しばらく抱きしめられたままでいて、かなりたってから要の腕が背中で解け、伊吹は隣に座りなおした。隣り合った手が重なって握られている。
「伊吹さー、どうする?」
「え?」
「この後。戻ったら、お前、結局餌だぞ」
まだ昼で学祭の一日目は残り数時間ある。「ああー……」と伊吹が頭を抱えると、要が悪戯っぽく笑った。
「このまま抜けるか?」
「サボり?」
「そ。お前、着替えは?」
「教室」
「じゃー、俺のジャージでも着るか? 俺の更衣室にあるし」
テレピン油の匂いが充満する美術準備室で伊吹と要は学祭を抜け出す計画を企む。階下に聞こえる声は楽しそうなのに、伊吹も要も少しも学祭に興味を示さない。学校の外の方が息がしやすいのは、多分要も伊吹と一緒なのだろう。
「借りる。んでさ、腹減らね? 要のバイト先行こ。ラーメン食いたい」
「あー。煮卵な?」
要は伊吹の言葉にくすくすと笑う。避難するように隠れていた美術準備室から更衣室まで走って、着替えを済ませると二人して昼間の学校を抜け出した。
「学校はどうした、クソガキどもが」
要のバイト先に行くと、昼時を少し過ぎて少し客が引いた店内で店長が腕を組んで言ってきた。
「サボりサボり。たまにはあるっしょ。学祭だし、授業ねえしいいじゃん」
「サボっていい理由なんかあるかアホが!」
どす、と要の頭に店長の手刀が落ちた。痛そうだな、と思わず伊吹は半歩要の後ろに隠れた。幸い、伊吹は手刀を免れた。顎で示され、伊吹と要はカウンターに座ると二人して「豚骨醤油」と同じラーメンを注文し、要が「煮卵付き」と言い足す。
「伊吹。お前、昼間っから堂々と学校サボってくるくらいなら茶くらい買ってこい」
「……サーセン……」
サボりの言い訳が差し入れの茶くらいで清算されるのだろうかと思いながら、伊吹は返事した。
しばらくして伊吹と要の前に「お待ちー」とラーメンのどんぶりが運ばれてくる。要のラーメンに煮卵は乗っていたが、追加をしていない伊吹のラーメンにも煮卵が乗っていた。そんなことをするのは要でなければ店長しかいない。
「……煮卵」
「ほら、伊吹。煮卵」
「二つも?」
「いいだろ。お前、好きだし」
要にどんぶりから煮卵を分けられ、伊吹は思わず笑いだした。
「ところでさー」
並んでラーメンを啜りながら要が言った。伊吹が要の方を見ると、言葉が続く。
「付き合うってなにすんの」
「は?」
「だって、付き合うんじゃん、俺ら? どうすんのかなって」
真顔で要が言う。一般的な男女交際とは違うといえど、そんなことを聞かれると伊吹は思わなかった。
「伊吹の方が知ってんじゃねえの?」
「知らん! 俺だって誰かと付き合うなんて初めてだわ! 俺が聞きたい」
「えー。俺の知らん奴とキスした癖に」
「それとこれは違う。それに付き合ってねえし。どっちかってと一方的にされただけだし、ノーカン!」
「しゃーねーなー」
普段通りに笑って要が箸を咥え、ぽん、と伊吹の頭の上に手を乗せてぐしゃぐしゃに撫でた。
「伊吹さー、どうする?」
「え?」
「この後。戻ったら、お前、結局餌だぞ」
まだ昼で学祭の一日目は残り数時間ある。「ああー……」と伊吹が頭を抱えると、要が悪戯っぽく笑った。
「このまま抜けるか?」
「サボり?」
「そ。お前、着替えは?」
「教室」
「じゃー、俺のジャージでも着るか? 俺の更衣室にあるし」
テレピン油の匂いが充満する美術準備室で伊吹と要は学祭を抜け出す計画を企む。階下に聞こえる声は楽しそうなのに、伊吹も要も少しも学祭に興味を示さない。学校の外の方が息がしやすいのは、多分要も伊吹と一緒なのだろう。
「借りる。んでさ、腹減らね? 要のバイト先行こ。ラーメン食いたい」
「あー。煮卵な?」
要は伊吹の言葉にくすくすと笑う。避難するように隠れていた美術準備室から更衣室まで走って、着替えを済ませると二人して昼間の学校を抜け出した。
「学校はどうした、クソガキどもが」
要のバイト先に行くと、昼時を少し過ぎて少し客が引いた店内で店長が腕を組んで言ってきた。
「サボりサボり。たまにはあるっしょ。学祭だし、授業ねえしいいじゃん」
「サボっていい理由なんかあるかアホが!」
どす、と要の頭に店長の手刀が落ちた。痛そうだな、と思わず伊吹は半歩要の後ろに隠れた。幸い、伊吹は手刀を免れた。顎で示され、伊吹と要はカウンターに座ると二人して「豚骨醤油」と同じラーメンを注文し、要が「煮卵付き」と言い足す。
「伊吹。お前、昼間っから堂々と学校サボってくるくらいなら茶くらい買ってこい」
「……サーセン……」
サボりの言い訳が差し入れの茶くらいで清算されるのだろうかと思いながら、伊吹は返事した。
しばらくして伊吹と要の前に「お待ちー」とラーメンのどんぶりが運ばれてくる。要のラーメンに煮卵は乗っていたが、追加をしていない伊吹のラーメンにも煮卵が乗っていた。そんなことをするのは要でなければ店長しかいない。
「……煮卵」
「ほら、伊吹。煮卵」
「二つも?」
「いいだろ。お前、好きだし」
要にどんぶりから煮卵を分けられ、伊吹は思わず笑いだした。
「ところでさー」
並んでラーメンを啜りながら要が言った。伊吹が要の方を見ると、言葉が続く。
「付き合うってなにすんの」
「は?」
「だって、付き合うんじゃん、俺ら? どうすんのかなって」
真顔で要が言う。一般的な男女交際とは違うといえど、そんなことを聞かれると伊吹は思わなかった。
「伊吹の方が知ってんじゃねえの?」
「知らん! 俺だって誰かと付き合うなんて初めてだわ! 俺が聞きたい」
「えー。俺の知らん奴とキスした癖に」
「それとこれは違う。それに付き合ってねえし。どっちかってと一方的にされただけだし、ノーカン!」
「しゃーねーなー」
普段通りに笑って要が箸を咥え、ぽん、と伊吹の頭の上に手を乗せてぐしゃぐしゃに撫でた。
