腹黒な後輩に秘密を握られました~姫化するしか、なさそうです

 入江との初デートから帰宅した俺は、ベッドに倒れ込んだ。

「なんか、すごい一日だったな」

 走馬灯のように今日一日の出来事を思い返していると、無意識に入江の顔が思い浮かんだ。

 キラッキラの笑顔で駆け寄ってきたり、ちょっと甘えるみたいに視線を送ってきたり。
 悲し気な顔をしたかと思えば、真剣な眼差しで告白してきたり。
 俺だけに見せるすべての表情が、瞼の裏に焼きついている。

「あ、……また思い出してしまった。ってか、無駄にモテ体なのが悪いんだ……!」
 
 告白の時のハグでも、電車内でのガードでも、俺はあいつの体にドキドキしてしまった。
 思い出して、次第に頬が熱くなっていくのに気づく。

「あいつが、俺の彼氏なんだ……って、何で自分で姫だって認めてんだよ、俺‼」

 自分で自分をツッコミながら、何とも言えない多幸感を噛みしめていると、スマホに入江からメッセージを受信した。

【今日はめちゃくちゃ楽しい一日でした♬ いっぱい歩いたから、ゆっくり休んでくださいね。おやすみなさい】

 いつも簡素な文なのに、今日は一生懸命打ってくれているのがわかる。

【俺もすごく楽しかった。誘ってくれてありがとう。また明日。おやすみ】

 緊張しながらメッセージを送ると、すぐさま既読がつき、すぐさま返信がきた。

【これからは、先輩の姫顔は、俺だけのものですからね!】

「んっ……‼」

 入江からのメッセージに、思わず口元を手で覆った。
 そう言えば、あのぎゅうぎゅう詰めの電車内で、入江に言われたっけ。

『先輩、無意識で姫顔するの、止めてくれませんか』

「俺、無意識に姫顔してんのか……?」

 窓ガラスで自分の顔を確認する。

「いや、姫顔ってなんだよっ……!」

 再び自分自身にツッコミを入れてしまった。
 いつだったか、入江の情報を収集している時に女子が口にしてたっけ。

『本気になれる相手に巡り合えてないのかも』

 確かに恋愛対象が男なのに、女子ばかりにモテても意味ないか。
 ってことは、俺には本気だってことだよな……?

「いや、付き合ってんだから、当然だろ!」

 またまた自分で自分にツッコミを入れて、爆死しそうだ。
 こんなにも、誰かを好きになるなんてな……。


 受信メッセージ欄にある入江の名前の下に、担当編集者さんの名前がある。
【BL漫画の件、ぜひ検討してみてください】というメッセージ。
 
「何度も断ってきたのに、……なんだろう、描けそうな気がしてきた」

 自然と漏れた言葉に、思わず笑みが零れる。
 その瞬間、誰にでも頼られる優等生の〝紫門〟ではなく、一人の男子高生として、新しい一ページが開かれた気がした。

『入江翼』という恋人と歩む、新しい日常を。

~FIN~