隣の席のキミとひみつの合図 ~強い絆と恋の付箋。どれだけ離れても、君にだけ届く想いがある~

借り物競争を終えた琉生が赤組のテントへ戻ると、競技を終えた男子たちが一斉に振り返った。

「羽瀬、お前お題なんだったんだよ?」

「白石さん連れてくるとか、めっちゃ気になるんだけど!」

「うるせぇな!」

ただでさえ熱の引かない顔が、また熱くなる。

琉生は誤魔化すように声を張った。

「『隣にいてほしい人』って書いてあったのを、『隣の席の人』って見間違えたんだよ!」

「なんだ、見間違いかよ!」

「紛らわしいことすんなよ、羽瀬!」

笑いながら離れていく男子たちを見送り、琉生はほっと息を吐いた。

「……苦しすぎ」

「――っ」

背後から聞こえた声に振り返る。

ベンチに座った颯人が、スクイズボトルを片手にニヤニヤしていた。

「お前、あれで誤魔化せたと思ってんの?」

「……みんな納得してただろ」

「俺はしてねぇよ」

颯人が立ち上がり、琉生の胸元へボトルを押しつける。

「ほら。飲め」

「……サンキュー」

冷たいスポーツドリンクを一気に喉へ流し込む。

全力で走ったせいなのか、それとも乃愛のところへ向かったせいなのか。

まだ心臓は落ち着いてくれない。

「それで?」

「……何が」

「本当のお題」

颯人は琉生の隣へ腰を下ろした。

「俺にくらい白状しろよ」

「…………」

逃げられないと悟り、琉生も隣へ座る。

一度だけ息を吐いて、観念したように口を開いた。

「……『特別な人』」

「…………」

颯人が黙った。

「なんか言えよ」

「いや、お前……」

颯人は一度口元を押さえたものの、堪えきれなかったらしい。

「ぶはっ!」

「笑うな!」

「だって、それで白石さんのところに一直線って……お前、答え出てんじゃん」

「……うるせぇ」

琉生は赤くなった顔を隠すように俯いた。

けれど、否定はできなかった。

あの紙を開いた瞬間、驚いて足は止まった。

けれど――誰を連れていくかで迷ったわけではない。

「……紙見た瞬間、白石さんしか浮かばなかった」

自分で口にすると、余計に恥ずかしくなる。

颯人はもう笑わなかった。

「そっか」

その短い返事に、からかう色はなかった。

「で、本人には?」

「……言えるわけねぇだろ」

「は?」

「ゴールしたあと、お題なんだったのって聞かれたけど……内緒って逃げた」

「お前、全校生徒の前ではあれだけやっといて?」

「しょうがねぇだろ! あの場で『特別な人』とか言えるかよ!」

思わず声を上げ、琉生は慌てて周囲を確認する。

幸い、近くの男子たちは自分たちの話で盛り上がっていた。

「今日の夜、LINEでちゃんと教えるって約束したんだよ」

「ふーん」

颯人が面白そうに横目で見る。

「なんだよ」

「いや。白石さんの前だと、お前ほんと余裕なくなるよな」

「うるせぇ」

「全校生徒の前まで走って迎えに行くくせに、お題一個言えねぇし」

「……うるせぇって」

「しかも『俺の隣は白石さんじゃなきゃだめ』だっけ?」

「颯人!」

琉生が睨むと、颯人は楽しそうに笑った。

「まあ、夜にはちゃんと言えよ」

「……分かってる」

まだ顔の熱は引きそうにない。

それでも、乃愛に隠したままにするつもりはなかった。

今は恥ずかしくて言えなくても、二人きりのLINEなら――きっと。

「ほら。まだ午後の競技も残ってんだから、今のうち休んどけ」

颯人が立ち上がり、琉生の前へ拳を差し出す。

「リレーもあるんだからな」

「ああ」

琉生も立ち上がった。

「お前こそ、バトン頼むぞ」

「誰に言ってんだよ」

「ははっ。だよな」

二人の拳が、軽くぶつかる。

琉生はグラウンドへ視線を戻した。

夜になったら、乃愛にちゃんと伝えよう。

今度こそ誤魔化さずに、そう心に決めた――。