隣の席のキミとひみつの合図 ~強い絆と恋の付箋。どれだけ離れても、君にだけ届く想いがある~

テスト前で部活が休みになった、ある日の放課後。

乃愛と琉生は、久しぶりに校舎裏の隠れ家へ来ていた。

足元では茶トラが前足で顔を洗っている。

「あ、また『ぐる、ぐる』やってる。ふふ、可愛い……」

乃愛が隣でしゃがみ込むと、琉生も茶トラを見ながら笑った。

「な? テスト勉強ばっかで頭爆発しそうだったけど、こいつ見てるとマジで癒されるわ」

教室と違って、二人の間を隔てる机はない。

すぐ隣に琉生がいるだけで、乃愛の胸は落ち着かなかった。

「羽瀬くん、ノートのメモ、本当にありがとうございました。結衣もひまりも、すごく綺麗なまとめだねってびっくりしてました」

「あ、それ颯人のな。あいつ、口は悪いけどノートだけは無駄に綺麗だから」

琉生は悪戯っぽく笑う。

「白石さんの役に立ったなら、奪い取った甲斐あったわ」

「ふふっ。高城くんにも、ありがとうって伝えてください」

「了解」

茶トラの背中を優しく撫でていた琉生が、ふと手を止めた。

「……ねぇ、白石さん」

「はい?」

さっきまでとは少し違う声に、乃愛も顔を上げる。

琉生はどこか照れくさそうにしながら、ブレザーのポケットからスマホを取り出した。

「学校で付箋やり取りするの、俺、すげー楽しいんだけどさ」

「……うん」

「なんか、それだけじゃ足りなくなってきた」

「え……?」

琉生が首の後ろへ手をやる。

それから、少しだけ照れたように笑った。

「家にいるときも、部活やってるときも、白石さんと話したいなって」

胸が、大きく跳ねた。

「だからさ……LINE、交換しない?」

差し出されたスマホを、乃愛はしばらく見つめたまま動けなかった。

男子と連絡先を交換するのは初めてだった。

しかも相手は、少し前まで遠い人だと思っていた羽瀬くん。

その羽瀬くんが、学校にいない時間も自分と話したいと言ってくれている。

「……だめ、かな?」

黙ったままの乃愛を見て、琉生が少し不安そうに眉を下げた。

「だ、だめじゃないです!」

乃愛は慌てて首を横に振る。

「私も……羽瀬くんと、お話ししたい、から……」

言葉にすると急に恥ずかしくなって、声が小さくなっていく。

それでも、琉生にはちゃんと届いたらしい。

「……よかった」

ほっとしたように笑った顔を見て、乃愛もスマホを取り出した。

表示されたコードを読み取る。

小さな電子音とともに、画面に『羽瀬 琉生』という名前が現れた。

「……っ」

本当に、繋がった。

自分のスマホの中に羽瀬くんの名前がある。

それだけで胸がいっぱいになった。

「よし、登録できた!」

琉生も嬉しそうに自分の画面を確認する。

「今日の夜、メッセージ送るから。既読無視しないでよ?」

「む、無視なんてしません……っ」

乃愛はスマホを胸元へ抱えるようにして、小さく笑った。

「ちゃんと、待ってます」

「……まじで?」

琉生の目が一瞬大きくなり、すぐに嬉しそうに細められる。

その顔を見た途端、乃愛は自分が何を言ったのか急に恥ずかしくなった。

「……っ」

耐えきれず、抱えた膝へ顔を伏せる。

「ああ、もう。何それ可愛い」

「……えっ?」

次の瞬間。

頭に、温かな手のひらが触れた。

驚いて顔を上げると、琉生が耳を少し赤くしながら、乃愛の髪をぽんぽんと優しく撫でている。

「そんなに顔隠されたら、俺、今夜メッセージ送りづらくなるんだけど」

悪戯っぽく笑ってから、もう一度だけ、ぽん。

「……ちゃんと読んでよ?」

「……うん」

それ以上は恥ずかしくて、乃愛は小さく頷くことしかできなかった。

スマホの画面には、さっきまでなかった『羽瀬 琉生』の名前。

(羽瀬くんと、LINE……繋がっちゃった)

今夜、本当に羽瀬くんからメッセージが届く。

そう思うだけで、帰る前から乃愛の胸は落ち着かなかった――。