腹黒な後輩に秘密を握られました~姫化するしか、なさそうです

 その日の放課後。
 入江宅でいつものように勉強を教えていると、急に入江が机に突っ伏して、上目遣いで俺を見る。

「テストでいい点とったら、ご褒美くださいよ」
「褒美? 教えてる俺が報酬をもらう側だろ」

 何を突然言い出すかと思えば……。
 家庭教師におねだりする王道のやつだろ、これ。

「じゃあ、〝お疲れ会〟ってことで、二人でどっか遊びに行きましょ‼ ね? そしたら、俺がその日は全部奢るんで!」
「は? 全部って……」
「バイトしてるんで、遊ぶ金はたんまりとあるんで」

 目を輝かせ、甘えるように俺の顔を覗き込む。
 勉強を教えるのは週に二回。
 それ以外の日は、例のカフェでバイトしていると言っていたから、それなりにお金は持っているのかもしれないが……、後輩に奢ってもらうってのもな。

「お金は自分で出すよ」
「ッ!? じゃあ、デートしてくれるんですね!」
「は?」

 今こいつ、『デート』って言ったか?

「あ、間違えた。デートじゃなくて、男子会っすね! ま、どっちだっていいじゃないですか!」

 入江は嬉しそうにスマホのカレンダーを開く。
 なんか、調子狂うな。
 完全に恋人とデートの日取りを決めてるような……って、俺何考えてんだ?
 こいつは男で、俺も男で。
 そもそも、男同士で単に遊びに出かけるだけなのに……。

「一応、念を押しておくが、八十点以上の科目が五科目以上ないとダメだからな?」
「八十点以上が五科目ですね!? 言質取りましたよ? 男に二言は無いですからね!」
「わ、……わかってるよ」
 
 なんなんだ、こいつは本当に。
 八十点以上が五科目だぞ……? 
 確かに勉強の呑み込みはいい方だと思うが、八十点以上を五科目以上と言ったら、かなりハードルが高いと思うのだが……?
 
 ま、俺はどっちでも……。
 夏休みに男友達とどこかに出かけるだけ……そんなもんだろ。
 
 俺の快諾で火が付いたのか、入江は真剣な表情で英語の長文を解き始めた。
 そんな入江をじっと見据え、意外にも爪が綺麗なこととか、シャーペンの持ち方が綺麗なこととかを知る。

「観覧料、取りますよ?」
「……っ!」

 じっと見ていたのがバレたようで、ちょっと気まずい。

「しゅ、集中して勉強しろ」

 気まずさを誤魔化すように、筆箱からシャーペンを取り出して、数学の問題を解こうとした、次の瞬間。入江にガシッと腕を摑まれた。

「なっ、……何だよ」
「先輩、部分トレードしましょ」
「……は?」
「ちょっとコレ借りますね」

 俺の手からシャーペンを抜き取った入江は、鼻歌交じりに分解し始めた。
 そして、自分の筆箱から色違いのシャーペンを取り出し、それも分解して、なんと、ペン先の部分と頭の消しゴムカバーの部分のパーツを入れ替え、色がちぐはぐの、リンクコーデみたいなシャーペンをつくり出した。

「ジャーン。俺、天才じゃありません?」
「……っ」

 なんなんだ、本当にこいつは‼
 バカップルがしそうな……そんなことを俺にすんのかよ!
 なのに、何でだろう……。
 俺よりデカいこいつを、不覚にも……〝かわいい〟と思ってしまった。
 いや、きっと気のせいだ……!