突き刺さる。
ほかの人も口々に姉ちゃんの見た目を褒めちぎる。想像通り、その言葉に俺は居心地悪くなり姉ちゃんの影に隠れる。
「あれっ、そっちは弟くん?」
その瞬間、後ろから「こんにちは」と黒川くんの声が聞こえて、俺はその場から逃げ出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんにちは」
テントの中の人に声をかけると、「どうぞ」と中から歓迎する声が聞こえた。
「あの、ここってギルドの……」
「そうだよ!君も我がギルド『きのこ酒場』のメンバーかい?」
「ええ、まあ……」
意気揚々と話しかけてきた三十代くらいの男性に、俺は思わず一歩後ずさる。下げられた名札を見ると「きのこ@旬」と書かれており、誰かわかって俺は背筋を伸ばす。
「はじめまして、レンです」
「きのこです。へえ、君がレンくんか!」
若いねえ!と盛り上がるきのこさんが俺の肩をバンバン叩く。きのこさん以外にもメンバーは何人かいて、その人達が俺達の周りに集まりだす。
「レンくんだー!想像より若い!!」
「イケメン君だ!あっ、私ぷっちんね」
「俺GONね。レンとは何回かクエスト一緒したよな」
「ggrです。やっべ若すぎて何話していいかわかんねえ」
明らかに社会人の人々に囲まれ、俺はどうしていいかわからず、とりあえず頭を下げる。
イケメンだね、よろしく、と笑顔で声をかけてもらえて、体が軽くなっていく感覚に緊張が解けてきたことを実感する。
「俺、皆さんに会えてうれしいです」
そう伝えれば、皆笑顔で「私も」と返してくれる。
それから少し装備やクエストの話をしていると、きのこさんが何かを思い出したようにテント内を見渡す。
「そういえばさっきモモさんも来てくれて」
モモさん。
その名前に、俺の心臓は大きく音を立てる。
モモさん。俺のずっと会いたかった人。
浅くなる呼吸に、ボディバッグの紐をきつく握る。
「あのっ、モモさんはどこに……」
「あーっと、確かあそこらへんに。あっ、いた!おーいモモさーん」
きのこさんが大きな声でモモさんを呼ぶ。
その声に、近くで輪になっていたうちの一人の女性が反応する。
「どうしたんですかきのこさん」
「レンくん!来てくれたから!」
「えっ!?」
驚いた声とともに、その女性が俺の近くまでやってくる。
その姿に、俺の喉からは声にならない声が漏れる。
「はじめまして!モモです」
そう言って笑った人は、女性であり、水野の姉さんだった。俺は予想外すぎる姿に、頭の中が真っ白になる。
だってモモさんは男で、年上で、たぶん既婚者って思っていて。ぐちゃぐちゃになる頭の片隅で、笑った時に細められる目元が水野とよく似ていると思った。
「おーい、レンくん」
「……っ!はじめまして、レンです!」
「モモです。いつも付き合ってくれてありがとう」
モモさんに微笑まれ、俺はなんと返したらいいかわからなくてとにかく頭を下げる。
本当にこの人か?違和感しか感じないが、さすがにそれを口にするのは憚られる。
頭を上げた俺に、モモさんはまた微笑んでくれて勝手に頬が赤くなっていく。
モデルみたいに美人な女性に微笑まれて緊張するのは当然のことだと思う。
言葉を無くす俺を、にやにやした顔できのこさんがつつく。
「若いねえ」
「っ!仕方ないじゃないですか!俺、モモさんこんな美人って知らなくて」
「レンくんもこんなに格好良かったんだね。私のほうこそ緊張しちゃうよ」
「わかる。レンくんあまり交流に参加しないからさー」
そこから普段の交流の話になっていくのを聞きながら、俺はちらりと横に立つモモさんを見る。モモさんは、首から「モモ」と書かれたIDカードをさげていた。だから確かに「モモ」なのだが、俺のなかで違和感がぬぐえない。
だってモモさんは、たぶん男性で、こんなキラキラした感じじゃなくて。
言葉に表しにくいもどかしさに、俺は一人頭を悩ませる。
「どうしたレンくん」
「どうしたの?」
「つ、いや、……皆さん、ちょっと意外だなって思って……」
俺の正直な感想に、その場にいた人たちは互いに顔を見合わせ納得した顔で笑う。
「わかるっ!きのこさんもっと変な人だと思ってた」
「私も!むしろ菌類だってたまに思うときあった!」
「俺は純粋なるきのこ推しです!」
「だからってきのこ@胞子散布中はそうそうしないですよ」
そうモモさんが話した瞬間、俺のなかでモモさんに感じていた違和感の正体がひとつわかった。
関西弁じゃない。ゲームのなかでモモさんはこんなふうに話さない。
「どうしたの、レンくん」
「つ、ああ、いや」
思わずじっと見てしまった俺に、モモさんが微笑みながら尋ねてくる。
正直に話していいものだろうか。関西弁、と考えた瞬間、俺にもう一つの疑問が浮かぶ。
水野は?
俺をこのイベントに誘ったあいつは、この待ち合わせ場所に姿を見せていない。でも水野の姉さんはここにいる。
しかもモモさんの中の人で、だから水野はきっと俺をここに呼んだ。
「……今日は、関西弁で、話さないんですね」
疑問を口にした俺に、モモさんは合点がいったらしく笑う。
「うん。関西出身だけど、私は最近は抜けてきてて。でも弟の方は関西弁だから、モモも関西弁でよく話してて」
その言葉に、俺は頭を強く殴られたような衝撃を受けた。俺のなかの「モモさん」についてひとつの可能性が生まれる。
俺の知るモモさんは、関西弁で、よく話して、だけど1文ずつは短くて、俺の周回に付き合ってくれて、口癖は「しゃーない」で、交流のときは頑張って可愛らしくおしゃれして喋ってて、だけどクエストになったら性能に全振りで、それで、俺に「好きって言ってほしい」とお願いしてくれて。
それってつまり、俺が好きなモモさんはつまり――。
「そういえば、モモって日によってキャラ違うよね」
「ああそれ、モモは私と弟の二人で一緒に使ってて」
「だからクエストのとき口調ちがうんだ」
「私操作できないからクエストは弟に丸投げで」
「交流のときはお姉さんが?」
「そうです。私がやってました。でもここ最近バイトもあったから、ログインしているときはほとんど弟で――」
そこまで聞いて、俺は衝動的に走り出した。
モモさん――水野を捕まえるために。
「めっちゃ広……」
「すごいっ!あそこに水龍の巨大オブジェあるやん!」
「あれ等身大なんかなあ」
「だとしたらめっちゃでかいんやなあ」
屋外に設置されたその会場は東京ドーム何個か分という広大なもので、その中に、特設ステージにモンスターのオブジェにフォトスポット、ショップといったゲーム関連のものがいくつか設置されている。さらにはキッチンカーがずらりと並び、テーブルやベンチがあるのはもちろん、交流スペースやギルドの待ち合わせ場所として、おしゃれなテントが芝生のうえにいくつか建ててある。そんな広い敷地内に、数え切れないほどの人がいる。
テレビで見たフェスの会場のような雰囲気に、俺のテンションは自然と上を向いてくる。
「うちのギルドどこやっけ」
「えーっと、交流スペースのAの2番やね」
入り口で渡されたマップ片手に、姉ちゃんとギルドのチャットを確認する。久しぶりにリアルイベントが開催されるに伴い、ギルド内でもオフ会の話が出ていた。
入り口では、入場券と引き換えにもらったリストバンドをつけてもらった。
さらに姉ちゃんにはアバター名とIDとギルドのマークが書かれたカードがわたされた。姉ちゃんはそれをホルダーに入れると、首から下げて持ち歩いている。会場内を見渡すと、同じようにカードをさげた人が大勢いる。
「湊ももらえたらよかったんやけど」
「しゃーない。ひとつのIDにつき一枚やもん」
俺と姉ちゃんはひとつのIDを共有しているため、俺はカードを貰えない。
これがギルド内での名刺兼証明書になるらしく、それが無い俺はやっぱおまけなんやな、とこんなところでも痛感する。
「それで友達は?」
「……まだみたい」
「じゃあ先にギルドの方いっとこうか」
会場内は人でごった返しており、その中から黒川くんを見つけるのは難しそうだった。
ギルド内のチャットを確認すると、レンから「入場列に並んでる」と送られている。
黒川くんがここに来てくれたことに俺はほっと胸をなでおろす。
先日、黒川くんと姉ちゃんを会わせることに決めた俺は、日曜に開催されるリアルイベントに二人を誘った。
教室で声をかけた俺に、黒川くんは大層驚いた顔をした。そしてうれしそうな顔をしたが、アバターの話じゃないと分かるとすぐにいつもの無表情になった。しかしリアルイベントのことを話すと「行く」と即答してくれた。
二人を誘い出すことに成功した俺は、待ち合わせ場所をうちのギルドに決めた。黒川くんは不思議がっとったけど、それでも俺の勢いに最後は了承してくれた。
ギルドのテントにつくと、そこにはもう十数人ほどの人がいた。
それぞれゲームをしたり喋ったりと楽しそうに過ごしており、和やかな雰囲気に俺は密かにほっと息を吐く。
「いらっしゃい!……ってモモさん?!」
「はじめまして。えーっと、……あっ、きのこさんですか!?」
俺達に気がついて声をかけてくれた三十代くらいの男性が、姉ちゃんの持っているIDカードを見て驚きの声を上げる。
男性の首から下げたカードには「きのこ@旬」と書かれており、俺と姉ちゃんも驚いて、男性の顔とIDカードを何度も見比べる。
「いやー……モモさん、なんというかイメージ通りの子だなあ」
「私はきのこさんのこと、もっと年上の人かと思ってました」
「ははっ、それさっきあっちにも言われた」
きのこさんが笑顔で、顎で中にいた仲間たちを示す。
テント中央に置かれた高い丸テーブルの周りには数人の男女が集まっており、皆一様に俺達を見ては微笑んで手を振ってくれる。
「はじめまして、モモです」
「voidです。モモさんイメージそのまま!」
「米一粒です!やっぱ可愛い人だった!」
二人の感想が、俺の心に深く突き刺さる。
ほかの人も口々に姉ちゃんの見た目を褒めちぎる。想像通り、その言葉に俺は居心地悪くなり姉ちゃんの影に隠れる。
「あれっ、そっちは弟くん?」
その瞬間、後ろから「こんにちは」と黒川くんの声が聞こえて、俺はその場から逃げ出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんにちは」
テントの中の人に声をかけると、「どうぞ」と中から歓迎する声が聞こえた。
「あの、ここってギルドの……」
「そうだよ!君も我がギルド『きのこ酒場』のメンバーかい?」
「ええ、まあ……」
意気揚々と話しかけてきた三十代くらいの男性に、俺は思わず一歩後ずさる。下げられた名札を見ると「きのこ@旬」と書かれており、誰かわかって俺は背筋を伸ばす。
「はじめまして、レンです」
「きのこです。へえ、君がレンくんか!」
若いねえ!と盛り上がるきのこさんが俺の肩をバンバン叩く。きのこさん以外にもメンバーは何人かいて、その人達が俺達の周りに集まりだす。
「レンくんだー!想像より若い!!」
「イケメン君だ!あっ、私ぷっちんね」
「俺GONね。レンとは何回かクエスト一緒したよな」
「ggrです。やっべ若すぎて何話していいかわかんねえ」
明らかに社会人の人々に囲まれ、俺はどうしていいかわからず、とりあえず頭を下げる。
イケメンだね、よろしく、と笑顔で声をかけてもらえて、体が軽くなっていく感覚に緊張が解けてきたことを実感する。
「俺、皆さんに会えてうれしいです」
そう伝えれば、皆笑顔で「私も」と返してくれる。
それから少し装備やクエストの話をしていると、きのこさんが何かを思い出したようにテント内を見渡す。
「そういえばさっきモモさんも来てくれて」
モモさん。
その名前に、俺の心臓は大きく音を立てる。
モモさん。俺のずっと会いたかった人。
浅くなる呼吸に、ボディバッグの紐をきつく握る。
「あのっ、モモさんはどこに……」
「あーっと、確かあそこらへんに。あっ、いた!おーいモモさーん」
きのこさんが大きな声でモモさんを呼ぶ。
その声に、近くで輪になっていたうちの一人の女性が反応する。
「どうしたんですかきのこさん」
「レンくん!来てくれたから!」
「えっ!?」
驚いた声とともに、その女性が俺の近くまでやってくる。
その姿に、俺の喉からは声にならない声が漏れる。
「はじめまして!モモです」
そう言って笑った人は、女性であり、水野の姉さんだった。俺は予想外すぎる姿に、頭の中が真っ白になる。
だってモモさんは男で、年上で、たぶん既婚者って思っていて。ぐちゃぐちゃになる頭の片隅で、笑った時に細められる目元が水野とよく似ていると思った。
「おーい、レンくん」
「……っ!はじめまして、レンです!」
「モモです。いつも付き合ってくれてありがとう」
モモさんに微笑まれ、俺はなんと返したらいいかわからなくてとにかく頭を下げる。
本当にこの人か?違和感しか感じないが、さすがにそれを口にするのは憚られる。
頭を上げた俺に、モモさんはまた微笑んでくれて勝手に頬が赤くなっていく。
モデルみたいに美人な女性に微笑まれて緊張するのは当然のことだと思う。
言葉を無くす俺を、にやにやした顔できのこさんがつつく。
「若いねえ」
「っ!仕方ないじゃないですか!俺、モモさんこんな美人って知らなくて」
「レンくんもこんなに格好良かったんだね。私のほうこそ緊張しちゃうよ」
「わかる。レンくんあまり交流に参加しないからさー」
そこから普段の交流の話になっていくのを聞きながら、俺はちらりと横に立つモモさんを見る。モモさんは、首から「モモ」と書かれたIDカードをさげていた。だから確かに「モモ」なのだが、俺のなかで違和感がぬぐえない。
だってモモさんは、たぶん男性で、こんなキラキラした感じじゃなくて。
言葉に表しにくいもどかしさに、俺は一人頭を悩ませる。
「どうしたレンくん」
「どうしたの?」
「つ、いや、……皆さん、ちょっと意外だなって思って……」
俺の正直な感想に、その場にいた人たちは互いに顔を見合わせ納得した顔で笑う。
「わかるっ!きのこさんもっと変な人だと思ってた」
「私も!むしろ菌類だってたまに思うときあった!」
「俺は純粋なるきのこ推しです!」
「だからってきのこ@胞子散布中はそうそうしないですよ」
そうモモさんが話した瞬間、俺のなかでモモさんに感じていた違和感の正体がひとつわかった。
関西弁じゃない。ゲームのなかでモモさんはこんなふうに話さない。
「どうしたの、レンくん」
「つ、ああ、いや」
思わずじっと見てしまった俺に、モモさんが微笑みながら尋ねてくる。
正直に話していいものだろうか。関西弁、と考えた瞬間、俺にもう一つの疑問が浮かぶ。
水野は?
俺をこのイベントに誘ったあいつは、この待ち合わせ場所に姿を見せていない。でも水野の姉さんはここにいる。
しかもモモさんの中の人で、だから水野はきっと俺をここに呼んだ。
「……今日は、関西弁で、話さないんですね」
疑問を口にした俺に、モモさんは合点がいったらしく笑う。
「うん。関西出身だけど、私は最近は抜けてきてて。でも弟の方は関西弁だから、モモも関西弁でよく話してて」
その言葉に、俺は頭を強く殴られたような衝撃を受けた。俺のなかの「モモさん」についてひとつの可能性が生まれる。
俺の知るモモさんは、関西弁で、よく話して、だけど1文ずつは短くて、俺の周回に付き合ってくれて、口癖は「しゃーない」で、交流のときは頑張って可愛らしくおしゃれして喋ってて、だけどクエストになったら性能に全振りで、それで、俺に「好きって言ってほしい」とお願いしてくれて。
それってつまり、俺が好きなモモさんはつまり――。
「そういえば、モモって日によってキャラ違うよね」
「ああそれ、モモは私と弟の二人で一緒に使ってて」
「だからクエストのとき口調ちがうんだ」
「私操作できないからクエストは弟に丸投げで」
「交流のときはお姉さんが?」
「そうです。私がやってました。でもここ最近バイトもあったから、ログインしているときはほとんど弟で――」
そこまで聞いて、俺は衝動的に走り出した。
モモさん――水野を捕まえるために。
