「あのさあ。私はね、高校生同士の恋愛なんて、所詮はおままごとだと思うんだよね」
うっとりとした表情で、フライドポテトを口に放り込みながらそう語る芽論。私、寒川音々はそんな彼女を白い目で見ていた。
ゴールデンウィーク前のある日。若者のざわめきに満ちたハンバーガー店の中で、芽論の語りは止まらなかった。
「高校生だと、デートなんて放課後にこうやってファストフード店に寄ったり、お出かけしても近場じゃん?」
「はあ。その点、大学生は違うって?」
私が聞くと、芽論はにんまりと笑った。
「うん。夏樹は免許を持ってるから、こないだは車で河口湖まで行ったよ。富士山がすごかったなあ」
芽論は楽しそうに言ったけど、私はあまり旅行に興味がなかった。湖も富士山も、もっと言えば車もどうでもよかった。どうせレンタカーでしょ。
私はコーラを一口飲んでから言った。
「電車とかバスでも行けるんじゃないの?」
「音々はわかってないな。移動時間も二人きりのプライベート空間ってのがいいんだよ」
芽論は得意そうに言った。
まあ、芽論の言いたいことは理解できる。高校生なんてお金もないし、やれることは限られている。それに比べれば大学生はすごい。
でもさあ、と私は思う。別におままごとだっていいじゃないか。誰かと好き同士になって、目が合って照れたりとか。まだ未成年の私たちにとっては、それだけでも充分に素敵なことだと思う。否が応でも来年には成人年齢を迎えるわけだし、急いで大人ぶる必要もない。
それに、私は芽論の彼氏である夏樹さんにちょっと嫌な印象がある。前に写真を見せてもらったことがあるけど、私には魅力を感じなかった。
いや、私が気にしているのはそんなことじゃない。夏樹さんはただの大学生ではなく、芽論の三歳年上のいとこなのだ。恋愛的に見つめあったり、唇を重ねたり、あまつさえ繋がったり。親戚とそうなってしまうというのは、私には理解に苦しむ。
「ねえ、音々は恋愛しないの?」
芽論はポテトの油が付いた指を舐めながら聞いてきた。
「してるよ」
「え、そうなの? 言ってよ!」
「聞かれなかったし」
別に隠してたわけじゃない。でも、聞かれてもいないことをしゃべりたいとも思わない。一方の芽論は言いたがりだから、私は夏樹さんとの恋愛の進展をつぶさに聞かされてきた。
「じゃあ今から詳しく聞かせなさい!」
「いいよ」
私は紙コップのストローを吸った。ところがコーラはもう空っぽで、ずごご、という下品な音が鳴ってしまった。まあ、氷が溶ければまた飲めるだろう。
私は口の中の潤いが充分に残っていることを確認してから話し始めた。
「あのね……赤池」
彼の姿を頭に思い描きながら名前を口に出したら、思わず頬が赤く染まるのを感じた。私はなんとなく紙コップに付いた水滴を指でなぞった。
その名前を聞いて、芽論は目を丸くしていた。
「えっ? 赤池ってうちのクラスの赤池?」
「そう。部活で仲がよくてさ。最近いい感じなんだよね」
「いやいやいや」
芽論は相変わらず目を丸くしながら言った。
「知らないの? 赤池は美羽と付き合ってるって」
「知ってる」
美羽は学校に一人はいる、男子からモテにモテる可愛い女子だ。そんな美羽が中の上くらいの男子である赤池と付き合い始めたときは、センセーショナルなニュースとして学年を駆け巡った。だから、二人の交際を知らない人はほぼいないだろう。
芽論は頭を抱え、困惑の表情を浮かべた。
「え? 美羽と付き合ってることを知ってて、何? いい感じ?」
「うん、いい感じ」
「はあ……。ねえ、それって、大丈夫なの? その、いろいろと……」
思い詰めた顔をする芽論に対して、私は頬を赤く染めつつ、はっきりとした口調で言い放った。
「だってしょうがないじゃん。私、赤池のことがめっちゃ好きになったんだもん……!」
そう言ったら、また顔が熱くなった。芽論曰く「おままごと」みたいな、赤池とのいい感じな日々を思い出してしまったのだ——。
うっとりとした表情で、フライドポテトを口に放り込みながらそう語る芽論。私、寒川音々はそんな彼女を白い目で見ていた。
ゴールデンウィーク前のある日。若者のざわめきに満ちたハンバーガー店の中で、芽論の語りは止まらなかった。
「高校生だと、デートなんて放課後にこうやってファストフード店に寄ったり、お出かけしても近場じゃん?」
「はあ。その点、大学生は違うって?」
私が聞くと、芽論はにんまりと笑った。
「うん。夏樹は免許を持ってるから、こないだは車で河口湖まで行ったよ。富士山がすごかったなあ」
芽論は楽しそうに言ったけど、私はあまり旅行に興味がなかった。湖も富士山も、もっと言えば車もどうでもよかった。どうせレンタカーでしょ。
私はコーラを一口飲んでから言った。
「電車とかバスでも行けるんじゃないの?」
「音々はわかってないな。移動時間も二人きりのプライベート空間ってのがいいんだよ」
芽論は得意そうに言った。
まあ、芽論の言いたいことは理解できる。高校生なんてお金もないし、やれることは限られている。それに比べれば大学生はすごい。
でもさあ、と私は思う。別におままごとだっていいじゃないか。誰かと好き同士になって、目が合って照れたりとか。まだ未成年の私たちにとっては、それだけでも充分に素敵なことだと思う。否が応でも来年には成人年齢を迎えるわけだし、急いで大人ぶる必要もない。
それに、私は芽論の彼氏である夏樹さんにちょっと嫌な印象がある。前に写真を見せてもらったことがあるけど、私には魅力を感じなかった。
いや、私が気にしているのはそんなことじゃない。夏樹さんはただの大学生ではなく、芽論の三歳年上のいとこなのだ。恋愛的に見つめあったり、唇を重ねたり、あまつさえ繋がったり。親戚とそうなってしまうというのは、私には理解に苦しむ。
「ねえ、音々は恋愛しないの?」
芽論はポテトの油が付いた指を舐めながら聞いてきた。
「してるよ」
「え、そうなの? 言ってよ!」
「聞かれなかったし」
別に隠してたわけじゃない。でも、聞かれてもいないことをしゃべりたいとも思わない。一方の芽論は言いたがりだから、私は夏樹さんとの恋愛の進展をつぶさに聞かされてきた。
「じゃあ今から詳しく聞かせなさい!」
「いいよ」
私は紙コップのストローを吸った。ところがコーラはもう空っぽで、ずごご、という下品な音が鳴ってしまった。まあ、氷が溶ければまた飲めるだろう。
私は口の中の潤いが充分に残っていることを確認してから話し始めた。
「あのね……赤池」
彼の姿を頭に思い描きながら名前を口に出したら、思わず頬が赤く染まるのを感じた。私はなんとなく紙コップに付いた水滴を指でなぞった。
その名前を聞いて、芽論は目を丸くしていた。
「えっ? 赤池ってうちのクラスの赤池?」
「そう。部活で仲がよくてさ。最近いい感じなんだよね」
「いやいやいや」
芽論は相変わらず目を丸くしながら言った。
「知らないの? 赤池は美羽と付き合ってるって」
「知ってる」
美羽は学校に一人はいる、男子からモテにモテる可愛い女子だ。そんな美羽が中の上くらいの男子である赤池と付き合い始めたときは、センセーショナルなニュースとして学年を駆け巡った。だから、二人の交際を知らない人はほぼいないだろう。
芽論は頭を抱え、困惑の表情を浮かべた。
「え? 美羽と付き合ってることを知ってて、何? いい感じ?」
「うん、いい感じ」
「はあ……。ねえ、それって、大丈夫なの? その、いろいろと……」
思い詰めた顔をする芽論に対して、私は頬を赤く染めつつ、はっきりとした口調で言い放った。
「だってしょうがないじゃん。私、赤池のことがめっちゃ好きになったんだもん……!」
そう言ったら、また顔が熱くなった。芽論曰く「おままごと」みたいな、赤池とのいい感じな日々を思い出してしまったのだ——。



