ときめきの向こう側


「凛月、一年間ありがとう」

 ぼくに手を差し出してくれる、すいくん。

「ぼくの方こそ。すいくんが同じクラスで良かった」
 差し出された手を握る。

「また来年も同じクラスになれたらいいな」
 そう言って笑う、すいくん。

「うんっ!ぼくも!」

 入学式の朝はどうなるかと思った。

 でも……。
 すいくんのおかげで、楽しい一年が過ごせた。

「来年は、ぼくも凛月と同じ図書委員になろうかな」
 そう言って笑うすいくん。

 その言葉になんでか、ドキッとした。

 (すいくん、何か知ってる?)

 ドキドキする胸に気が付かれないように笑う。

「うん!いいね。でも」
 ここで一旦言葉を止めてみる。

「すいくんきっとまたクラス委員指名されそう。笑」
 そうやってすいくんに言ってみる。

「おっ!凛月がそんなこと言うになるなんて。笑」

 すいくんも笑ってる。

 そのまま、また新学期にと手を振って教室で別れた。


 今日で最後の図書室。


 (先輩来るかな)


 来年図書委員になれるか分からない。

 先輩と最後かも。

 ちくっ。
 胸が少しだけ痛む。

 あれから先輩は、ぼくが当番の日はふらっとやってきて奥で過ごして帰る。
 その日々の繰り返しだった。

 特に話すわけではない。
 でも、なんだか先輩が来る日が楽しみだった。


 先輩に今日何か言う?

 一年のお礼?

 いや……それはおかしいよね。

 そんなことを考えながら記録ノートを書く。
 チラリと時計を見る。

 (あと10分だ)

 先輩今日は来なかった。

 少しだけ気持ちがシュンとなる。

 ガチャ。パタン。

 (先輩かも?)

 顔をあげようと思って止める。

 (先輩のこと待ってるみたいに思われる)

 いつも通り下を向いて作業を進める。

 パタパタパタ。

 足音が近づいてくる気がする。

 
 トントン。
 カウンターを叩く音。

 (これは、顔をあげても不自然じゃないよね?)

 顔をゆっくりとあげた。

「あっ」
 目の前に先輩の顔。

「今日は顔あげなかったから、調子でも悪いかと思って」

 少しだけ心配そうな顔をしてぼくをみてる先輩。

 急いで首を横に振る。

「違います。大丈夫です」

 (先輩、ぼくのこと見てたんだ)

 そう思ったら。
 なんだか胸がぽかぽかする。

「そう。良かった。明日から春休みだね」

 先輩の方から話しかけてくれた。

「はい。一年無事に終わりました」

 ぼくもそう答える。
 ぼくの反応をみて面白そうに笑う先輩。

「きみは相変わらず面白いね。来年も図書委員希望?」

 先輩からそう聞かれた。

「はい。でも……」
 小さくなるぼくの声。

「ん?どうしたの?」
 先輩がぼくの顔を覗き込んだ。

「図書委員になれなかったら、と思うと心配で」
 先輩にそう伝えた。

 先輩は目をまんまるくして、その後。

 声をあげて笑った。

「ごめっ。笑うつもりはなかったんだけど。きみがっ……笑」
 お腹をかかえて笑う先輩。

「えっ……」
 
(りつ、面白いこと言った?)

 なんで笑われてるのか分からないぼく。

「大丈夫だよ。きっと大丈夫」
 ようやく笑い終わった先輩はぼくの顔をみてそう答える。

「でも希望殺到とか?」
「ない。大丈夫。安心していいから」

 そう言ってまた笑う先輩。

 その後ぼくに手をさし出した先輩。

「一年ありがとう。きみのおかげでぼくは休息場所を失わずに済んだよ」
 そう言ってくれる先輩。

 (この手……りつどうしたらいいの?)

 一瞬先輩の手を見つめる。


 そして。


 ゆっくりと手を握り返した。

「ぼくも先輩が来る日が楽しみでした」

(あっ、先輩の手温かい)
 
 初めて感じる人の温もり。

「うん。2年生になってもきみが図書委員になれることをぼくも祈ってるよ」

 そんな風に言って笑う先輩。

「はい。その時はまた、記録ノートはゼロにしますね」
 笑ってそう先輩に答えた。

「うん。座って本を読んでないからね」

 先輩もそう言って笑った。

「あっ、一瞬だけ抜け出してきたからもう戻らないと」
 そう言って慌ただしく図書室から出て行った。

 バタン。

 図書室のドアが閉まる。

 ぼくは先輩が握ってくれた右手を見つめる。

 なんだか、まだ先輩の手が重なってる。
 そんな気持ちになった。