隣の席のキミとひみつの合図 ~強い絆と恋の付箋。どれだけ離れても、君にだけ届く想いがある~

買い物を終えた乃愛たちは、そのまま乃愛の家へ向かった。

「お邪魔しまーす! よーし、ファッションショーの続きだ!」

紙袋を抱えた結衣が楽しそうに部屋へ入り、ひまりもその後に続く。

窓から差し込む夕日が、ベッドの上に広げたばかりの桜色のブラウスを優しく照らしていた。

「当日の髪型どうする? 三つ編みハーフアップとか絶対似合うよ!」

「ゆ、結衣、まだやる気満々だね……」

「当たり前でしょ!」

そんな二人のやり取りに笑いながら、乃愛が麦茶を用意しようと立ち上がった、そのとき。

静かに部屋を見渡していたひまりが、勉強机のすぐ横にある白い壁の前でピタッと足を止めた。

「……あれ? 乃愛、これって……」

その視線の先を見た瞬間、乃愛の心臓が跳ねる。

「……あ」

白いコルクボード。

そこには、これまで琉生からもらった淡いブルーの付箋が、日付順に大切に留められていた。

本の感想を約束したもの。

雨の日、傘を借りたいと書かれていたもの。

高城くんの予想問題を渡してくれたもの。

どれも乃愛にとって、捨てることのできない大切な言葉だった。

「これ……全部、羽瀬くんから?」

結衣もコルクボードの前までやってくる。

乃愛は顔が熱くなるのを感じながら、小さく頷いた。

「う、うん……。羽瀬くんには内緒なんだけど……どうしても捨てられなくて」

恥ずかしさに耐えきれず、指先をぎゅっと握る。

「私だけの……秘密のコレクション、なの」

静まり返った部屋の中で、結衣はいつものようにからかうこともなく、ただ優しくコルクボードを見つめていた。

「乃愛……ほんと、羽瀬くんのこと大好きなんだね」

「……っ」

胸の奥に隠していた気持ちを言葉にされ、乃愛の頬がさらに赤くなる。

それでも――。

「……うん」

今度は、ちゃんと頷いた。

すると結衣が、乃愛の両手を優しく包んだ。

「そっか。じゃあ土曜日、ちゃんと楽しんできなよ。私たちがこんだけ可愛くするんだから!」

「結衣……」

隣では、ひまりも柔らかく微笑んでいる。

「一枚ずつ、ちゃんと大切にしてきたんだね」

もう一度コルクボードを見つめてから、ひまりは言った。

「この付箋の並び、乃愛の歴史そのものだね」

誰にも言えず、一人で大切にしてきた恋。

それを二人は笑わなかった。

まるごと大切なものとして受け止めてもらえたことが、乃愛にはたまらなく嬉しかった。

「……ありがとう、二人とも」

「よーしっ! じゃあ、こうしちゃいられない!」

結衣が突然立ち上がる。

「髪型! ひまり、ハーフアップにしよ!ちょっとだけ毛先巻こう!」

「ふふ、やっぱりそこに戻るんだ」

「えっ、い、今から……?」

「もちろん!」

さっき買った服に着替えて、あっという間に鏡の前へ座らされ、乃愛は二人に髪を任せることになった。

ひまりが丁寧に髪をまとめ、結衣が前髪を整えていく。

仕上げに、結衣がお店で選んでくれた桜色の細いリボンを合わせて――。

「よし、完成! 乃愛、目開けてみて!」

結衣の声に、乃愛はゆっくり瞼を開いた。

「……わぁ」

鏡の中には、いつもより少しだけ大人っぽく見える自分がいた。

柔らかくまとめられた髪に、桜色の小さなリボン。

けれど、不思議と別人のようには思わなかった。

結衣とひまりが見つけてくれた、自分でも知らなかった自分。

「乃愛、可愛い!」

「うん。すごく似合ってるよ」

鏡越しに笑ってくれる二人を見ているうちに、乃愛の表情も少しずつ柔らかくなった。

「ありがとう……。私、本当にドキドキするけど」

鏡の中の自分を見つめ、乃愛は小さく笑う。

「この服と、この髪型なら……土曜日、少しだけ胸を張って羽瀬くんに会いに行ける気がする」

「うん。その調子!」

「楽しんできてね、乃愛」

「……うん!」

窓から差し込む夕日が、コルクボードに並んだ淡いブルーの付箋と、鏡の中の桜色を一緒に照らしていた。

一人だったら、こんなふうに土曜日を楽しみに待つことはできなかったかもしれない。

けれど今は、隣で一緒に笑ってくれる二人がいる。

乃愛は鏡の中の自分へ、もう一度笑ってみた。

今度はさっきより、ほんの少しだけ胸を張って――。