歌い手王子の恋愛事情

丁寧に店主にごちそうさまでしたを言ってお金を払い店を出ると、チカがようやくスマホを取り出して何やら調べ出した。
多分マップでも見ているのだろう。

その伏せられた睫毛の長さにぼんやり見惚れていた俺は、「かっこいいなあ、」と無意識に呟いていた。


「…へ?」

呆けたような顔のチカを見て、笑ってしまう。

「だーかーらー、チカはすごくかっこいいなって」

「…それ、」
「顔もかっこよくて好きだし、低い声も色っぽいし、歌い方もめちゃくちゃ好きだし、性格はもっと好き。」

「……え、」

「すぐ怒ったり泣いたりする俺のこといつも見捨てないでいてくれるし、配信でさりげなく俺のミスフォローしてくれるし、…突然逃げても追いかけてきてくれるし。横でラーメン食ってるだけで、すごい幸せ」



いつもありがと、と笑うと、はくはくと口を開け閉めして声の出ない様子の間抜けなチカの姿に、珍しいもの見たな、と思う。

いつも余裕綽々な男をただかっこいいと思うのに、今はなんだか可愛く見える。恋の力って恐ろしい。

「…っ、ミズキ、!」
「……あ、クル兄から電話だ、」

ブルブルと尻ポケットで振動するスマホを取り出しながら告げると、がくっとチカが項垂れるのが見えて、ごめん、と片手で小さく謝って電話に出る。

なにか仕事の話かと思えば、なんてことはない、チカも誘って夜飲みに行かねえか、というお誘いだった。ケイちゃんも一緒らしい。


「今ちょうどチカとごはん食べたとこ。聞いてみるね」
目視でどうする、と問えば、チカに、代わって、と促されスマホを渡す。
チカは少々むくれた様子で、電話口に変わるなり、クル兄の馬鹿、いいとこだったのに、とぶうぶう文句を言っている。

「ミズキも俺も今日はパスで。ーー俺にも計画ってもんがあるんだよ!……わかったって、後でちゃんと話すから。…ハイハイ。じゃあケイトによろしく」
とそのまま電話を切ってしまった。
はい、とスマホを返され、「駅、こっちっぽい」と自分のスマホを見ながら歩き出すチカの後をひょこひょこついて行く。
どこへ行くつもりなの、と聞いてみたかったが、一度逃走した身なので大人しくしていた。


電車に揺られて少し、ついたのは事務所の最寄り駅で、事務所に行くのかと思いきやそのまま通り過ぎて、結局待ち合わせ場所の公園に戻ってきた。

俺が逃げた場所を見るや否や、何を思い出したのか小さく吹き出すチカに、軽くグーでパンチを入れておく。

それにしてもまた戻ってくるなんて、よほどこの公園に用があったのだなと思う。

「計画ってなに?」

先ほどクルとの電話で言っていたことを思い出して問いかけると、にやっと、「内緒」と意地悪く微笑まれた。