君、と呼び止められて、振り返った。
不機嫌そうな顔をしたクラスメイトの男女が、俺のことを睨んでいる。
いや、そんな睨まれたって困るんですけども。
「なんすか?」
「君、王太子殿下と相部屋だからって少し調子に乗りすぎじゃないか」
調子、に乗ってるだろうか。
いや、調子に乗ってるつもりはないんだけども。
「君は平民だ。特待生だかなんだか知らないが、本来は我々の目の届く場所にいることすら許されない立場だと理解したまえ」
「えーっと」
「目障りだ、と言っておりますの。おわかりにならない?」
そんなことを言われたって。
目の届くところにいるな、と言われてそれに従ったら、普通に授業に出られなくなるので困るっちゃ困るが。
まあ、それはそれでいいのか。そもそも何かの間違いで特待生なんかになったんだし、退学してもこちらとしては痛くも痒くもない。
……ただ、親父に見聞を広めてこいと言われたのも事実だし、エドも事情を言わずに授業に出なくなったら俺を不審に思うだろう。
「あー、じゃあ席の後ろの方について、できるだけ目立たないようにしときますんで」
「同じ教室にいるだけで迷惑だ、ということがわからないのかな」
「……はあ」
まいったな。そんなことを言われるとは思ってなかった。一応学園から認められて特待生になっている立場の人間を、同じクラスの人間がここまで毛嫌いするとは。
「ウィル! このあといっしょに食堂へ……君たちは?」
教室を出てきたエドが手を振ってこちらに駆け寄ってくる。途中で俺に話しかけてきていたクラスのメンツに目を留めて首を傾げると、彼らは慌てたように礼をした。
「いえ、特に用事は。では、我々はこれで失礼いたします」
優雅に微笑みながら歩き去る。こっちにはものすごい顔をして睨みつつ。
「……まったく。同じクラスの人間に目障りだの迷惑だの。酷い言い様だな」
「聞こえてたんすか」
「気にすることはないよ、ウィル。君は紛れもなくこの王立学園の生徒なのだから。もちろん将来の上下関係はわきまえる必要があるが、僕たちはこの学園にいる限り平等な権利を行使し、生活することが求められている」
歩き出しながら、エドは大真面目な顔で指でピッと天井を指す。ピンと背筋を伸ばしながら歩く姿勢の良さに、思わず周囲の人間が振り返って頭を下げる。
こういうところを見ると、ああ、この人は王子様なんだなぁ、と今更ながら思う。
「授業を受けること、食堂で食事をすること、寮で寝泊まりすること。これらは僕たちにとって平等に与えられた権利であり義務だ」
難しいことはよくわからんけど、エドはこちらを元気づけようとしているらしい。
まあ、あんまり気に留めてもいないんだけどな。
「嫌なもんは嫌でしょ。今まで目も合わせたことのない平民が一緒に授業受けてるってだけで面白くないって気持ちはわかるっすよ」
「……君っておおらかなんだか無関心なんだか、よくわからなくなる時があるな」
困った顔をするエドに肩をすくめ、それから問いかけた。
「あ、さっき食堂の話ししてたっすよね」
「ああ、今日の日替わりランチは鶏のから揚げだって。一緒に食べに行こう」
最近知ったけど、王都では豚、牛、鶏なんかがよく食べられる肉らしい。まあうちの村でもそのへんはよく絞めて食ってるけど、それ以外の肉を食う機会はほぼないって言うのはちょっとびっくりした。
「バジリスク食わねえんだもんな」
「そのネタ、君よく使うよね」
苦笑しているエド。まあ、地方と王都じゃ、食生活が違うってのはこっちに来て初めて知ったことだ。あと物価は高い。
そんな感じで、俺とエドは食堂に向かった。
その時は、それだけだった。
◆ ◆ ◆
「……なんということだ」
今日の分の授業を終えて寮の部屋に戻ってきて、置いたままだった教科書を前にしたエドが沈痛な顔で呻く。
「……まあ、鍵とか掛けねえっすからねぇ。誰がやったかはだいたい想像つくけど」
俺の机においてあった教科書が、軒並み破られていた。ズッタズタに。
「こんなことをして。この栄えある学園の生徒として恥ずかしくはないのか!」
俺よりも怒っているエドに、俺は冷めた目を向けていた。
「いやぁ……面白くないってのはわかるっすよ。だって俺、受験受けてないっすからね」
「そんなことは問題じゃない!」
「問題っしょ。必死こいて勉強して、この学校に入るために全力で挑んだ受験、受けずに特例で入ってきた平民っすよ。そりゃつまらんでしょ。自分の努力無下にされた気分で」
「それはそうかも知れないが……ウィル、君自身がそれを言ってはいけないよ」
言われて、首を傾げる。それを見たエドは、額に手をやってはあ、と息をついた。
「君と僕だけは、それを言ってはいけないんだ。王立学園の特待生ということ、特例で入学したということは、王室が君の入学を承認したということなのだから。それが『正当なものではない』と認めてしまったら、王室の立場を否定したということになる」
真面目な顔に真面目な声。なるほど。王子様だからこそ、王室が認めた立場の人間を否定することはできない。それに、その人間自身も、自分自身の立場を否定してはいけない。
それはそれとして。
「……俺、そんなすごい事になってたんすか」
あっけにとられた顔で、エドは目を見張る。それから、突然声を上げて笑い出した。
「なんすか。変なこと言ってないっすよ」
「ごめんごめん。でもそうだね、そうなんだよ。君はすごい人なんだ。だからもっと胸を張って、学園生活を楽しもうよ」
そう言って俺の肩を叩く。俺は肩をすくめて、「目立たない程度に」とだけ応えた。
すごい人って。特待生って肩書だけでも何かの間違いじゃねえかって思ってるのに、それがエドの立場を悪くするかもしれんと言われたら困るじゃないか。
「問題は、明日の授業をどうするか、だね。この教科書は明日には間に合わないし」
「明日は確か……魔物学っすね。魔物学なら……まあなんとかなるんじゃないすか」
「なんとか……なる?」
エドがあっけにとられた声を上げる。俺はずたずたになった魔物学の教科書の中身を確認して、パタンと閉じる。おっと危ない。床に落ちかけたページを空中で拾って適当に挟み込んだ。
「うん。この内容ならなんとかなるっすよ」
◆ ◆ ◆
翌日。
「何だ、エバンス。その教科書は?」
魔物学の教授が、後ろの方に座っていた俺の方までわざわざ来て見咎める。その瞬間、昨日俺にけんかを売ってきたメンツがクスクスと笑い出した。
「あー、すいません、なんか昨日教科書寮の部屋に置いておいたらこんななっちゃって」
「何だ、特待生という立場で教科書を学園に出してもらっておいて、その管理もまともにできんのか?」
「すんません」
とりあえず謝る。視界の隅に、無言で拳を握りしめるエドの姿がある。
「真面目に教科書も管理できんのなら、この授業もまともに受けられんだろう。それとも何か、魔物の知識は授業を受けるまでもないか?」
「さあ、知識があるかどうかはわからんすけど、まあ地元にはよく魔物は出てたんで」
さ、っと表情が変わったのがわかった。驚きというより、怒りだ。店番をしていれば、なんとなく客の顔色はわかる。
「ではエバンス、答えてみたまえ! ワイバーンの生態を!」
「あーい」
カタン、と椅子を引いて立ち上がった俺は、宙を一度にらんでから口を開いた。
「ワイバーン。翼竜種。ドラゴンの亜種に分類。口から吐くブレスは300度から1000度に到達し、鋼鉄製の武器ではその硬い表皮に傷をつけることは難しい」
「……正解だ」
「ちなみに春は冬眠から覚めて餌を探して里に出ることが多いっすね。夏に繁殖シーズンを迎えるんで、それまでの間に腹を満たすのが目的っす。夏場に高い木の上に巣を作って繁殖します。うちの村じゃ春先によく出て畑を荒らしてたんで、よく狩って食ってました」
……沈黙。
「……夏に、繁殖?」
「ハイ」
「春に冬眠から、覚める?」
「そうっすね」
「確かに、冬にワイバーンの目撃例はほぼない上、春先に急激に目撃例が増えるという統計は出ているが、まさか……」
「ああ、この辺教科書に載ってないっすもんね」
「…………」
「今の時期のワイバーンは数は出るけどあんま美味くはないんすよ。夏の初めくらいの、繁殖始める直前のやつは脂のってて美味いっす」
「イヤそうではなく」
両手で俺の言葉を遮って、教授は難しい顔をする。
「……ワイバーンは、冬眠する……?」
「するっすよ。普通に村のはずれの山とかに冬眠用の巣穴とかありますもん」
「……なんてことだ。それは王都の研究者でも定説になってはいるが、まだ証明されていない学説だぞ……!」
「そうなんすか?」
首をひねる。周囲のクラスメイトはあっけにとられた顔をしていた。エドも振り返って驚いた顔をしている。変なことは言ってないはずだけどな。
「君、エバンス君、ちょっと授業を終えたあとに話を聞かせてくれ」
「いや、俺変なこと言いました? 大したこと言ってないと思いますけど」
「何言ってるんだ、ワイバーンは目撃例が少ないせいで、まだ生態がほとんど明らかになっていないんだぞ!」
「えー、ウチの近くじゃアホほど出るから、春はほとんどメシはワイバーンっすよ」
最後までワイバーンの肉の話はほとんど聞いてもらえなかったが、とりあえず授業は乗り越えられたようで良かった。
あのメンツはなんとも言えない顔をしていたけれど、まあいいか。
「ウィル!」
「ああエド、なんとかなったすね」
「なんとかなったどころか、今まで明らかになっていなかったワイバーンの生態に君がこんなに詳しいなんて知らなかったよ!」
「まあ、出された問題がワイバーンで良かったす。ところで」
俺は周囲に視線を配ってから、低い声で問いかけた。
「エド、王都じゃワイバーンて食わないんすか」
エドは目を見張ってから、クスクス笑いながら頷いた。
「ウィル、王都では、ワイバーンは出てくるだけで非常警戒と避難命令が出るレベルの大事件だよ」
「……すごいっすね王都って。あんな家畜さらって畑あらす害獣に避難命令でるとか」
俺の言葉に、エドは苦笑する。
「……君ならそう言ってくれると思った」
不機嫌そうな顔をしたクラスメイトの男女が、俺のことを睨んでいる。
いや、そんな睨まれたって困るんですけども。
「なんすか?」
「君、王太子殿下と相部屋だからって少し調子に乗りすぎじゃないか」
調子、に乗ってるだろうか。
いや、調子に乗ってるつもりはないんだけども。
「君は平民だ。特待生だかなんだか知らないが、本来は我々の目の届く場所にいることすら許されない立場だと理解したまえ」
「えーっと」
「目障りだ、と言っておりますの。おわかりにならない?」
そんなことを言われたって。
目の届くところにいるな、と言われてそれに従ったら、普通に授業に出られなくなるので困るっちゃ困るが。
まあ、それはそれでいいのか。そもそも何かの間違いで特待生なんかになったんだし、退学してもこちらとしては痛くも痒くもない。
……ただ、親父に見聞を広めてこいと言われたのも事実だし、エドも事情を言わずに授業に出なくなったら俺を不審に思うだろう。
「あー、じゃあ席の後ろの方について、できるだけ目立たないようにしときますんで」
「同じ教室にいるだけで迷惑だ、ということがわからないのかな」
「……はあ」
まいったな。そんなことを言われるとは思ってなかった。一応学園から認められて特待生になっている立場の人間を、同じクラスの人間がここまで毛嫌いするとは。
「ウィル! このあといっしょに食堂へ……君たちは?」
教室を出てきたエドが手を振ってこちらに駆け寄ってくる。途中で俺に話しかけてきていたクラスのメンツに目を留めて首を傾げると、彼らは慌てたように礼をした。
「いえ、特に用事は。では、我々はこれで失礼いたします」
優雅に微笑みながら歩き去る。こっちにはものすごい顔をして睨みつつ。
「……まったく。同じクラスの人間に目障りだの迷惑だの。酷い言い様だな」
「聞こえてたんすか」
「気にすることはないよ、ウィル。君は紛れもなくこの王立学園の生徒なのだから。もちろん将来の上下関係はわきまえる必要があるが、僕たちはこの学園にいる限り平等な権利を行使し、生活することが求められている」
歩き出しながら、エドは大真面目な顔で指でピッと天井を指す。ピンと背筋を伸ばしながら歩く姿勢の良さに、思わず周囲の人間が振り返って頭を下げる。
こういうところを見ると、ああ、この人は王子様なんだなぁ、と今更ながら思う。
「授業を受けること、食堂で食事をすること、寮で寝泊まりすること。これらは僕たちにとって平等に与えられた権利であり義務だ」
難しいことはよくわからんけど、エドはこちらを元気づけようとしているらしい。
まあ、あんまり気に留めてもいないんだけどな。
「嫌なもんは嫌でしょ。今まで目も合わせたことのない平民が一緒に授業受けてるってだけで面白くないって気持ちはわかるっすよ」
「……君っておおらかなんだか無関心なんだか、よくわからなくなる時があるな」
困った顔をするエドに肩をすくめ、それから問いかけた。
「あ、さっき食堂の話ししてたっすよね」
「ああ、今日の日替わりランチは鶏のから揚げだって。一緒に食べに行こう」
最近知ったけど、王都では豚、牛、鶏なんかがよく食べられる肉らしい。まあうちの村でもそのへんはよく絞めて食ってるけど、それ以外の肉を食う機会はほぼないって言うのはちょっとびっくりした。
「バジリスク食わねえんだもんな」
「そのネタ、君よく使うよね」
苦笑しているエド。まあ、地方と王都じゃ、食生活が違うってのはこっちに来て初めて知ったことだ。あと物価は高い。
そんな感じで、俺とエドは食堂に向かった。
その時は、それだけだった。
◆ ◆ ◆
「……なんということだ」
今日の分の授業を終えて寮の部屋に戻ってきて、置いたままだった教科書を前にしたエドが沈痛な顔で呻く。
「……まあ、鍵とか掛けねえっすからねぇ。誰がやったかはだいたい想像つくけど」
俺の机においてあった教科書が、軒並み破られていた。ズッタズタに。
「こんなことをして。この栄えある学園の生徒として恥ずかしくはないのか!」
俺よりも怒っているエドに、俺は冷めた目を向けていた。
「いやぁ……面白くないってのはわかるっすよ。だって俺、受験受けてないっすからね」
「そんなことは問題じゃない!」
「問題っしょ。必死こいて勉強して、この学校に入るために全力で挑んだ受験、受けずに特例で入ってきた平民っすよ。そりゃつまらんでしょ。自分の努力無下にされた気分で」
「それはそうかも知れないが……ウィル、君自身がそれを言ってはいけないよ」
言われて、首を傾げる。それを見たエドは、額に手をやってはあ、と息をついた。
「君と僕だけは、それを言ってはいけないんだ。王立学園の特待生ということ、特例で入学したということは、王室が君の入学を承認したということなのだから。それが『正当なものではない』と認めてしまったら、王室の立場を否定したということになる」
真面目な顔に真面目な声。なるほど。王子様だからこそ、王室が認めた立場の人間を否定することはできない。それに、その人間自身も、自分自身の立場を否定してはいけない。
それはそれとして。
「……俺、そんなすごい事になってたんすか」
あっけにとられた顔で、エドは目を見張る。それから、突然声を上げて笑い出した。
「なんすか。変なこと言ってないっすよ」
「ごめんごめん。でもそうだね、そうなんだよ。君はすごい人なんだ。だからもっと胸を張って、学園生活を楽しもうよ」
そう言って俺の肩を叩く。俺は肩をすくめて、「目立たない程度に」とだけ応えた。
すごい人って。特待生って肩書だけでも何かの間違いじゃねえかって思ってるのに、それがエドの立場を悪くするかもしれんと言われたら困るじゃないか。
「問題は、明日の授業をどうするか、だね。この教科書は明日には間に合わないし」
「明日は確か……魔物学っすね。魔物学なら……まあなんとかなるんじゃないすか」
「なんとか……なる?」
エドがあっけにとられた声を上げる。俺はずたずたになった魔物学の教科書の中身を確認して、パタンと閉じる。おっと危ない。床に落ちかけたページを空中で拾って適当に挟み込んだ。
「うん。この内容ならなんとかなるっすよ」
◆ ◆ ◆
翌日。
「何だ、エバンス。その教科書は?」
魔物学の教授が、後ろの方に座っていた俺の方までわざわざ来て見咎める。その瞬間、昨日俺にけんかを売ってきたメンツがクスクスと笑い出した。
「あー、すいません、なんか昨日教科書寮の部屋に置いておいたらこんななっちゃって」
「何だ、特待生という立場で教科書を学園に出してもらっておいて、その管理もまともにできんのか?」
「すんません」
とりあえず謝る。視界の隅に、無言で拳を握りしめるエドの姿がある。
「真面目に教科書も管理できんのなら、この授業もまともに受けられんだろう。それとも何か、魔物の知識は授業を受けるまでもないか?」
「さあ、知識があるかどうかはわからんすけど、まあ地元にはよく魔物は出てたんで」
さ、っと表情が変わったのがわかった。驚きというより、怒りだ。店番をしていれば、なんとなく客の顔色はわかる。
「ではエバンス、答えてみたまえ! ワイバーンの生態を!」
「あーい」
カタン、と椅子を引いて立ち上がった俺は、宙を一度にらんでから口を開いた。
「ワイバーン。翼竜種。ドラゴンの亜種に分類。口から吐くブレスは300度から1000度に到達し、鋼鉄製の武器ではその硬い表皮に傷をつけることは難しい」
「……正解だ」
「ちなみに春は冬眠から覚めて餌を探して里に出ることが多いっすね。夏に繁殖シーズンを迎えるんで、それまでの間に腹を満たすのが目的っす。夏場に高い木の上に巣を作って繁殖します。うちの村じゃ春先によく出て畑を荒らしてたんで、よく狩って食ってました」
……沈黙。
「……夏に、繁殖?」
「ハイ」
「春に冬眠から、覚める?」
「そうっすね」
「確かに、冬にワイバーンの目撃例はほぼない上、春先に急激に目撃例が増えるという統計は出ているが、まさか……」
「ああ、この辺教科書に載ってないっすもんね」
「…………」
「今の時期のワイバーンは数は出るけどあんま美味くはないんすよ。夏の初めくらいの、繁殖始める直前のやつは脂のってて美味いっす」
「イヤそうではなく」
両手で俺の言葉を遮って、教授は難しい顔をする。
「……ワイバーンは、冬眠する……?」
「するっすよ。普通に村のはずれの山とかに冬眠用の巣穴とかありますもん」
「……なんてことだ。それは王都の研究者でも定説になってはいるが、まだ証明されていない学説だぞ……!」
「そうなんすか?」
首をひねる。周囲のクラスメイトはあっけにとられた顔をしていた。エドも振り返って驚いた顔をしている。変なことは言ってないはずだけどな。
「君、エバンス君、ちょっと授業を終えたあとに話を聞かせてくれ」
「いや、俺変なこと言いました? 大したこと言ってないと思いますけど」
「何言ってるんだ、ワイバーンは目撃例が少ないせいで、まだ生態がほとんど明らかになっていないんだぞ!」
「えー、ウチの近くじゃアホほど出るから、春はほとんどメシはワイバーンっすよ」
最後までワイバーンの肉の話はほとんど聞いてもらえなかったが、とりあえず授業は乗り越えられたようで良かった。
あのメンツはなんとも言えない顔をしていたけれど、まあいいか。
「ウィル!」
「ああエド、なんとかなったすね」
「なんとかなったどころか、今まで明らかになっていなかったワイバーンの生態に君がこんなに詳しいなんて知らなかったよ!」
「まあ、出された問題がワイバーンで良かったす。ところで」
俺は周囲に視線を配ってから、低い声で問いかけた。
「エド、王都じゃワイバーンて食わないんすか」
エドは目を見張ってから、クスクス笑いながら頷いた。
「ウィル、王都では、ワイバーンは出てくるだけで非常警戒と避難命令が出るレベルの大事件だよ」
「……すごいっすね王都って。あんな家畜さらって畑あらす害獣に避難命令でるとか」
俺の言葉に、エドは苦笑する。
「……君ならそう言ってくれると思った」


