「あれ、今日は京弥いんの? めずらしー」
俺の正面に座っている京弥を見て、カイは目を丸くした。
いつもの昼休み。だけどいつもと違うのは、いつもは彼女とどこかに消えていた京弥が教室にいることだ。
「おまえとメシ食うの一ヶ月ぶりぐらい? 今日は彼女ちゃんはいいわけ?」
「別れた」
京弥が弁当箱を開きながら静かに答える。
あまりにもあっさりとした風に言うので、思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。
「……へー、そうなんだ。どんまい」
俺と京弥が向き合う机の短辺に椅子を寄せてきたカイは、不自然な間の後にふむふむと頷くと、意味深に俺の方に視線を向けた。
その目がニヤついているように見えるのは勘違いではないだろう。
「よかったじゃん」とか「俺のおかげじゃね」とか、後できっと色々言ってくるに違いない。
京弥が彼女と別れたなんて喜ばしいことだ。
いつもの俺なら心の中でガッツポーズでもしているところだが、今はそんな気分になれなかった。
あの夜。京弥は一回キスをして満足したのか、何食わぬ顔をして俺のベッドで寝こけていた。その隣で、俺はドキドキして一睡もできなかった。
そりゃあ慣れている京弥からすれば、キスの一つや二つどうってことないかもしれないけど……。
一瞬舞い上がりかけたけど、あれはノーカンだ。だって、カイに一番をとられたくないからっていうエゴをぶつけられただけなんだから。
「で、別れた理由は何なの?」
「んー、やっぱなんか違うなって」
「でた~、何気に一番傷付く理由じゃんそれ」
「悪いとは思ってるけど」
悶々とする俺のそばで、カイと京弥が会話を交わしていく。
なんだか今日の京弥は歯切れが悪い。あんまり深く突っ込んでほしくなさそうだ。
それなのに、きっとそれをわかったうえで、カイは持ち前の図々しさでぐいぐいと質問攻めをしている。
「つか京弥から振ったの? 珍しくね? いっつも振られる側なのに」
「……え、そうなの?」
さすがに話を遮らずにはいられなかった。
思わず身を乗り出した俺に、二人分の視線が向けられる。
「なに。京弥、倉に言ってなかったの?」
「俺には、女子の話とかあんましてくんない……」
「えー俺にはめっちゃ話してくんのに。言いたくない理由でもあるわけ?」
嘘だろ……。
高校に入ってから全然女関係の話をしてくれなくなったのは、友達にそういう話をするのが嫌になったのかと勝手に思い込んでいたのに。
実際はカイには赤裸々に話してて、俺にだけ秘密だったってこと?
責めるような気持ちで京弥を見ると、彼は特に悪びれる様子もなく俺を見つめ返してくる。
「倉にはなんか、話しづらいんだよね」
「どゆこと」
「そのまま。倉といるときは彼女とかそういう話、したくないんだよ。純粋に楽しみたいっていうか」
理由を聞いて、ますます謎が深まってしまった。
それってなんか、彼女といるのが楽しくないみたいに聞こえるんだけど……?
「もういいだろ、俺の話は。そんなことより、おまえらはどうなの」
「俺ら?」
「お付き合いは順調なのかって聞いてんの」
やたらと棘のある口調で、腕を組みながら京弥が尋ねる。
その顔がむっとしているように見えるのは気のせいではないだろう。
カイはきょとんとした顔をしていたが、すぐに状況を察したのか、わざとらしくにこーっと笑顔を作った。
「マジで順調~! 超ラブラブだし! なっ?」
「……お、おう」
カイが俺の方に椅子を近づけて、ぎゅっと肩を抱き寄せてくる。俺は慌てて愛想笑いを浮かべた。
いつまでこんな芝居を続ける気なんだ。
最初は期待に胸を膨らませていたけど、正直すでに諦めモードだ。
このまま続けたって、京弥の俺に対する謎の独占欲が膨らむだけなような気がするんだけど……。
釈然としない気持ちのままパンを齧っていると、俺の顔を覗き込んだカイが突然噴き出した。
「なんかそうしてると、マジでマーモットそっくりじゃん」
「おい、それ言うな。忘れかけてたのに傷抉ってくんなよ」
「なぁんで、俺結構気に入ってんだけど。マーくん」
「だから、俺はマーモットじゃ──」
ニヤつくカイに言い返そうとしたそのとき、正面でがたっと椅子を引くような音がした。その直後、すぐそばに人の気配を感じる。
顔を上げると、京弥がむすっとした顔をしてカイのことを見下ろしていた。
「倉のこといじんのやめて」
不機嫌そうにそう言った京弥は、俺の椅子の背もたれを掴んで、ずるずると椅子ごとカイから引き剥がす。教室の床が悲鳴を上げている。
突然の奇行に呆気に取られていた俺は、はっと我に返って京弥を見つめ直した。
「いや、散々俺のこといじり倒してるやつが何言ってんの」
「俺はいいけど、カイはだめ」
「なんだそれ、理不尽すぎない?」
呆れた俺は苦笑いをこぼす。
京弥ってこんなに子ども染みた行動をする人だったっけ。
もっと理性的で落ち着いてる、余裕のある感じだったくせに、何か今日の京弥はおかしい。
「俺のいじりには愛があるの。おまえとは違う」
「……へえ?」
京弥がカイに言い放つと、カイは楽しそうに口角を上げた。
「俺だって好きだけどなぁ、倉のこと」
「はっ、どうだか」
「なんてったって俺ら、付き合ってるんだし。幼馴染ってだけの京弥よりも、いじる権利はあると思うけど~?」
カイが言い返すと、京弥の眉間のしわがますます濃くなる。
二人を交互に見つめながら、俺はこの異様な雰囲気に困惑していた。
*
「倉、ペア一緒に組も」
「いーよ」
昼の違和感が勘違いとかじゃなかったってことは、その後すぐに証明されることになった。
体育の授業の準備体操で、京弥は真っ先に俺に声をかけてきた。
いつもならその辺にいる人と適当に組むのに、わざわざ端にいる俺のところに来るなんて変だ。
「痛くない?」
「うん、平気。もうちょい引っ張っていいよ」
「わかった」
京弥とペアでストレッチをしながら、京弥の顔をこっそり覗き見る。
涼しい顔をしているから、何を考えているのかがさっぱりわからない。
──倉が俺以外を一番にしてると思うと、なんか腹立つだけ。
──飼ってる犬が俺より友達に懐いてたらなんかムカつくだろ。それと一緒。
だけどあんなことを言っていた男だ。
きっと昼にカイにあんな風に挑発されたから、俺を取り返そうと躍起になっているだけに違いない。
恋愛感情のない独占欲って、何気に一番厄介かもしれない。
キスされて、その直後に彼女と別れて、なんか俺のところに来て、普通だったら舞い上がってもいいはずなのに。
せっかく京弥の意識が俺に向いてくれているのに、俺は欲張りだから、これじゃないと無意識に心が否定してしまう。
俺が欲しいのはもっと、京弥の心まるごと全部なんだ。
「……っはぁ、はー……」
「大丈夫かよ倉掛」
「むり、も、しぬ……」
体育館の中を三周全力で走った後、俺はぐったりと壁にもたれかかる形で座り込んでいた。
高校に入ってからは帰宅部を極めているせいで、すっかり体力が落ちてしまった。
ずるずると身体を沈みこませて天井を見つめていると、不意に目の前に影が落ちた。
「大丈夫?」
「……きょーや」
「水持ってきたから、飲みな」
俺の前に現れた京弥は、背中を支えて俺の上体を起こすと、流れるように俺の隣に腰を下ろした。
ペットボトルのキャップを開けた状態で水を手渡され、一瞬瞠目したが、「さんきゅー」と言いながら受け取る。
ひんやりとした水が喉を潤していく間、京弥がじっと俺の様子を凝視しているのが視界の端に映っていた。
「もう終わり? 全然減ってないよ。もっと飲みなって」
「いいって、もう充分」
「だめ。俺の言うこと聞いて」
言い聞かせるように顔を寄せられて、どきっとしてしまう。
「ほら」と言って口元に飲み口を近づけられて、少し迷った挙句俺はそのまま京弥の手から水を飲んだ。
「……うん、偉いね。ちゃんと飲めたじゃん」
「だいぶ無理してるけどね?」
「水分取らなきゃ倒れちゃうよ。倉、体力ないんだし」
京弥はそう言うと、俺の肩をそっと抱き寄せた。京弥の肩にもたれかかるような体勢になって、慌てて身体を起こそうとするが、肩に回された手は離れてくれない。
いつになく積極的な京弥に困惑してしまう。今までは俺が一方的にくっついてるばっかりだったのに。
「うわ、久々に見た。バカップル」
「確かに。最近イチャイチャしてなかったよな」
通りがかったクラスメイト達が、俺達の姿を目にして冷やかしてくる。
いつもなら軽いノリで返すのに、なんでだろう。今日は結構恥ずかしい。
「てかそうしてると、倉掛、本当に京弥の彼女みたい」
誰かがそんなことを言って、周囲が「なんかわかるわー」と笑っている。
その言葉を聞いた俺は、すとんと腑に落ちた。
……なんとなく照れ臭いのは、京弥が俺を女扱いしているように感じるからだ。
多分京弥は無意識なんだと思う。だけど、男の俺に以前までだったら絶対にこんなことはしなかった。
水を渡すところまではしてくれても、甲斐甲斐しく飲ませてくるなんて死んでもなかった。
彼女にもこういうことしてたんだろうな。あまりにも慣れた様子だったから、九十九パーセントそうだと思う。
なるほど、京弥はこうやって女の子を堕とすんだな……。
「どしたの倉、体調悪い?」
いつもはうるさい俺が黙り込んでいることに違和感を感じたらしい。京弥が訝しげに俺の顔を覗き込む。
俺が首を横に振りながら「なんでもない」と言葉を返すと、「ならよかった」と京弥が小さく笑った。
京弥の体温を感じながら、俺は密かにドキドキと激しく心臓を鳴らしていた。
俺の正面に座っている京弥を見て、カイは目を丸くした。
いつもの昼休み。だけどいつもと違うのは、いつもは彼女とどこかに消えていた京弥が教室にいることだ。
「おまえとメシ食うの一ヶ月ぶりぐらい? 今日は彼女ちゃんはいいわけ?」
「別れた」
京弥が弁当箱を開きながら静かに答える。
あまりにもあっさりとした風に言うので、思わず飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。
「……へー、そうなんだ。どんまい」
俺と京弥が向き合う机の短辺に椅子を寄せてきたカイは、不自然な間の後にふむふむと頷くと、意味深に俺の方に視線を向けた。
その目がニヤついているように見えるのは勘違いではないだろう。
「よかったじゃん」とか「俺のおかげじゃね」とか、後できっと色々言ってくるに違いない。
京弥が彼女と別れたなんて喜ばしいことだ。
いつもの俺なら心の中でガッツポーズでもしているところだが、今はそんな気分になれなかった。
あの夜。京弥は一回キスをして満足したのか、何食わぬ顔をして俺のベッドで寝こけていた。その隣で、俺はドキドキして一睡もできなかった。
そりゃあ慣れている京弥からすれば、キスの一つや二つどうってことないかもしれないけど……。
一瞬舞い上がりかけたけど、あれはノーカンだ。だって、カイに一番をとられたくないからっていうエゴをぶつけられただけなんだから。
「で、別れた理由は何なの?」
「んー、やっぱなんか違うなって」
「でた~、何気に一番傷付く理由じゃんそれ」
「悪いとは思ってるけど」
悶々とする俺のそばで、カイと京弥が会話を交わしていく。
なんだか今日の京弥は歯切れが悪い。あんまり深く突っ込んでほしくなさそうだ。
それなのに、きっとそれをわかったうえで、カイは持ち前の図々しさでぐいぐいと質問攻めをしている。
「つか京弥から振ったの? 珍しくね? いっつも振られる側なのに」
「……え、そうなの?」
さすがに話を遮らずにはいられなかった。
思わず身を乗り出した俺に、二人分の視線が向けられる。
「なに。京弥、倉に言ってなかったの?」
「俺には、女子の話とかあんましてくんない……」
「えー俺にはめっちゃ話してくんのに。言いたくない理由でもあるわけ?」
嘘だろ……。
高校に入ってから全然女関係の話をしてくれなくなったのは、友達にそういう話をするのが嫌になったのかと勝手に思い込んでいたのに。
実際はカイには赤裸々に話してて、俺にだけ秘密だったってこと?
責めるような気持ちで京弥を見ると、彼は特に悪びれる様子もなく俺を見つめ返してくる。
「倉にはなんか、話しづらいんだよね」
「どゆこと」
「そのまま。倉といるときは彼女とかそういう話、したくないんだよ。純粋に楽しみたいっていうか」
理由を聞いて、ますます謎が深まってしまった。
それってなんか、彼女といるのが楽しくないみたいに聞こえるんだけど……?
「もういいだろ、俺の話は。そんなことより、おまえらはどうなの」
「俺ら?」
「お付き合いは順調なのかって聞いてんの」
やたらと棘のある口調で、腕を組みながら京弥が尋ねる。
その顔がむっとしているように見えるのは気のせいではないだろう。
カイはきょとんとした顔をしていたが、すぐに状況を察したのか、わざとらしくにこーっと笑顔を作った。
「マジで順調~! 超ラブラブだし! なっ?」
「……お、おう」
カイが俺の方に椅子を近づけて、ぎゅっと肩を抱き寄せてくる。俺は慌てて愛想笑いを浮かべた。
いつまでこんな芝居を続ける気なんだ。
最初は期待に胸を膨らませていたけど、正直すでに諦めモードだ。
このまま続けたって、京弥の俺に対する謎の独占欲が膨らむだけなような気がするんだけど……。
釈然としない気持ちのままパンを齧っていると、俺の顔を覗き込んだカイが突然噴き出した。
「なんかそうしてると、マジでマーモットそっくりじゃん」
「おい、それ言うな。忘れかけてたのに傷抉ってくんなよ」
「なぁんで、俺結構気に入ってんだけど。マーくん」
「だから、俺はマーモットじゃ──」
ニヤつくカイに言い返そうとしたそのとき、正面でがたっと椅子を引くような音がした。その直後、すぐそばに人の気配を感じる。
顔を上げると、京弥がむすっとした顔をしてカイのことを見下ろしていた。
「倉のこといじんのやめて」
不機嫌そうにそう言った京弥は、俺の椅子の背もたれを掴んで、ずるずると椅子ごとカイから引き剥がす。教室の床が悲鳴を上げている。
突然の奇行に呆気に取られていた俺は、はっと我に返って京弥を見つめ直した。
「いや、散々俺のこといじり倒してるやつが何言ってんの」
「俺はいいけど、カイはだめ」
「なんだそれ、理不尽すぎない?」
呆れた俺は苦笑いをこぼす。
京弥ってこんなに子ども染みた行動をする人だったっけ。
もっと理性的で落ち着いてる、余裕のある感じだったくせに、何か今日の京弥はおかしい。
「俺のいじりには愛があるの。おまえとは違う」
「……へえ?」
京弥がカイに言い放つと、カイは楽しそうに口角を上げた。
「俺だって好きだけどなぁ、倉のこと」
「はっ、どうだか」
「なんてったって俺ら、付き合ってるんだし。幼馴染ってだけの京弥よりも、いじる権利はあると思うけど~?」
カイが言い返すと、京弥の眉間のしわがますます濃くなる。
二人を交互に見つめながら、俺はこの異様な雰囲気に困惑していた。
*
「倉、ペア一緒に組も」
「いーよ」
昼の違和感が勘違いとかじゃなかったってことは、その後すぐに証明されることになった。
体育の授業の準備体操で、京弥は真っ先に俺に声をかけてきた。
いつもならその辺にいる人と適当に組むのに、わざわざ端にいる俺のところに来るなんて変だ。
「痛くない?」
「うん、平気。もうちょい引っ張っていいよ」
「わかった」
京弥とペアでストレッチをしながら、京弥の顔をこっそり覗き見る。
涼しい顔をしているから、何を考えているのかがさっぱりわからない。
──倉が俺以外を一番にしてると思うと、なんか腹立つだけ。
──飼ってる犬が俺より友達に懐いてたらなんかムカつくだろ。それと一緒。
だけどあんなことを言っていた男だ。
きっと昼にカイにあんな風に挑発されたから、俺を取り返そうと躍起になっているだけに違いない。
恋愛感情のない独占欲って、何気に一番厄介かもしれない。
キスされて、その直後に彼女と別れて、なんか俺のところに来て、普通だったら舞い上がってもいいはずなのに。
せっかく京弥の意識が俺に向いてくれているのに、俺は欲張りだから、これじゃないと無意識に心が否定してしまう。
俺が欲しいのはもっと、京弥の心まるごと全部なんだ。
「……っはぁ、はー……」
「大丈夫かよ倉掛」
「むり、も、しぬ……」
体育館の中を三周全力で走った後、俺はぐったりと壁にもたれかかる形で座り込んでいた。
高校に入ってからは帰宅部を極めているせいで、すっかり体力が落ちてしまった。
ずるずると身体を沈みこませて天井を見つめていると、不意に目の前に影が落ちた。
「大丈夫?」
「……きょーや」
「水持ってきたから、飲みな」
俺の前に現れた京弥は、背中を支えて俺の上体を起こすと、流れるように俺の隣に腰を下ろした。
ペットボトルのキャップを開けた状態で水を手渡され、一瞬瞠目したが、「さんきゅー」と言いながら受け取る。
ひんやりとした水が喉を潤していく間、京弥がじっと俺の様子を凝視しているのが視界の端に映っていた。
「もう終わり? 全然減ってないよ。もっと飲みなって」
「いいって、もう充分」
「だめ。俺の言うこと聞いて」
言い聞かせるように顔を寄せられて、どきっとしてしまう。
「ほら」と言って口元に飲み口を近づけられて、少し迷った挙句俺はそのまま京弥の手から水を飲んだ。
「……うん、偉いね。ちゃんと飲めたじゃん」
「だいぶ無理してるけどね?」
「水分取らなきゃ倒れちゃうよ。倉、体力ないんだし」
京弥はそう言うと、俺の肩をそっと抱き寄せた。京弥の肩にもたれかかるような体勢になって、慌てて身体を起こそうとするが、肩に回された手は離れてくれない。
いつになく積極的な京弥に困惑してしまう。今までは俺が一方的にくっついてるばっかりだったのに。
「うわ、久々に見た。バカップル」
「確かに。最近イチャイチャしてなかったよな」
通りがかったクラスメイト達が、俺達の姿を目にして冷やかしてくる。
いつもなら軽いノリで返すのに、なんでだろう。今日は結構恥ずかしい。
「てかそうしてると、倉掛、本当に京弥の彼女みたい」
誰かがそんなことを言って、周囲が「なんかわかるわー」と笑っている。
その言葉を聞いた俺は、すとんと腑に落ちた。
……なんとなく照れ臭いのは、京弥が俺を女扱いしているように感じるからだ。
多分京弥は無意識なんだと思う。だけど、男の俺に以前までだったら絶対にこんなことはしなかった。
水を渡すところまではしてくれても、甲斐甲斐しく飲ませてくるなんて死んでもなかった。
彼女にもこういうことしてたんだろうな。あまりにも慣れた様子だったから、九十九パーセントそうだと思う。
なるほど、京弥はこうやって女の子を堕とすんだな……。
「どしたの倉、体調悪い?」
いつもはうるさい俺が黙り込んでいることに違和感を感じたらしい。京弥が訝しげに俺の顔を覗き込む。
俺が首を横に振りながら「なんでもない」と言葉を返すと、「ならよかった」と京弥が小さく笑った。
京弥の体温を感じながら、俺は密かにドキドキと激しく心臓を鳴らしていた。


