腹黒な後輩に秘密を握られました~姫化するしか、なさそうです

 テーマパークに到着すると、夏休みということもあって、パーク内は真夏にもかかわらず賑わっていた。
 端から見て廻ろうということになり、人気のアトラクションやらショップなどを順番に廻っていく。

 テーマパークなんて、小学校の時に家族旅行で行った以来で、純粋に楽しいと思えた。
 子供向けのスタンプラリーをやっていて、至る所でスマホと冊子を睨めっこしている家族連れが目に付く。
 入江も子供の頃は、あんな風に無邪気に走り回ったりしていたのだろうか?

 昼食はパーク内のフードコートで済ませ、午後は小動物と触れ合えるコーナーでまったり過ごした。

「先輩、少し休みます?」
「そうだな。座れるところを探そうか」

 売店で名物のパイナップルソフトクリームを購入し、屋根付きの休憩用のベンチに腰を下ろすと、目と鼻の先で、五歳児くらいの男の子が風船を握りしめながら、涙目できょろきょろしているのに気づく。

「ごめん、ちょっと行ってくる。これ持ってて」
「え? あ、先輩、どこ行くんですか!」

 戸惑う入江に食べかけのソフトクリームを押しつけ、俺は男の子の元へ駆け寄った。

「ぼく、どうしたの? パパとママとはぐれちゃったの?」
「……ん」

 口を真一文字に引き結んで必死に涙を堪えている姿を見て、どうにかして親元に返してあげないと、と思った俺は、辺りを見回す。
 だけど、子どもを探していそうな大人はいなくて、両親がいる場所からだいぶ離れたのでは? と焦った。
 
 スマホのナビで案内所までの道のりを確認していると、「先輩がこれ持っててください」と入江が現れ、先ほど手渡したソフトクリームと、入江の分のソフトクリームまで手渡されてしまった。
 目の前の男の子の前にしゃがみ込んだ入江は、「たかいところはだいじょうぶ?」と声をかけ、小さく頷いた男の子をゆっくりと肩車した。
 あ、そうか。少しでも高いところからの方が見つけやすいか。
 男の子の履いている靴に【こうた】と書かれている。

「こうたくんっていうの?」と尋ねると、「うん!」と元気な返事が返ってきた。

「じゃあ、おにいちゃんたちと、パパとママをさがそうか」

 案内所に向かいながら、きょろきょろしていそうな夫婦を探す。
 すると、しばらくして、「こうたっ‼」と女性の甲高い声がした。

「ママ‼」

 こうたくんが、一瞬で嬉しそうな表情になった。
 小さな女の子を抱っこ紐で抱いている母親と顔面蒼白の父親が駆け寄ってきた。

「本当にありがとうございました」

 何度も何度も頭を下げるこうたくんの両親に、俺も入江も会釈し、こうたくんに手を振って別れた。

 こうたくんのママは、下の子のオムツを替えるためにトイレに行っていたらしく、こうたくんは父親とジュースを買いに行った先で、父親とはぐれてしまったようだ。
 こうたくんの父親が、『両手でジュースを持つために、こうたの手を離したばかりに……』と口にしていた。
 
 俺は、跡形もなくすっかり溶けてしまったアイス見て、腑に落ちた。
 両手が塞がっていたら……目と鼻の先にいたとしても、つい見失ってしまうこともあるということを。
 
 トイレでベタベタになった手を洗い、自分の手をまじまじと見つめる。
 ……手、繋いでみたいかも。
 いや、男同士で手を繋ぐとか、マジでありえないけど……でも、なんだろう。
 入江となら、そんなこともできてしまう気がするのは……。
 
 ベンチで待っている入江の元に戻ると、またしても奴の周りに女子が群がっている……!
 女子吸引機でも搭載してんのかよ。ったく、フェロモンを撒き散らしやがって。

「お待たせ」
「あ、帰ってきた。ほらね、言ったでしょ。男子とデート中だって」
「えええええ~っ、ホントにホントだったんだぁ~!」
「じゃ、そういうことなんで。先輩、行きましょ」

 立ち上がった入江が、俺の手を摑んで歩き出した。
 ……デート? いや、言葉の絢だってわかってるけど。
 この手繋ぎだって、あの女子から逃げるための口実だってわかってるのに……。
 なぜか、振り払えない。
 それどころか、ぎゅっと握り返したいくらいだ。

「……先輩?」
「……ん? あ、ごめん。考えごとしてた」
「さっきの、こうたのことっすか?」
「え、あ、……ん」
 
 本当は、お前のことを考えていたなんて言えるはずもなく。
 しかも、俺を男友達として、さっきの女子たちと一緒に遊ぶという選択肢だってあっただろうに。
 どうして、俺と二人で廻ることを選んだんだろうか?
 単に面倒だっただけ?
 それとも、今日は俺と一日ってわけだったから、気を遣って……?
 悶々と考えが交錯していると、入江の指先がスッと伸びてきて、俺の眉間をグググっと押し広げた。

「めっちゃムズい顔してますよ、先輩。俺と廻るの、そんなにつまんないですか?」
「あ、いや……そういうんじゃなくて……」

 なんだかんだと、心の中を言葉にするのが難しくて、その後はなんだか気まずい雰囲気になってしまった。
 気づけば、見る予定だったパレードも終わってしまっているし、花火を見るための席取りもすっかり忘れてしまっていた。
 何時間も一緒に歩き廻っているはずなのに、今日会話した内容をほとんど覚えていないことに気づく。
 何やってんだか……俺。