とある館の初雪草

 私は誇り高きブルースター家の現当主、マリア・ブルースター。
 代々続く名門の血を引き、夜の世界を統べる者としての威厳を背負っている。この屋敷の空気は、いつだって静謐で、重厚で、そして私にふさわしい。
 今日も私は、人間の生き……
 
「おねーさまー!」

「……あら、フローラ。どうしたの?」

「見て!人間の姫!」

「何やってるの!?」

 私の最愛の妹、フローラ・ブルースターが引きずって連れてきたのは、すやすやと眠る人間の姫。

「人間の姫を攫ってきたの」

「なんで!?」

「なんとなく」

「なんとなくって何よ。それに人間は引きずるものじゃないわ」

 なんとなく……。何そのサラみたいなセリフ。人間の姫って魔王様が攫うものじゃなかったっけ……?魔王様に怒られちゃうじゃない。
 フローラは、仕方ないという顔で人間の姫をお姫様抱っこする。うーん、この姫殺そうかしら。私だってやってもらったことないのにこんなぽっと出の奴がお姫様抱っこを無事にしてもらって終われるとは思わないことよ。
 ……いけないわね、感情が高ぶって少し翼が持ち上がってしまったわ。フローラを怖がらせちゃいけないもの、押さえないと。

「いい?フローラ。人間の姫はなんとなくで攫ってはいけないの」

「なんで?」

「人間界の法律的に犯罪になるからよ」

 フローラは、ムッとした顔で言った。

「でも、お姉様は人間の生き血を吸いまくるじゃない。それは犯罪にならないの?」

「……っそ、それは……。そ、それに!魔族と人間の関係が悪くなっちゃうでしょ!」

「昔から争ってるじゃん」

「そ、そうだけど……」

「ねっ?」

 そうだけどそうじゃないのよね……。仮に攫うのが魔王様だけの役割でなかったとしても、姫を攫うと勇者が助けに来るっていうのがお決まりの世界なのよ、ここは。
 私が勇者の相手をするとか……めんどくさすぎるのよね、ハッキリ言って。

「大丈夫!私が責任を持ってお世話するから!」

「ペットかなにかかしら?」

 思わず突っ込んでしまった。フローラは気にせず続ける。

「ちなみにね、この人間の姫はローズっていうんだって。ローズ・ポピー。かわいいよね!」

「そうね……」

 名前……そのまんまなのね。というか、姓も名も花の名前なのね。それと、寝てるからポピーなのね。白いポピーって、花言葉、眠りと忘却だものね。この姫、白いドレス着てるし。物忘れも激しいのかしら……。それに未だに姫寝ているし。

「お姉様、声に出てるよ」

「あら、そうだったかしら?」

「うん。それとね、そんなにすぐ花言葉思いつく人いないから、そのまんまの名前じゃないと思うよ」

「そう……」

「それに苗字だしね」

「……それもそうね」

 私は、そういえば、と話をきり出す。

「勇者の相手をしなくちゃいけないのは、もちろんわかってるわよね?」

「……あ」

 フローラは、途端に青ざめる。

「勇者のこと、忘れてたのかしら……?」

「うっ……」

 フローラは、少しの間、明後日の方向を見ていたが、何か思いついたようで、ぱっと顔を輝かせる。

「わかった!一度姫を返してきて、戻ったよーってさせるの。それで、魔術師に頼んで記憶をいじらせてもらって」

 そんな有能な魔術師、すぐに見つかるとでも思ってるのかしら。

「というかね、人間の姫を攫うのは基本的に魔王様の仕事だかラ奪っちゃいけないのよ。今度、姫を魔王様に預けに行くからね」

「わかった。じゃあ、魔王城に返して、そのあと姫をもう一度攫えばいいんじゃないかしら!」

「だから攫うなってば!」