「王子~、購買行く~?」
「あ、いや、今日はいい。これ、見てもらわないとならないから」
「そっか。じゃあ、行ってくるな」
「おう、行ってら~」
一学期の期末試験直前の金曜日の昼休み。男友達が声をかけてきたが、俺はやんわりと断った。
俺の手には一冊のファイルが握られている。
男友達には、いかにも職員室にファイルを提出するみたいな感じで言ったけれど、実は違う。
俺はスマホとファイルを手にして、教室を後にした。
職員室を通りすぎて、教職員の通用口脇にある屋外の非常階段。
普段人気のないそこは、俺の秘密基地的な特別な場所。
その非常階段を半階上り、踊り場で空を見上げる。
梅雨の中休み的な晴れた青空が目に眩しい。
俺は手すりに凭れかかり、ファイルを開いた。
そこには、何枚かのラフ画が収まっていて、数日後の〆切に間に合うように描いたものだ。
けれど、何度見返しても納得がいかなくて、俯瞰して見るために、リスクを承知で学校に持ってきた。
見る場所が違えば、気持ちも変わるかと思って持ってきてみたけれど……、うーん、やっぱり何かが足りないんだよな。
スポーツ風味のアオハルものの小説。
それのキャラデザインのラフ画なんだが、躍動感は描けているものの、アオハルの初々しさが足りない気がする。
「何が足りないんだろうか……」
溜息まじりにファイルからラフ画を一枚引き抜き、青空に透かしてみた、その時。
「わっ!」
「んっ!? ……あ」
突然、入江が背後から声をかけてきた。と同時に、手にしていたラフ画が、ひらひらと風に乗って教職員駐車場の方へと飛ばされてしまった。
俺は大パニックになり、あたふたと飛ばされていくラフ画を見つめていると、視界の端に、黒い影がシュッと流れていった。
――――え?
俺の背後にいた入江が、手すりを乗り越え、階下へと。
「お、おいっ‼ 入江っ!」
手すりから身を乗り出して入江の行方を目で追うと、アスファルトに着地した入江は、その足でラフ画の元へと駆け出した。
「センパ~~イ! 無事ですよ~~‼」
「っ~~‼ もうっ、なんなんだよ、あいつは……」
車のフロントガラスの部分に着地したラフ画を、俺に見えるように掲げている。
その顔が、何とも言えないくらいカッコよく、輝いて見えた。
……あ、これか。
俺に書けなかった、アオハルのキラキラとしたものは。
見返りを求めない純粋な気持ち。
いつもなら、意味深な笑みを浮かべて、俺の思考を読み解こうとしているあいつが、今は俺のためだけに危険を顧みずに無心に飛び降りた。
その想いが、今のあいつのキラキラとした笑顔に表れている。
ほどなくして戻ってきた入江の手には、風で飛ばされたラフ画が大事そうに握られていて、俺は思わず胸が熱くなった。
「あのな、たかがラフ画一枚のために、階段から飛び降りるとか、マジで止めてくれ。大怪我でもしたら、どうするんだ」
しまった。
『ありがとう』と真っ先に言うべきなのに、いつもの癖で、ついつい説教口調になってしまった。
「だって、例え捨てるようなラフ画だったとしても、誰かに見られたら大変でしょ」
「……そうかもしれないが」
「先輩の秘密は、……俺だけが知ってればいいんですよ」
「っ……」
ホントになんなんだよ……!
俺が女子だったら、確実にキュンキュンしてるところだ。
「それに、俺、相当運動神経いいんで」
どうだ! と言わんばかりのドヤ顔をされてしまったが、入江の気遣いに、今にも泣きそうだ。
「先輩?」
「ああ、わかったわかった! お前はスーパーマン並みの運動神経な!」
「腕力もありますよ? 何なら試しに、お姫様抱っこしましょうか?」
「は? 何で男が男を抱っこするんだよっ! お前、たまにおかしなこと言うな」
潤んでる顔を見られたくなくて顔を逸らすと、背中にドンと重力を感じた。
入江の背中が俺の背中に預けられているようだ。
「そういう顔するから、俺がこんな思考になるんじゃないですか」
「……意味わかんね」
「あ、いや、今日はいい。これ、見てもらわないとならないから」
「そっか。じゃあ、行ってくるな」
「おう、行ってら~」
一学期の期末試験直前の金曜日の昼休み。男友達が声をかけてきたが、俺はやんわりと断った。
俺の手には一冊のファイルが握られている。
男友達には、いかにも職員室にファイルを提出するみたいな感じで言ったけれど、実は違う。
俺はスマホとファイルを手にして、教室を後にした。
職員室を通りすぎて、教職員の通用口脇にある屋外の非常階段。
普段人気のないそこは、俺の秘密基地的な特別な場所。
その非常階段を半階上り、踊り場で空を見上げる。
梅雨の中休み的な晴れた青空が目に眩しい。
俺は手すりに凭れかかり、ファイルを開いた。
そこには、何枚かのラフ画が収まっていて、数日後の〆切に間に合うように描いたものだ。
けれど、何度見返しても納得がいかなくて、俯瞰して見るために、リスクを承知で学校に持ってきた。
見る場所が違えば、気持ちも変わるかと思って持ってきてみたけれど……、うーん、やっぱり何かが足りないんだよな。
スポーツ風味のアオハルものの小説。
それのキャラデザインのラフ画なんだが、躍動感は描けているものの、アオハルの初々しさが足りない気がする。
「何が足りないんだろうか……」
溜息まじりにファイルからラフ画を一枚引き抜き、青空に透かしてみた、その時。
「わっ!」
「んっ!? ……あ」
突然、入江が背後から声をかけてきた。と同時に、手にしていたラフ画が、ひらひらと風に乗って教職員駐車場の方へと飛ばされてしまった。
俺は大パニックになり、あたふたと飛ばされていくラフ画を見つめていると、視界の端に、黒い影がシュッと流れていった。
――――え?
俺の背後にいた入江が、手すりを乗り越え、階下へと。
「お、おいっ‼ 入江っ!」
手すりから身を乗り出して入江の行方を目で追うと、アスファルトに着地した入江は、その足でラフ画の元へと駆け出した。
「センパ~~イ! 無事ですよ~~‼」
「っ~~‼ もうっ、なんなんだよ、あいつは……」
車のフロントガラスの部分に着地したラフ画を、俺に見えるように掲げている。
その顔が、何とも言えないくらいカッコよく、輝いて見えた。
……あ、これか。
俺に書けなかった、アオハルのキラキラとしたものは。
見返りを求めない純粋な気持ち。
いつもなら、意味深な笑みを浮かべて、俺の思考を読み解こうとしているあいつが、今は俺のためだけに危険を顧みずに無心に飛び降りた。
その想いが、今のあいつのキラキラとした笑顔に表れている。
ほどなくして戻ってきた入江の手には、風で飛ばされたラフ画が大事そうに握られていて、俺は思わず胸が熱くなった。
「あのな、たかがラフ画一枚のために、階段から飛び降りるとか、マジで止めてくれ。大怪我でもしたら、どうするんだ」
しまった。
『ありがとう』と真っ先に言うべきなのに、いつもの癖で、ついつい説教口調になってしまった。
「だって、例え捨てるようなラフ画だったとしても、誰かに見られたら大変でしょ」
「……そうかもしれないが」
「先輩の秘密は、……俺だけが知ってればいいんですよ」
「っ……」
ホントになんなんだよ……!
俺が女子だったら、確実にキュンキュンしてるところだ。
「それに、俺、相当運動神経いいんで」
どうだ! と言わんばかりのドヤ顔をされてしまったが、入江の気遣いに、今にも泣きそうだ。
「先輩?」
「ああ、わかったわかった! お前はスーパーマン並みの運動神経な!」
「腕力もありますよ? 何なら試しに、お姫様抱っこしましょうか?」
「は? 何で男が男を抱っこするんだよっ! お前、たまにおかしなこと言うな」
潤んでる顔を見られたくなくて顔を逸らすと、背中にドンと重力を感じた。
入江の背中が俺の背中に預けられているようだ。
「そういう顔するから、俺がこんな思考になるんじゃないですか」
「……意味わかんね」
