「ーー俺たち、quatre chocolatsでーす!」
「いぇーーーい!」
画面を見ながら、マイクに向かってどんどんぱふぱふー!と合いの手を入れる。
プライベートでの俺の機嫌がどん底だろうと、仕事は待ってくれない。
こういう時、元気いっぱいテンション高めの“ミズキ”はちょっとつらい。普段なら演じる、という感覚もそんなになく会話に乗っていけるけど、今日は意識しないと顔が死んじゃいそうだ。
救いは、スタジオ収録じゃなくて、自宅からの配信の日だったということだ。
チカと顔を合わせなくて済む。今会ったらどんな顔をすればいいのかわからないし。
「最近ね、チカちゃんの声が色っぽすぎるんじゃないかって一部界隈でもっぱらの噂のようで」
「一部界隈ってどこだよ?キャトショコ内?」
「めっちゃ狭っっ!」
「いや、リスナーさんも勿論だけど、取引先の方とかね、仰っていただくことがほんと多くて…あ、あとうちのお母さんもチカちゃんのファンなんだけど、」
「ええ、ケイちゃんのお母さん…そこケイちゃんじゃないんだ…!」
「チカちゃん推しなの。しかも強火の」
「ケイトママ、ありがとう、今日も愛してるぜ」
わざとの低音ボイスで囁いて、ちゅっとリップ音を入れるチカにみんなの笑い声が乗る。
「ケイトの母ちゃん、この前までクル担だっただろ!?」
「クルちゃんごめんね?この前帰ったら、お母さん推し変したの、って言われて…」
「ケイトママわかってる。時代はもう俺の流れになってるから」
「やばい、時代はもう俺の流れとか…流れ終わった後悲しくなるから言わないほうがいいよ…?」
「流れ終わるとか言うなよミズキ!縁起悪いな!?」
うん、この感じならいける。いつも通り。いつも通り。ようやくほっとした俺は、しかし次のクル兄の発言に、文字通り体を固まらせた。
「そんなこと言ってミズキ、お前も強火のチカ担だもんなあ?この前、スタジオで音源の確認してた時さあ、チカの歌ってみた聞いて、ミズキ、マジで照れて顔真っ赤にしてんの」
「…っ、ちょっ!」
「ああ、あったねえ。ミズちゃん可愛いよね、普段からチカの声も歌も、いちばん近くで聞き慣れてる筈なのに」
「……っ、ミズキ、お前、そんなに俺のこと…?」
「そ、そ、そうだよ!?俺、チカ担だから!!声と歌と顔とカラダが目当てのね!!」
「カラダ目当てかよ!」
「…というわけで、今日は、チカの歌のどこが色っぽいか、AIと時々ケイトママの解説付きで検証して、今後どんな歌を歌えばもっとバズるか検証していくー!」
流れで企画の内容を説明していくケイトの声に相槌を打ちながら、どっくんどっくん、激しく打ち続ける心臓の音がもしマイクに拾われていたらどうしよう、全世界配信じゃんーーなんて無意味な不安に駆られてみたりする。
大丈夫、まだ上手に演じられてる筈だから。
今なら、何も生まれてさえなかったことにできるんだから。
俺はこの場所を、大事な仲間を、“ミズキ”を、無くしたくないから、今日も必死で笑う。
いつか、あれは気の迷いだったと、自然に笑って話せる日まで。
「いぇーーーい!」
画面を見ながら、マイクに向かってどんどんぱふぱふー!と合いの手を入れる。
プライベートでの俺の機嫌がどん底だろうと、仕事は待ってくれない。
こういう時、元気いっぱいテンション高めの“ミズキ”はちょっとつらい。普段なら演じる、という感覚もそんなになく会話に乗っていけるけど、今日は意識しないと顔が死んじゃいそうだ。
救いは、スタジオ収録じゃなくて、自宅からの配信の日だったということだ。
チカと顔を合わせなくて済む。今会ったらどんな顔をすればいいのかわからないし。
「最近ね、チカちゃんの声が色っぽすぎるんじゃないかって一部界隈でもっぱらの噂のようで」
「一部界隈ってどこだよ?キャトショコ内?」
「めっちゃ狭っっ!」
「いや、リスナーさんも勿論だけど、取引先の方とかね、仰っていただくことがほんと多くて…あ、あとうちのお母さんもチカちゃんのファンなんだけど、」
「ええ、ケイちゃんのお母さん…そこケイちゃんじゃないんだ…!」
「チカちゃん推しなの。しかも強火の」
「ケイトママ、ありがとう、今日も愛してるぜ」
わざとの低音ボイスで囁いて、ちゅっとリップ音を入れるチカにみんなの笑い声が乗る。
「ケイトの母ちゃん、この前までクル担だっただろ!?」
「クルちゃんごめんね?この前帰ったら、お母さん推し変したの、って言われて…」
「ケイトママわかってる。時代はもう俺の流れになってるから」
「やばい、時代はもう俺の流れとか…流れ終わった後悲しくなるから言わないほうがいいよ…?」
「流れ終わるとか言うなよミズキ!縁起悪いな!?」
うん、この感じならいける。いつも通り。いつも通り。ようやくほっとした俺は、しかし次のクル兄の発言に、文字通り体を固まらせた。
「そんなこと言ってミズキ、お前も強火のチカ担だもんなあ?この前、スタジオで音源の確認してた時さあ、チカの歌ってみた聞いて、ミズキ、マジで照れて顔真っ赤にしてんの」
「…っ、ちょっ!」
「ああ、あったねえ。ミズちゃん可愛いよね、普段からチカの声も歌も、いちばん近くで聞き慣れてる筈なのに」
「……っ、ミズキ、お前、そんなに俺のこと…?」
「そ、そ、そうだよ!?俺、チカ担だから!!声と歌と顔とカラダが目当てのね!!」
「カラダ目当てかよ!」
「…というわけで、今日は、チカの歌のどこが色っぽいか、AIと時々ケイトママの解説付きで検証して、今後どんな歌を歌えばもっとバズるか検証していくー!」
流れで企画の内容を説明していくケイトの声に相槌を打ちながら、どっくんどっくん、激しく打ち続ける心臓の音がもしマイクに拾われていたらどうしよう、全世界配信じゃんーーなんて無意味な不安に駆られてみたりする。
大丈夫、まだ上手に演じられてる筈だから。
今なら、何も生まれてさえなかったことにできるんだから。
俺はこの場所を、大事な仲間を、“ミズキ”を、無くしたくないから、今日も必死で笑う。
いつか、あれは気の迷いだったと、自然に笑って話せる日まで。
