カウンターに置いてるスマホが震える。
ノートにペンを置いてスマホを手に取る。
『今日は行けそうにない。ごめん』
先輩からのメール。
小さく息を吐く。
(あゆみさん……今週1回も来てない)
肩が少しだけ落ちる。
いつもなら気にならない図書室の静けさが今日はなんだか寂しく感じる。
音がないのが心細く感じる。
(なんで?普段はそんなことないのに)
「はぁ……」
急にやる気がなくなってそのまま椅子にだらんと体を預ける。
夏休みに先輩とクレープを食べに行ったあの日。
連絡先を交換した。
家に帰りベッドの上に座って、うんうん頭を悩ませる。
(りつから連絡するの変?)
でも……。
(あゆみさん先輩だし、お礼言うのはいいよね?)
スマホの画面を開いては閉じを繰り返してる。
先輩のアイコンが画面に表示されてる。
そっと指で撫でる。
(りつのスマホにあゆみさんの連絡先があるなんて)
スマホが震えて、慌ててスマホを投げてしまう。
枕にポテン。と落ちるスマホ。
慌てて拾う。
画面には先輩の名前。
慌ててタップさせる。
『凛月。今日は付き合ってくれてありがとう。クレープもスイカソーダも美味しかった。また行こう』
何回も画面を読み直す。
(うそ……あゆみさんから連絡来ちゃった)
口元に手を当ててしまう。
先輩とぼく……繋がったんだ。
そう思ったら、体の中にじわっと温かいものが駆け巡る。
『りつも楽しかったです』
ここまで打って1回手が止まる。
打っては消しを繰り返す。
(どうしよう。いいかな?少しなら)
『りつも楽しかったです。りつもまた行きたいです』
そう送った。
『うん。また行こう。また連絡する』
そう言ってたのに……そのまま夏休みは終わった。
新学期が始まって、先輩は体育祭や文化祭の準備に大忙しになってるみたい。
図書室に来ても5分、10分寝っ転がったらすぐに……戻ってる。
慌ただしくカウンターから出る先輩。
近づいたと思った……。
でも。
……やっぱり遠い人……だった。
先輩から週に1回次の週のぼくの当番の日を聞くメールが届く。
それに当番の日を打ち込んで返す。
それだけ。
本当は、無理してないですか?体調大丈夫ですか?
色々聞きたいことあるのに。
いつも人に囲まれてる先輩の姿が浮かんでは消える。
近くて遠い……人。
先週は結局一度も来なかった。
今週もまた来ないかも。カウンターでため息が溢れる。
あんなに楽しくて面白かった図書室がすこぉ——しだけ、色褪せて見える。
目の前には読みたいと思って溜めてる雑誌の山たち。
なんでか読む気が起きない。
ガチャ。バタン。
扉が開く音が聞こえて、慌てて顔をあげる。
「あっ」
小さく音が溢れる。
「凛月。ようやく来れたよ」
少しだけ疲れた顔で笑いながら近づいてくる先輩。
そのままカウンターの中に入ってきていつものように、ぼくの隣に寝転んだ。
「あゆみ先輩忙しそう」
顔がやつれてる?少し痩せた?
寝転がって目を瞑ってる先輩の顔をまじまじと見つめる。
(りつに何かできる?)
ふっと頭に浮かんだ言葉に思わず首を振る。
(りつ何考えてるの)
「凛月?何してんの?」
目を開いた先輩がぼくを不思議そうに見つめてる。
「あっ……いやっ……」
口ごもるぼくをみて、おかしそうに笑う先輩。
「なんか、凛月の顔見たらホッとした」
先輩の声が静かな図書室に響いた。
「体育祭に文化祭にめんどくせぇし、生徒会選挙もあるし受験もあるし、めんどくせぇことばっかりだよ」
少しだけイラつきを含んだ声。
「凛月とクレープ屋行きたいのに、オレ時間全然ないし、家帰れば羽柴の家がって言われるしめんどくせぇよ」
(あゆみさん、りつとクレープ屋さん行きたいと思ってくれてるの?)
その言葉に胸の中にぽわんと光が灯った。
「少しだけでも凛月の顔見たいと思っても全然来れる暇ないし、イライラしてたんだ。今日はもう無理言って抜け出してきた」
そのままぼくの顔を見つめる先輩。
「うん。やっぱり凛月の顔見るとスッと落ち着く」
そう言いながら1人で頷いてる。
「あゆみ先輩……りつの顔見たら落ち着くの?」
聞くつもりなかったの、口からこぼれた言葉。
少しだけ目を見開く先輩。
「うん。なんでかな。凛月の顔見たら心が落ち着く。なんでだろう?」
言いながら首を捻ってる。
「凛月の前では自由でいていいからかな」
そう言って目元を細めてる先輩の顔。
胸の中に灯ってた光に一気に火花が散った……気がした。
(なに?胸で何が起きたの?)
混乱する頭を落ち着けるために小さく息を吸う。
混乱した頭のまま素直な気持ちを伝えてみる。
「りつも先輩が来ないと少し寂しいし、心配になってた」
「そっか。凛月に心配させたらダメだな。凛月メールは嫌い?」
先輩が、少しだけ考え込むように黙った後ぼくにそう聞いた。
「ううん。嫌いではないです」
「そっか。なら来れない日は夜メールしようか」
パッと目の前が明るくなった気がする。
「いいの?りつやりたい!」
「うん。じゃあ来れない日は夜メールしよう」
頷いて笑ってくれる先輩。
「あっ、オレからメール来なくても凛月からも送ってきて。ぼくも待ってるから」
トットットッ。と胸が高鳴る音が聞こえる。
「いいの?りつ沢山送っちゃうかも」
「いいよ。凛月らしいメール楽しみ」
先輩の目が少しだけ輝いた、ような気がした。
先輩が壁にかけてある時計をみて、そのまま起き上がった。
「凛月じゃあ、メール待ってる。ぼくも送るから。じゃあ」
そう言って先輩は、ぼくの頭をくしゃっとかき混ぜた後にぽんぽんと撫でてくれた。
そのまま手を振りながら先輩は帰って行った。
そっと頭の上に手を乗せる。
撫でられた部分が温かい。
(これ、先輩の温もりだ)



