五月考査が終わってしばらくしたころ、私と芽論はまたハンバーガー店に集まっていた。
「これが半端ないの。夏樹ってマジで大人でさあ……」
芽論は相変わらず脳内お花畑で、いとこの夏樹さんとのノロケ話を始めた。
私はそれを聞き流したかった。でも無駄に記憶力がいいせいで、芽論の語ったエピソードは次々と私の脳内に刻み込まれていった。
私と芽論は仲がいい。お互いにどこかで見下しあっているものの、勉強が得意な女子として波長が合うのか、基本的に一緒にいて心地が良い。
でも夏樹さんの話だけは例外だった。単純にノロケ話がウザいのと、いとこ同士ってのがいつまでも引っかかる。
それに、私は大人の男性への憧れを隠そうともしない芽論の恋愛観を危ういものだと認識していた。年相応という言葉が示す通り、高校生には高校生に適した恋愛というのがあると思う。
まあ、得体の知れないおじさんとかよりは、素性の知れてるいとこの方がマシなのかもしれないけど。
「音々はあれからどうなの?」
芽論は急に話を振ってきた。「あれから」とは、恐らく赤池との試験勉強のことだ。
「相変わらず彼女持ちの男にちょっかいを出してるの?」
「言い方」
私は目を細めてたしなめた。
「まあ、そうね。いろいろあったよ……」
*
五月考査が終わった後も、私と赤池の勉強会は続いた。継続は力なり。
でも、今日は試験が終わってすぐだったので、勉強なしでハンバーガー店でゆっくり過ごすことにした。
私は、テーブルを挟んだ向かい側に座る赤池の姿を見つめた。無表情でスマホをいじっている。
ふと、私は赤池に対して何かをあげたいと思った。せっかく成績が上がったんだから、お祝いしないと。
「ねえ」
私が声をかけると、赤池はゆっくりと顔を上げた。
「成績向上のご褒美をあげるよ。財布出して」
赤池は眉をひそめた。
「何それ。カツアゲかよ」
「いいから」
私がやや強いトーンで促すと、赤池はスマホを置き、ズボンのポケットから財布を取り出した。
私は財布を受け取ると、耳に付けていた星型のイヤリングを片方だけ外した。そして、そのイヤリングを赤池の財布に入れてから返した。
「はい、学年二位のイヤリング。ご利益あるぞ~」
「え? おう、ありがとう……」
赤池は怪訝な顔で財布を受け取った。
*
「そんなことしたの? キモすぎじゃない?」
芽論が話の腰を折った。私が芽論のノロケ話を遮ったことはないけどな。
私は不満でいっぱいの顔を向けて言った。
「なんでよ」
「いやだってさあ、身に付けていたものをいきなり人にあげるかね。しかもイヤリングって……」
芽論は私の左耳を指した。そこには赤池に渡さなかった方のイヤリングが輝いていた。
「その片割れでしょ?」
「そうだけど」
「なんて言ったらいいのかな、同じものを半分ずつ持つって、なんか……恋のおまじないみたいじゃん」
「そうだよ」
私はきっぱりと言った。
「だって私は赤池に恋してるんだもん」
いざ口に出してみると思いのほか恥ずかしく、私は思わず手で顔を覆った。
芽論は驚いたようで、両手で口を押さえた。
「わーお……イヤリングを美羽が見たらなんて言うかね」
「そこは赤池の腕にかかってるね」
私は遠くの壁を見つめた。その壁に美羽へ弁解する赤池の姿を思い描いたら、少しだけ愉快な気持ちになった。
「もう捨てられてるかもよ」
「うわ、それはショックだ」
私はおどけて言った。でも多分、赤池はそういうことはしない。
だって、赤池は律儀なやつだから。
*
「むしろ、俺が何かお礼しないといけないよな」
財布をしまった赤池はそんなことを言った。私は目をキラリと光らせた。
「ああ、そうだね。じゃあさ、私のお願いを聞いてよ」
「何?」
「んー……」
私は口を結んで考えた。赤池にしてほしいことなんて、いっぱいある。でも、今の私たちの関係性で言えることは限られる。その中でも、関係が進展しそうなものは。
「じゃあさ、買い物に付き合ってよ。週末とかに」
二人っきりでね、という言葉を言外に含めて言った。
「買い物かあ……」
即答しない赤池の脳裏には、きっと美羽の姿が浮かんでいる。でもさあ、今は私との時間でしょ?
「ねえお願い」
私は上目遣いで祈るようなポーズをした。
赤池は人差し指で顔を掻きながら言った。
「そうだなあ……まあ、いいよ」
「いいの? やったあ!」
私は本当に嬉しくて、屈託のない笑顔を赤池に向けた。すると赤池も照れたように笑った。
*
芽論は冷ややかな目をして言った。
「マジ? 赤池には幻滅したわ。美羽という彼女がいながら、週末にあんたとデート?」
「デートじゃないよ。買い物」
「客観的にはデートだから。音々だってわかってやってるでしょ」
私は無言でポテトを頬張った。図星だ。デートって言ったら断られる可能性が高いから、買い物に付き合ってもらうという口実で誘った。
芽論は諦めたような顔をして聞いてきた。
「で、いつ行くの?」
「今週末」
「何を買いに行くの。水着とか言ったら怒るよ」
確かに、それも候補にあった。赤池が私の水着姿にどんな反応を示すのかに興味がある。でも、今の私たちにはまだ早い。
私は週末のデート、もとい買い物のことを想像して頬を緩ませた。
「これが半端ないの。夏樹ってマジで大人でさあ……」
芽論は相変わらず脳内お花畑で、いとこの夏樹さんとのノロケ話を始めた。
私はそれを聞き流したかった。でも無駄に記憶力がいいせいで、芽論の語ったエピソードは次々と私の脳内に刻み込まれていった。
私と芽論は仲がいい。お互いにどこかで見下しあっているものの、勉強が得意な女子として波長が合うのか、基本的に一緒にいて心地が良い。
でも夏樹さんの話だけは例外だった。単純にノロケ話がウザいのと、いとこ同士ってのがいつまでも引っかかる。
それに、私は大人の男性への憧れを隠そうともしない芽論の恋愛観を危ういものだと認識していた。年相応という言葉が示す通り、高校生には高校生に適した恋愛というのがあると思う。
まあ、得体の知れないおじさんとかよりは、素性の知れてるいとこの方がマシなのかもしれないけど。
「音々はあれからどうなの?」
芽論は急に話を振ってきた。「あれから」とは、恐らく赤池との試験勉強のことだ。
「相変わらず彼女持ちの男にちょっかいを出してるの?」
「言い方」
私は目を細めてたしなめた。
「まあ、そうね。いろいろあったよ……」
*
五月考査が終わった後も、私と赤池の勉強会は続いた。継続は力なり。
でも、今日は試験が終わってすぐだったので、勉強なしでハンバーガー店でゆっくり過ごすことにした。
私は、テーブルを挟んだ向かい側に座る赤池の姿を見つめた。無表情でスマホをいじっている。
ふと、私は赤池に対して何かをあげたいと思った。せっかく成績が上がったんだから、お祝いしないと。
「ねえ」
私が声をかけると、赤池はゆっくりと顔を上げた。
「成績向上のご褒美をあげるよ。財布出して」
赤池は眉をひそめた。
「何それ。カツアゲかよ」
「いいから」
私がやや強いトーンで促すと、赤池はスマホを置き、ズボンのポケットから財布を取り出した。
私は財布を受け取ると、耳に付けていた星型のイヤリングを片方だけ外した。そして、そのイヤリングを赤池の財布に入れてから返した。
「はい、学年二位のイヤリング。ご利益あるぞ~」
「え? おう、ありがとう……」
赤池は怪訝な顔で財布を受け取った。
*
「そんなことしたの? キモすぎじゃない?」
芽論が話の腰を折った。私が芽論のノロケ話を遮ったことはないけどな。
私は不満でいっぱいの顔を向けて言った。
「なんでよ」
「いやだってさあ、身に付けていたものをいきなり人にあげるかね。しかもイヤリングって……」
芽論は私の左耳を指した。そこには赤池に渡さなかった方のイヤリングが輝いていた。
「その片割れでしょ?」
「そうだけど」
「なんて言ったらいいのかな、同じものを半分ずつ持つって、なんか……恋のおまじないみたいじゃん」
「そうだよ」
私はきっぱりと言った。
「だって私は赤池に恋してるんだもん」
いざ口に出してみると思いのほか恥ずかしく、私は思わず手で顔を覆った。
芽論は驚いたようで、両手で口を押さえた。
「わーお……イヤリングを美羽が見たらなんて言うかね」
「そこは赤池の腕にかかってるね」
私は遠くの壁を見つめた。その壁に美羽へ弁解する赤池の姿を思い描いたら、少しだけ愉快な気持ちになった。
「もう捨てられてるかもよ」
「うわ、それはショックだ」
私はおどけて言った。でも多分、赤池はそういうことはしない。
だって、赤池は律儀なやつだから。
*
「むしろ、俺が何かお礼しないといけないよな」
財布をしまった赤池はそんなことを言った。私は目をキラリと光らせた。
「ああ、そうだね。じゃあさ、私のお願いを聞いてよ」
「何?」
「んー……」
私は口を結んで考えた。赤池にしてほしいことなんて、いっぱいある。でも、今の私たちの関係性で言えることは限られる。その中でも、関係が進展しそうなものは。
「じゃあさ、買い物に付き合ってよ。週末とかに」
二人っきりでね、という言葉を言外に含めて言った。
「買い物かあ……」
即答しない赤池の脳裏には、きっと美羽の姿が浮かんでいる。でもさあ、今は私との時間でしょ?
「ねえお願い」
私は上目遣いで祈るようなポーズをした。
赤池は人差し指で顔を掻きながら言った。
「そうだなあ……まあ、いいよ」
「いいの? やったあ!」
私は本当に嬉しくて、屈託のない笑顔を赤池に向けた。すると赤池も照れたように笑った。
*
芽論は冷ややかな目をして言った。
「マジ? 赤池には幻滅したわ。美羽という彼女がいながら、週末にあんたとデート?」
「デートじゃないよ。買い物」
「客観的にはデートだから。音々だってわかってやってるでしょ」
私は無言でポテトを頬張った。図星だ。デートって言ったら断られる可能性が高いから、買い物に付き合ってもらうという口実で誘った。
芽論は諦めたような顔をして聞いてきた。
「で、いつ行くの?」
「今週末」
「何を買いに行くの。水着とか言ったら怒るよ」
確かに、それも候補にあった。赤池が私の水着姿にどんな反応を示すのかに興味がある。でも、今の私たちにはまだ早い。
私は週末のデート、もとい買い物のことを想像して頬を緩ませた。



