百瀬のほくろを俺だけに見せて


 後夜祭は、体育館でサイリウム片手にフェスのように賑やかに楽しむ組と、校庭でしっぽり楽しむ組とで分かれる。もちろんどちらに行ってもいいし、どちらにも顔を出す人も多いけれど。

「百瀬」
「あ、久我っ」

 久我は……きっと校庭組じゃないかと思う。賑やかよりは静かが好きなはず。

 けれど去年を思い起こすと、阿久津たちと体育館の前列で一緒に盛り上がった記憶もあるような、ないような? カラオケも好きだって前に言っていたし、案外ライブなら楽しめるのかもしれない。

「今日、どっちがいい? 体育館と校庭」
「どっちでもいいよ~」

 ……あ。
 
 またやったと、つい心臓がぎくりとしたけれど、久我はにこやかにそれを受け止めてくれた。

「じゃあ校庭な。俺ちょっと用事あるから、あのゴールネットの前で待ち合わせで」
「ん、わかった!」
「……すぐ行くから」

 いつになく凛々しい顔つきの久我に、ぎゅんっと心臓が跳ねる。うまく返事ができなくて、俺は黙って、代わりに何度も頷いた。


 夕暮れ時、次第に校内の雰囲気が変わり始める。
 みんなが後夜祭に向けて期待感を高めて、そわそわ、うずうず。なんだか落ち着かない。

「……先行って待ってよ!」

 久我と約束した時間より少し早いけど、俺はいてもたってもいられなくて、待ち合わせの校庭の隅へと向かった。

 日が落ちて暗くなり始めた校庭には、等間隔に灯篭がセッティングされている。『絶対合格!』とか『目指せベスト8!』とか、思い思いの願い事を眺めながら、校庭の端っこのベンチに腰を下ろす。

 久我は用事があると言っていたけど、なんだろう。どうせ呼び出しかな。でも久我……彼女いるし。
 いいんだか悪いんだか、微妙だな。

「……早く来ないかなぁ」

 この気持ちが報われて欲しいとは思わない。ただ、もう少し早く好きになっていたら? 好きだと認めていたら? そういう後悔はやっぱり付きまとう。 だけど、それでも自分の気持ちに気づけてよかったと、今では心からそう思う。

 わけもわからずイライラして、久我を傷つけて、うまく話せなくて、毎日がちょっとつまらなくて。そういう日々よりは、今のようにまっすぐ、久我と話せて嬉しい、久我と二人になれてラッキー、久我のことが好き。

 そういうふうに思える自分のほうが、俺らしいと思う。

 ナイターの明かりが消え、代わりにぽっと灯篭に明かりが入る。
 ぼんやりと温かく光るみんなの願いは、いろいろあった文化祭をやり切ったご褒美にぴったりだと思った。

「きれー……」

 灯篭に明かりが入る時間になったということは、そろそろ久我もここへ来てくれるはずだ。
 早く久我と一緒に、この風景を見たい。できれば、シャボン玉が空に浮かぶ瞬間は、久我と一緒に見たいな、なんて。
 スマホを校庭へ向けたときだった。
 
 ――あれ、久我……?
 
 画角に、ひと際光り輝く久我の姿が飛び込んでくる。
 その隣にいるのは、ロングヘアーをひとつに束ねた先輩だった。彼女は前期の生徒会長だったから、見たらすぐにわかる。
 久我のTシャツの袖をちょこん、とつまんで、なにか遠くのほうを指差していた。

 ――もしかして……彼女って、会長のこと?

 逸る心臓を必死に落ち着けようと、俺は空を見上げる。その瞬間、一斉にシャボン玉が夜空に放たれた。

「……あーあ……」

 俺の隣に、久我はいない。
 久我の隣には会長がいる。

 夜空を舞い上がっていくシャボン玉はすごく幻想的で、なんだか無性に泣きたくなった。

 俺、こんなふうで、本当にこれからも久我の隣にいられるのかな。
 友達として隣にいるって、ああいう光景をこれからも何度も何度も目にするんだぞ。本当に……本当に俺、ちゃんと笑って祝福できんのかな。

 すっと立ち上がると、俺は来た道をゆっくり引き返す。
 もう待ち合わせの時間は過ぎたし。ていうか彼女と約束してるなら、俺と約束すんなよ。

 ……いや、待てよ。まさかこれ、これから久我に彼女を紹介される流れ?

 ふとそんなふうに思い当たって、足取りはさっきよりもずっと速くなった。

「久我くんっ!」

 人の流れに逆らうように歩いていると、ふと久我を呼ぶ声が聞こえる。
 反射的に声のほうへ顔を向けてしまうと、久我と、会長。二人が顔を見合わせて、嬉しそうに微笑みあっていた。

 ――あ、全然ダメだな、これ。

 噛みちぎってしまいそうなほど強く下唇を噛んで、漏れ出そうになる嗚咽をどうにか呑み込む。

 全然ダメだわ、俺。こんなの笑えるわけない。
 下見たら泣く。下見たら泣く。そんなのやだ。

 だから俺は空を見上げようと、顔を上げたんだ。

「え、百瀬?」
「……っ⁉」

 そのとき目の前にいたのは、今一番会いたくない人。

 目を落っこちそうなくらい見開いたら、次の瞬間には、俺は久我に抱き締められていた。

「なに、どうした⁉ なんかされた? 誰に? それとも具合悪い?」

 ざわつく人混みの中で、久我はなんでか俺の心配をしている。
 彼女はどうしたんだよ。ていうか久我のせいだし。いっつもそうだよな。
 言うだけ言って、期待させるだけさせて、そのあとは涼しい顔でいつも通り。
 俺ばっかり振り回されてる気がする。

「……さいあく……」

 なのになんで、なんでこんなに満たされちゃうんだろ。
 ここは俺の場所じゃないって、わかってるのに。

「え……ごめん、百瀬。待たせたよな。それで怒ってる?」
「……違う、自分が単純すぎて悲しいだけ」

 ぐい、と久我の胸を押し返したら、久我はなにかを察知しているかのように、俺の手首を掴んで離してくれなかった。

「どうしたの、百瀬……こっち見て」
「……見て、どうすんの」

 俺は久我のこと見てるよ。だけど久我は俺のほくろしか見てないじゃん。

「ごめん、俺また八つ当たりモード入ってる……」
「ふっ……ん、いいよ、八つ当たりして」
「やだよ……!」

 好きな人に八つ当たりしたいヤツなんて、この世にいないだろ。

 だけど俺はたしかに嬉しくて。
 久我が俺の手を離さないでいてくれることが、どうしようもなく嬉しくて。

「久我くん、写真撮れたぁー?」

 少し離れたところから、会長が久我に声を掛けてきたけど、俺は久我の手を振りほどかなかった。

「あ、ハイ。ありがとうございました」
「ううん、こっちこそごめんねー、時間取らせちゃって!」

 凛とした笑みを浮かべながら、会長は久我のスマホ画面を覗き込む。

「うん、うん! いいね!」

 満足気に会長が言ったあとで、俺もこっそり久我の画面を覗いてみると。
 そこに映っていたのは、灯篭の写真。

 ――【ずっと隣にいたい】

 灯篭には流れるような綺麗な字で、そう書かれていた。

「……あ……っと、じゃあ俺はここで……」
「は? なんで――」
「あー……なんか邪魔しちゃってごめんなぁ」

 声が震えそうになって、俺はまたきつく唇を噛みしめる。
 腕を振りほどこうとしても、久我はいっそう強い力で握って、それを許してくれなかった。

「邪魔ってなに? 百瀬が邪魔なわけねーだろ」
「いや、だって……彼女、だろ?」

 目で会長を指そうと思ったら、会長は人波に消えてしまっていて見つからなかったけど。こんなの、間違いないじゃん。

「……は?」

 いまさらしらばっくれても無駄だ。
 久我は灯篭に【ずっと隣にいたい】って書いて、それを会長は満面の笑みで「いいね」って言った。二人で一緒にその灯篭を探してたんだろ?

 どう考えても俺、邪魔じゃん。

「彼女なんかいねーけど」
「嘘つくなよ」
「マジだよ、え、待って、百瀬もあの噂信じてんの?」

 げえ、って顔で見られて、ちょっとむかつく。

「信じるもなにも、俺見たし。久我が女子に囲まれて、彼女いるのかって聞かれて頷いてたの」

 忘れもしない、二学期の始業式の日。
 この目で俺は、ちゃんと見たんだ。噂に踊らされてるわけじゃない。

「……あー……なるほど、な」
「だからもう帰る――」
「ダメ」

 力強くそう言うと、久我は俺の手を引き、どこかへ連れて行こうとする。
 まるで一学期の、ほくろを見せろとせがむときと同じだ。

「久我! 俺、今日は絶対ほくろ見せないからなっ!」
「いいよべつに。でも、絶対帰さないから」

 どくん、と性懲りもなく高鳴る心臓が憎い。
 ずるいよ久我。そんな決めゼリフ吐かれたら、勘違いするよ俺。

 だって俺……おまえのこと好きなんだもん。

 すると久我は、さっき写真で見た灯篭の前で、ぴたっと足を止めた。

「……これ、俺が書いたやつ」
「ん……さっき見えた」
「百瀬のことだから」
「……はぁ?」

 なに言ってんだろうと、久我の顔を見上げる。灯篭の温かな明かりで、久我の頬はいつもより血色よく見えた。

「これ……俺の彼女」

 久我はぶっきらぼうに、スマホ画面を差し出してくる。
 見たくはないけど、どうしても気になって、俺は薄目にそれを見やった。

「……ん? これ、俺と行ったやつじゃね?」

 そこに映し出されていたのは、夏休み、一緒に映画館で撮ったチケットの写真だった。
 念のため、拡大して映画のタイトルを確認してみるけど、やっぱり間違いない。俺と観た、あのときの写真だ。

「……これのこと、みんな俺の彼女だって言ってんの」
「………ハイ?」

 そこで不意に思い出した。
 あの夜、久我が更新したストーリーの写真――。

「……たのしかった、ってちっちゃく書いてた、あれのこと……?」
「言うな言うな、めっちゃはずい」

 本当に耳まで赤くなって、久我は間違いなく照れていた。
 ……ってことは……?

「え、じゃあ……久我に彼女って……」
「いるわけねーじゃん」
「なっ……なんだよそれぇ……!」

 思わず、力いっぱい久我の腕を叩いてしまった。
 なのに久我は、なぜだか嬉しそうにはにかみながら「いってえ」とか言って。

「なぁんだよもう……ややこしいこと言いやがってぇ……」
「……ずっと、そう思ってたから」
「え?」
「ずっと、そうなればいいのにって思ってた」

 久我は俺のほうへ向き直って、なにかを訴えかけるように、じっと見つめてくる。

「百瀬が恋人だったらいいのにって、ずっと思ってたんだよ、俺」

 その瞬間、まるで周りがスローモーションみたいにゆっくりになる。

 ふわふわ漂うシャボン玉。行き交う人波。
 目の前で真剣に訴えかけてくる、好きな人。

「……え……?」

 うまく言葉が出てきてくれなくて、代わりにどんどん心臓がうるさくなっていく。

 久我が……俺のこと……?

「あ……の、それって……」
「ずっと好きなんだよ、百瀬のことが」

 なんだか少し投げやりにも聞こえるような、そんなふうな口調で、久我は信じられない言葉を呟いた。

「俺のほくろが、じゃなくて……?」
「百瀬にくっついてるから、好きなんだよ。ずっと言ってんだろ、フェチじゃねーって」

 俺は膝から力が抜けて、へなへなとその場にしゃがみ込んでしまう。

 目の前の灯篭に書かれた【ずっと隣にいたい】。

 久我は昼間、あの列に並んでこれを書いてくれたんだ。……俺の隣にいたいからって?

「返事、いらないから。百瀬が嫌じゃなかったら、これからも友達として隣に置いて欲しい」

 久我も隣にしゃがみ込んで、ほんの一ミリだけ肩が触れ合う。

 ついさっきまで、俺もおんなじことを考えていた。
 だけどやっぱりそんなの無理だって逃げようとして。
 ……なのに久我は、逃げずに俺の隣にいたいって、思ってくれてるんだ。ジンクスに頼ってまで、俺の隣にいたいって。

「やだよ、そんなの」

 ぎゅうっと襟元を握り締めて、俺は震える手を隠さずに久我に向き合った。

「俺も久我のことが好きだから……だから友達じゃ絶対にやだ!」

 絶対に、絶対に嫌だ、そんなの。

 久我の隣は俺がいい。俺の隣は久我がいい。
 これだけは絶対、絶対に譲れないよ、俺。

「……夢か」
「はぁ⁉」
「夢だわ、これ。ありえねーもん」

 久我は自分の小さな顔をまるごと両手で覆い隠して、夢だ夢だと繰り返す。
 ひどいじゃんか、俺だって一応頑張って伝えたつもりなのに。

「夢じゃないってば!」

 その手を掴んで、俺は久我を無理やりこっちに向かせた。

「……夢だったら、俺も困るから」

 じっと見つめ合うこの時間が夢だったら、俺はもうベッドから起き上がれないと思う。失意のどん底だよ。

「ほんとに……ほんとに百瀬、俺のこと好きなの? だって百瀬は女子が好きだろ。しかも、すげえ距離近いヤツいたじゃん、ならアイツのほうが本命――」
「待った待った待った! 本命? 誰のこと言ってんの⁉」
「……カフェで百瀬に抱き着いてた、デカいヤツ。今日もいたじゃん」

 まるでいじけた子供みたいな上目遣いで、久我は俺を見やった。なんで春馬が本命って話になるんだ。そもそもアイツは、いとこだぞ?

「春馬はかわいい弟分っていうか……いとこの中でも仲がいいってだけだよ?」
「は……? いとこ?」
「ん? 前にそう言わなかったっけ?」
「言ってねえ、絶対言ってねえ!」

 久我にしては力の入った声で、どうやら本当に俺が紹介していなかったのだと悟った。それで誤解させてたなら、申し訳なかったな。

「ごめんな、全然言ったつもりだった」

 ここで頭を撫でたら、久我は怒るかな――一瞬そう考えたけど、気づいたときには久我の頭に手が伸びていた。
 思わずよしよし、ってしたくなる。そういう顔で見てくるんだもん。

「好きだよ、ほんとに。ずっと好きだったよ」

 思い返せば、久我に彼女ができたと聞いたとき、俺はその場から動けなくなった。もうあのとき、答えは出てたんだ。ずっとそれに気づかないようにしてきただけで。

「男とか女とか、今まで考えたことなかったから、正直わかんない。けど、久我のことが好きなのは本当だから」

 こんなふうな言い方じゃ、俺が久我を好きだって証明にはならないよな。でも、それしか言えないだろ。こんなに好きだってこと、久我だけが特別なんだってことを、言葉で伝えるのは難しいよ。

「……あ。そうだ」

 俺はぴんときて、久我の手を自分の鎖骨へと持っていく。

「これ、久我が剥がして?」
「………やっぱぜってー夢じゃん」
「なんでだよ!」

 じっとりとした目で、久我は俺を睨んでくる。

「……ほんと危ないんだよな、百瀬」
「こんなの、久我以外にさせるわけないじゃん」

 当然だろ。俺だってちゃんと、相手くらい選ぶわ。

「久我にしか許さないよ、こんなこと」

 ほくろを差し出すことも、首筋に触れることも、自分の気持ちを曝け出すことも。この絆創膏を剥がすことだって、久我が特別だから許すんだ。

「っ!」

 久我の細く長い指先が、鎖骨の絆創膏を遠慮がちにひっかいた。

「……はぁ……無念無想、無念無想」
「えぇ……?」

 それ、なんだっけ。どっかで聞いたことがある気がするけど。
 久我の指先は、ゆっくりと、決して俺を痛めつけないように慎重に、絆創膏を剥がしてくれた。

「……なんだ、いつものほくろじゃん」
「ふはは! それ、俺もいっつも思ってたよ」

 毎日毎日、ほくろを見せろって言ってくる久我に、俺も同じことを思ってた。

「……よかった、いつもと同じで」

 まるで本当に大切なものみたいに、久我は俺のほくろをそっと撫でた。
 ぴく、っと肩が反応してしまうと、久我はまた「無念無想、無念無想」と呪文のように唱えて、まったく様子がおかしくて。

「久我、変なの~」
「だから俺はずっと変だっつうの、気づくのおせー」

 顔を見合わせて、笑い合う。
 それだけで、こんなに幸せでいいんだろうか。

「……どうしよ、今めっちゃ抱き締めたい」
「へぇ⁉ い、いまぁ……⁉」

 俺だって同じ気持ちだと思う。だけどさすがに、今ここではまずいだろ。

 頭ではわかっているのに、目の前の熱い瞳に吸い寄せられそうになった、そのときだ。

「次でシャボン玉最後でーす!」

 悶々とする俺たちの前を巡回してきた実行委員は、そう言いながらサイリウムの腕輪を配り歩いていた。

「……もらってくるわ」

 そう言って久我が立ち上がる。

「あ、う、うん、ありがと……!」

 ――あ、危なかった……!

 恋をすると周りが見えなくなるって、本当だな。はぁ、と息を整えているとすぐに久我は戻って来て、パキッと折った腕輪を一本渡してくれた。

 地べたに体育座りで並んで、俺たちは最後のシャボン玉の放出を待つ。

「……百瀬、もっかい聞くけどさ。ほんとに俺と付き合ってくれんの?」
「くれんの、じゃなくて、俺が付き合いたいの」

 お互いに膝に顔を半分埋めたまま、そんなふうに気持ちを確認し合う。
 くすぐったいな、なんかこういうの。

 久我……ほんとに俺のこと好きなのかぁ。

 じわりと目の奥が熱くなったとき。
 カウントダウンとともに、最後のシャボン玉が大量に夜空に放たれた。

「わー! めっちゃ幻想的!」

 夜空に浮かぶ無数のシャボン玉と、そこかしこでゆらゆら揺れる灯篭の明かり。

「百瀬、こっち」
「ん?」
「はい、真似して。写真撮りたいから」
「え? ま、またぁ……?」

 久我に言われるがまま、俺たちは腕輪を二本、シャボン玉が幻想的な夜空に掲げた。
 カシャ、とシャッターを切る音がすると、久我は満足げに微笑む。

「ん、いい感じ。今日は記念日だから、ちゃんと残しておかないとな」
「き、記念日……記念日か……」

 久我は案外、そういうことを大事にするタイプらしい。だから俺も、今はまだちょっと気恥ずかしいけど、ちゃんと大事にしようと心に決めた。
 自分の撮ったいい感じの写真を眺めたあと、久我の目は、俺をじっくりと眺める。瞳の奥にちらつく熱は、ほくろじゃなくて、俺自身に向けられている。

「……じゃあ、これからよろしくな、百瀬」

 まるで初めて図書室でほくろを見せる約束をした、あのときみたいに。久我はさらりと髪をかき上げる。
 俺の心臓もあのときと同じように、やっぱり、ひゅんってなるけど。

「ん! 末永く、よろしく!」

 だけど、あのときとはなにもかもが違う。

 俺たちは今、両想いの恋人同士になったんだから。