隣の席のキミとひみつの合図 ~強い絆と恋の付箋。どれだけ離れても、君にだけ届く想いがある~

激しい雨音が響く、放課後の下駄箱。

雨のせいで部活は中止になり、仲間たちが騒ぎながら帰っていく中、琉生は下駄箱の上の棚に置かれた折りたたみ傘を見つけた。

白石さんの傘。

その持ち手には、一枚の桜色の付箋が貼られている。

『少し小さいですけど、
入るなら使ってください。
下駄箱の上の棚に置いておきます』

「……白石さん」

本当に置いていってくれた。

嬉しくなって付箋を剥がそうとした、そのとき。

「……ん?」

メッセージの少し上。

二本の線で消された跡がある。

気になって、琉生は付箋を光へかざした。

線の下に、うっすらと文字が残っている。

『小さめの傘ですけど、
もしよかったら、一緒に……』

「――っ」

そこで、琉生の思考が止まった。

もう一度読む。

何度見ても同じだ。

『もしよかったら、一緒に……』

(……これ、もしかして)

本当は、俺と一緒に帰ろうとしてたってこと?

そこまで考えた瞬間、心臓が大きく跳ねた。

きっと白石さんは、これを書きながら真っ赤になって。

恥ずかしくなって、慌てて二本線を引いた。

そんな姿まで簡単に想像できてしまう。

「……あー、だめだ。これ」

琉生は片手で顔を覆った。

頬が熱い。

たった一枚の桜色の付箋なのに、グラウンドを何周走ったときよりも心臓がうるさかった。

「おーい、羽瀬! 颯人たちマック行くってさ。お前どうする?」

遠くから仲間の声が飛んでくる。

「俺はパス! 先帰る!」

返事をしてから、琉生はもう一度付箋へ目を落とした。

二本線の下に隠された、ほんの少しの本音。

それを折らないように、そっとブレザーの内ポケットへしまう。

心臓に一番近い、特等席へ。

それから傘を手に取ったところで、ふと気づく。

(……待てよ。白石さん、自分の傘置いてったってことは……)

どうやって帰ったんだろう。

誰かの傘に入れてもらえたならいい。

でも、自分が頼んだせいで濡れていたら――。

さっきまでとは違う意味で胸がざわついた。

(……風邪ひいてないよな)

外へ出て傘を開く。

小さな傘に守られながら、琉生は雨の中を歩き出した。

翌朝。

琉生は綺麗に畳んだ傘と一緒に、お礼と心配を書いた淡いブルーの付箋を残した。

そして国語の授業。

隣から渡されたプリントには、桜色の付箋が貼られていた。

『雨すごかったけど、大丈夫でしたか?
私は結衣ちゃんの傘に入れてもらったので、大丈夫でした』

(……よかった)

ほっと息をつく。

隣を見れば、白石さんは何も知らない顔で前を向いている。

きっと昨日の文字は、二本線でちゃんと消せたと思っているんだろう。

琉生は思わず口元を緩めた。

内ポケットには、あの桜色の付箋が今も入っている。

二本線の下に隠れていた、

『一緒に……』

という言葉ごと。

(……可愛すぎだろ)

もう一度読み返したい衝動をこらえながら、机の下でそっと内ポケットへ触れる。

あの言葉の続きを、勝手に決めつけるつもりはない。

でも――。

(……次に雨降ったら、今度は俺から誘ってみよう)

そのとき白石さんが頷いてくれたなら。

今度こそ本当に、一つの傘で帰れるかもしれない。

そう思っただけで、また胸が騒がしくなる。

琉生はそれをごまかすように、そっと内ポケットへ触れた。

二本線の下に隠れていた、

『一緒に……』

まだ言葉になりきらなかったその気持ちの一部は、確かに琉生のところまで届いていた――。