西日が差し込む、放課後の部室。
練習を終えた部員たちが次々と帰っていく中、着替えを済ませた颯人は、まだベンチに座ったままスマホを眺めている琉生に目を向けた。
その口元が、さっきから微妙に緩んでいる。
颯人は丸めたタオルで、琉生の頭を軽く叩いた。
「おい琉生。いつまでニヤついてんだよ。早く着替えて鍵閉めろ」
「って、てめ……ニヤついてねぇわ」
「はいはい」
まったく信じていない顔で、颯人が長机に腰掛ける。
「で? 土曜の図書館デート、どうだったんだよ」
「デートっていうか……」
否定しかけた琉生は、少し考えてからスマホを伏せた。
「……めちゃくちゃ楽しかった」
「顔見りゃ分かる」
即答され、琉生は眉を寄せる。
「なんだよ、それ」
「さっきから分かりやすいんだよ、お前は」
颯人が笑うと、琉生は誤魔化すようにタオルで髪を拭いた。
「ちゃんと勉強もしたし。白石さん、弁当まで作ってきてくれてさ」
「マジか。お前にはもったいねぇな」
「うるせぇ」
そう言いながらも、琉生の頬は緩んでいる。
「そのあと、お前が教えてくれたカフェも行った。ココア、うまかったぞ」
「そりゃどうも」
「……写真も撮った」
「白石さんの?」
「……お互いに」
颯人の眉がぴくりと動く。
「お前も撮られたの?」
「……ココア持って」
「くくっ」
「笑うな!」
耐えきれず吹き出した颯人を睨みつける。
けれど、すぐに琉生も小さく笑った。
思い返せば、どの瞬間も楽しかった。
ただ――一番心に残っているのは、もっと別のことだ。
「で」
ひとしきり笑ったあと、颯人が琉生を見る。
「何か進展は?」
「……手、繋いだ」
「ほう」
「恋人繋ぎ」
「やったな、琉生」
颯人が満足そうに肩を叩いてくる。
「白石さん、どんな反応だった?」
その問いに、琉生は一瞬黙った。
夕暮れの並木道。
自分から伸ばした手を、乃愛が握り返してくれた瞬間が蘇る。
「……握り返してくれた」
声に出すと、あのときの嬉しさまで戻ってきた。
「俺、勢いで繋いじゃったから、ちょっと不安だったんだけどさ。白石さんがぎゅって握り返してくれて……マジで嬉しかった」
「そっか」
今度の颯人は、からかわなかった。
「まだ付き合ってないけど……近いうちに、ちゃんと告白する」
琉生が真っ直ぐに言うと、颯人は小さく頷いた。
「まあ、焦んな。白石さん相手なら、お前が変に格好つけるより、そのままのほうがいいだろ」
「……それ、褒めてる?」
「半分な」
「半分かよ」
「でも、ちゃんと伝えるときは伝えろよ」
「ああ。分かってる」
今度は迷わず答えた。
すると颯人が、ふと思い出したように琉生のスマホを見る。
「それで? さっきから何見てニヤついてたんだよ」
「だからニヤついてねぇって」
「じゃあ見せろ」
「絶対やだ」
即座にスマホを伏せた琉生に、颯人の目が細くなる。
「……なんかあったな?」
「…………昨日」
「おう」
「初めて、名前で呼んだ」
「へえ」
「寝る前のLINEで『おやすみ乃愛』って送ったら……『おやすみなさい、琉生くん』って返ってきた」
数秒の沈黙。
颯人は納得したように頷いた。
「なるほど。だからニヤついてたのか」
「ニヤついてねぇ!」
「いや、今もニヤついてる」
「うるせぇ!」
笑いながら立ち上がった颯人は、スポーツバッグを肩にかけた。
「ほら。惚気はもういいから帰るぞ」
「惚気じゃねぇって」
琉生も慌てて着替えを済ませ、バッグを掴む。
部室を出ようとしたところで、ふと琉生は隣の親友を見た。
「なあ、颯人」
「ん?」
「今度はお前の恋愛相談、俺が乗ってやるよ」
「いらねぇよ」
「即答すんなよ!」
「少なくとも、お前には頼まねぇ」
「ひでぇ!」
颯人は笑いながら先に部室を出ていく。
「ほら、早く鍵閉めろ」
「分かってるって!」
夕陽に染まる部室に鍵をかけ、琉生は颯人の隣へ追いついた。
次にこの親友へ報告するときは。
今度こそ――乃愛に、自分の気持ちをちゃんと伝えたあとにしたい。
そんな決意を胸に、二人は並んで歩き出した――。
練習を終えた部員たちが次々と帰っていく中、着替えを済ませた颯人は、まだベンチに座ったままスマホを眺めている琉生に目を向けた。
その口元が、さっきから微妙に緩んでいる。
颯人は丸めたタオルで、琉生の頭を軽く叩いた。
「おい琉生。いつまでニヤついてんだよ。早く着替えて鍵閉めろ」
「って、てめ……ニヤついてねぇわ」
「はいはい」
まったく信じていない顔で、颯人が長机に腰掛ける。
「で? 土曜の図書館デート、どうだったんだよ」
「デートっていうか……」
否定しかけた琉生は、少し考えてからスマホを伏せた。
「……めちゃくちゃ楽しかった」
「顔見りゃ分かる」
即答され、琉生は眉を寄せる。
「なんだよ、それ」
「さっきから分かりやすいんだよ、お前は」
颯人が笑うと、琉生は誤魔化すようにタオルで髪を拭いた。
「ちゃんと勉強もしたし。白石さん、弁当まで作ってきてくれてさ」
「マジか。お前にはもったいねぇな」
「うるせぇ」
そう言いながらも、琉生の頬は緩んでいる。
「そのあと、お前が教えてくれたカフェも行った。ココア、うまかったぞ」
「そりゃどうも」
「……写真も撮った」
「白石さんの?」
「……お互いに」
颯人の眉がぴくりと動く。
「お前も撮られたの?」
「……ココア持って」
「くくっ」
「笑うな!」
耐えきれず吹き出した颯人を睨みつける。
けれど、すぐに琉生も小さく笑った。
思い返せば、どの瞬間も楽しかった。
ただ――一番心に残っているのは、もっと別のことだ。
「で」
ひとしきり笑ったあと、颯人が琉生を見る。
「何か進展は?」
「……手、繋いだ」
「ほう」
「恋人繋ぎ」
「やったな、琉生」
颯人が満足そうに肩を叩いてくる。
「白石さん、どんな反応だった?」
その問いに、琉生は一瞬黙った。
夕暮れの並木道。
自分から伸ばした手を、乃愛が握り返してくれた瞬間が蘇る。
「……握り返してくれた」
声に出すと、あのときの嬉しさまで戻ってきた。
「俺、勢いで繋いじゃったから、ちょっと不安だったんだけどさ。白石さんがぎゅって握り返してくれて……マジで嬉しかった」
「そっか」
今度の颯人は、からかわなかった。
「まだ付き合ってないけど……近いうちに、ちゃんと告白する」
琉生が真っ直ぐに言うと、颯人は小さく頷いた。
「まあ、焦んな。白石さん相手なら、お前が変に格好つけるより、そのままのほうがいいだろ」
「……それ、褒めてる?」
「半分な」
「半分かよ」
「でも、ちゃんと伝えるときは伝えろよ」
「ああ。分かってる」
今度は迷わず答えた。
すると颯人が、ふと思い出したように琉生のスマホを見る。
「それで? さっきから何見てニヤついてたんだよ」
「だからニヤついてねぇって」
「じゃあ見せろ」
「絶対やだ」
即座にスマホを伏せた琉生に、颯人の目が細くなる。
「……なんかあったな?」
「…………昨日」
「おう」
「初めて、名前で呼んだ」
「へえ」
「寝る前のLINEで『おやすみ乃愛』って送ったら……『おやすみなさい、琉生くん』って返ってきた」
数秒の沈黙。
颯人は納得したように頷いた。
「なるほど。だからニヤついてたのか」
「ニヤついてねぇ!」
「いや、今もニヤついてる」
「うるせぇ!」
笑いながら立ち上がった颯人は、スポーツバッグを肩にかけた。
「ほら。惚気はもういいから帰るぞ」
「惚気じゃねぇって」
琉生も慌てて着替えを済ませ、バッグを掴む。
部室を出ようとしたところで、ふと琉生は隣の親友を見た。
「なあ、颯人」
「ん?」
「今度はお前の恋愛相談、俺が乗ってやるよ」
「いらねぇよ」
「即答すんなよ!」
「少なくとも、お前には頼まねぇ」
「ひでぇ!」
颯人は笑いながら先に部室を出ていく。
「ほら、早く鍵閉めろ」
「分かってるって!」
夕陽に染まる部室に鍵をかけ、琉生は颯人の隣へ追いついた。
次にこの親友へ報告するときは。
今度こそ――乃愛に、自分の気持ちをちゃんと伝えたあとにしたい。
そんな決意を胸に、二人は並んで歩き出した――。


