How will the love triangle work out?

 次の日、登校すると笹尾はいつものように奏の後ろの席に座っていた。昨日のケイとのことが頭をよぎり、まともに笹尾の顔を見ることができない。
 笹尾から告白はないものの、キスはされたのだ。その時点ですでに友達以上の関係と言えるのではないか、そう奏は思う。一方でケイともキスをしてしまった。まるで二股をかけているような気分になり、酷い罪悪感に苛まれた。
(二股なんてしたことないけど……)
 付き合ったこともないのに二股などあるはずはなかったが、二股をするとこんな気持ちになるのかと思うと、到底自分には無理だと思った。

 その日は勉強会がない日だったが、送ると言われ断ることもできず、隣に笹尾が並んで歩いている。笹尾の家は全くの逆方向だ。それなのに、わざわざ遠回りをして自分を送ってくれている。
「笹尾、ごめんな。遠回りさせて」
「全然大丈夫。奏と少しでも一緒にいたいから」
そんなことを言われ、奏の顔は一気に熱くなった。

 家の前までくると、
「じゃあ、また明日」
 笹尾の顔が近付いてくると、触れるだけのキスをされた。
そして、
「好きだよ、奏」
「!?」
 笹尾はサラッとそんなことを言ってのけた。
「そ、それって……!つ、付き合いたいとかの好きってこと?!」
「そうだけど?」
笹尾は奏の言葉にキョトンとしているようだった。
「大丈夫?奏」
「う、うん……大丈夫!また、明日!」
奏は逃げるように家に入ると、自室に駆け込んだ途端、ベッドにパタリと力なく倒れてしまった。

「どうしよう……これって、もしかして三角関係ってやつ?」

 脳裏に浮かんだのは、頂点にいる自分と底辺に並ぶ笹尾とケイで出来上がった三角形。
「どーしよう――!」
そう叫ぶと奏は頭を抱えたのだった。

 笹尾のこともケイのことも好きだ。笹尾は最初、苦手だと思っていたが、実は優しくて一緒にいると安心するし楽しい。一方ケイは、元々憧れていた人物だ。大人の魅力と経験豊富な感じで、頼りがいがありそうに思える。そして、時折見せるはにかんだような笑顔が大好きだった。
 それぞれ二人と付き合うシミュレーションなどもしてみた。
 笹尾と付き合った場合、きっとケイのことが頭から離れないだろう。逆も然りだ。好きの比重としては若干、笹尾への気持ちのが多いようにも思えたが、ケイへの気持ちを抱えながら笹尾と付き合うことに躊躇いを感じてしまう。そんな気持ちを抱えて、笹尾と付き合うのは申し訳ないし、きっと自分には耐えられそうにない。

 結局、そんなことを一晩中考えてしまい奏は一睡もすることができなかった。

 学校にはお昼を過ぎた頃に登校した。授業中の校内は静まり返っている。
 足下を見ながら重い足取りで階段を上っていると、踊り場で人とぶつかってしまった。
「おっと……!なんだ、佐倉か」
担任の伊藤だった。
 なぜか伊藤の顔を見た瞬間、奏はポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。
「ど、どうした?!」
「う、うえーーん……!いとティ!」
奏は伊藤にタックルするように抱きつくと、伊藤のシャツを涙と鼻水でぐしょぐしょに汚したのだった。

 結局、そのまま奏は笹尾に会うこともなく、学校を早退した。

 その日はテニス教室の日だったが、秋の捻挫があり、秋自身は休みを取っていた。早退したのをいいことにレッスンが始まる時間を狙って、奏はテニスコートに向かった。駐車場に着くと、ケイがちょうど自転車を駐輪場に止めているところだった。
ケイの元に駆け寄り腕を掴んだ。
「奏……」
奏の登場にケイは面食らっているようだ。
「時間、少しいい?」
そう言うと、ケイは表情を変えずコクリと頷いた。

 壁打ちがある奥まった所に奏はケイを連れて行くと、
「この前の返事なんだけど……」
 モゴモゴと口を動かし、言葉を選ぶ。
「うん」
これから告げなくてはならない言葉を思うと、胸が苦しくなる。
「あのね……俺、他に気になる人がいるの」
 そう告げケイを見るとケイの顔が一瞬歪んだ。泣いてしまうのではないかと思った。いつもの大人びたケイはそこにはなく、悲しみに歪んだ表情は酷く幼く見えた。
「でも、あんたのことも好きなんだ」
「だったら……!」
「こんな気持ちのまま、付き合うことなんて俺にはできないよ!」
 奏はそう言葉にすると、涙が流れてきた。

「奏は優しいもんな」

 ケイの言葉に顔を上げると、彼は悲しそうな笑みを浮かべていた。
「奏が少しでも俺に気持ちがあるっていうなら、俺はそれでも全然構わない。でも、それで付き合っても奏が辛い想いをするなら、我慢するよ。けど……」
意を決したように、ケイは帽子を被り直すと、
「奏を諦めることはしないよ。俺だけを好きになってもらえるまで、俺は待つから」
そう言って鋭い真っ直ぐな目を奏に向けた。
(ケイコーチ……)
 ケイの意志の強い目に、奏は引き込まれそうになる。

「ケイ!始めるぞ!」
 遠くでケイを呼ぶ声が聞こえた。
「今行く!じゃあ、また」
ケイは奏の髪に触れると、愛おしむように何度か撫でるとその手は離れていった。行かないでほしい、もっと触れていてほしい、そんな想いは伝わることなくケイの手は虚しく離れていった。
 いっそ、自分がもっと適当な人間だったらケイと付き合えることはできたのかもしれない、そう思うと自分は損な性格をしていると思った。