ときめきの向こう側


「じゃあ。ママ行ってくるね」

 玄関でママに声をかけて家を出る。

「1人で大丈夫?」
「うん!あそこは誰にも会わない場所だから」

 春休みに入って今日はママとお出かけしようと話してた。でもママに用事が入ったからぼく1人。

 (今日はあの雑貨屋さんに行こう)

 ショルダーバッグには、普段カバンの中に直してる貝殻のキーホルダーをつけてる。
 両手には、水色のネイルを塗った。

 久しぶりのオシャレにテンションがあがる。

 (春休み中は誰にも会わないから楽しめる)

 手元を見るだけでウキウキした気持ちになる。

 家から1時間ほど先にあるショッピングモールに着いた。

(久々にここに来れた)

 ここだと地元の人はいないからのびのびと買い物ができる。


 まずは。
 いつもの雑貨屋さんにいく。


 キラキラした小物やキーホルダー。

 (わぁ。可愛い)

 手に取ったのは貝殻の着いたシャープペンシル。

 (家で使うんならいいよね)

 隣には貝がついたクリップ。

 一年間頑張ったご褒美に今日は少し奮発しちゃおう。
 そう思って両方とも手に取る。

 星の形のメモ用紙も見つけてそれも手に取りレジに行った。

 紙袋に入れてもらってお店をでる。

 (うん。今日ここに来て良かった)

 他にもみたいお店はあるけど、次に行く前にクレープを食べよう。そう思ってお店を目指した。

 紙袋に見る。
 
 ここにぼくの新しい仲間が増えた。
 少しだけ視線を下に向いてて、前から人が来てることに気がつくのが遅れた。

「すいません」

 ぶつかりそうになって謝る。

 目の前の人もスマホを見ててぼくに気がついてなかった。

「あっ、ごめんない」
 スマホから顔を上げたその人。


「あっ」
「あ!」

 同時に声が出た。

「先輩」
「君は」

 また同時に声を出した。

 (やばい!りつ!この格好)

 今日は目一杯オシャレしてるから、パーカーには少しだけフリルがついてて、ベルトも可愛い貝殻がついてるやつを選んでる。

 それに。

 (爪やばい)

 先輩にバレた。
 そう思ったら一瞬で血の気が引いた。

 (あと2年間)

「先輩。りつのこと」

 そこまで言って、まずいと思い口を手で覆った。

 先輩もびっくりした顔をしてる。

「りつ?」

 そう呟いた。

 まずい。

 どうしようとパニックになる。


 ぼくは何も言えずにただ下を向いた。

 先輩の視線を感じる。


 (沈黙が怖い。バカにされる?気持ち悪いって言われる?)


 ビクビクしてしまうぼく。


 しばらくして、頭にポンと手が乗った。

「大丈夫。落ち着いて」
 優しい声。

 (先輩バカにしたり気持ち悪いって言わない?)

 恐る恐る顔を上げる。

 優しい顔で笑ってる先輩。

「落ち着いて。大丈夫」
 そうまた繰り返し言ってくれた。

 頷くしかできないぼく。

「ん。ちょっとびっくりしたね。ぼくも驚いた。」
 そう言って笑う先輩。

「ここは高校の人は絶対来ない穴場だから来たのに。まさかきみに会うなんてね」
 先輩は、そう静かに言った。

「りつも、あっ」

 (またやっちゃった)

 慌てて口を手で押さえる。


「ここはぼくときみしかいないから。それに誰にも言わないよ」
 目線を上げてぼくの目をみてくれる先輩。

「……。りつも。人に会わないからここに来てます」
 それだけ伝えた。

「そっか。ぼくたち似てるね。ところできみはどこに向かおうとしてたの?」
 先輩にそう聞かれる。


 (どうしよう。本当のこという?)

 頭の中で必死に考える。

 もうここまでバレてるから隠しても意味ないよね。
 そう思って素直に話すことにする。

「あそこのお店のクレープが好きで。それを食べようかと思って」

 右側のお店を指さして先輩に伝えてる。

 先輩は振り返ってお店を見る。
 眉を上げる先輩。

「へぇ。こんなお店あったんだ。知らなかったな」
 そう言って、先輩は今度はぼくの顔をみた。

「きみはあのクレープ好きなの?」

 質問をされた。

 バカにしてるとか、気持ち悪いとかそんな顔じゃなくてただ聞いてる。
 そんな雰囲気の先輩。

 だからぼくも正直に答えることにした。

「はい。りつ。甘いものが好きなんです」
 言った後にしまったと思った。

「あっ……またりつと言っちゃった」
 失敗したと思って下を向く。
 
「りつ。きみの名前いいじゃん。ぼくの前ではいつものようにしていいよ」
 静かにそう言う先輩。
 
「先輩……気持ち悪くないの?」
 さっきから一言もそんなことは言わない先輩に聞いてみた。

「気持ち悪い?名前を呼ぶことが?」
「あと……、りつのこの格好も……」

 緊張して小さい声になる。

「いいんじゃない?似合ってるよ。服装も名前も」

 そう言ってくれた。

 ぼくはびっくりして先輩の顔を見る。

 先輩の顔は嘘ついてるようには見えなかった。
「……。好きなものを好きでいる勇気、いいと思うよ」


 静かにポツリとそう言った。

 (先輩?)

 先輩の言い方が少しだけ気になった。

「ぼく、そこのクレープ食べたことないから、良かったから一緒に食べない?」

 そう先輩は言った。

 びっくりして先輩を見るぼく。
 先輩をじっと見つめてしまう。
 
「そんなに驚かないでよ」
 頬をかく先輩。

「図書室とここと秘密を共有する仲の記念として」
 
 そんな風に笑う先輩。

 胸がどっどっ、と鳴ってる。

 (どうしよう。でも……)

(りつ、先輩とクレープ食べたい)

「はい。食べたいです」

 少しだけ胸が詰まって、ドキドキしてそれしか言えなかった。

「じゃあ行こうか。ぼく初めてだからおすすめ教えて」
 そう言って先輩はぼくの隣に並んだ。

 そして2人でお店を目指して足を踏み出した。

 (ママ以外とお店に入るのなんか、変な感じ)