「ここが学生寮。今夜一晩は宿を取っているそうだが、学園は全寮制だ。明日以降はこちらでの寝泊まりが必須となる」
「え、王子様とかもっすか」
「とかって言うな。今年は王太子殿下もご入学あそばされるが、学園の制度に関しては王族の皆様にも適用される」
「マジか」
さっきの面接官に案内してもらいながら、俺は学校の中を見て回ることになった。
「制服は寮の君の部屋に届けさせよう。何か質問は?」
「あれなんすか」
指さした先には、サンドバッグや藁人形。アイテムショップの店員には見慣れないものばかりだ。
「ああ、寮内にも自主鍛錬用の備品が配られる。もちろん学園内にも自主鍛錬用の部屋はあるし、剣技、魔法、錬金と、様々な知識や技術を学ぶことができる」
「アイテムショップ店員に必要なのはギリッギリ錬金かなぁ」
「残念ながら剣技や魔法に関しても授業は逃げられん。覚悟しておくことだ」
「まあそこでボロが出れば退学できるんだし」
俺の言葉に、面接官は微妙な顔をした。そんな顔をされても。
「そうだ、少し触ってみるか」
気を取り直したようにそう言われ、俺は面接官に続いて鍛錬場に入り込む。その瞬間、突き刺さる「よそもん」への冷たい視線、視線、視線。
「……何か」
木剣を構えていた、上品そうな男子生徒に敵意剥き出しでそう言われ、俺はペコリと頭を下げた。
「なんでもないっす。失礼します」
「いや待て待て」
面接官が俺を止める。
「なんで止めるんすか、明らか場違いっしょ」
「君は4月からこの学び舎で彼らと生活をともにするんだぞ。今から『場違いっしょ』とか言っててどうする」
そんな事言われたって。
「……4月から、生活をともに?」
先ほどの男子生徒が鼻を鳴らして笑い出す。まあそうだよな、当然だ。この状況俺でも笑う。
「失礼ですが、どちらの家のご出身で?」
明らかにバカにされている感じだったが、素直に答えておくことにした。
「ロシュトーク村っす。北の辺境にあります」
「辺境」
「はい」
「聞いたことのない村の名前だし、何より家名を名乗らないのはなぜだ」
「俺平民なんで」
一瞬後、鍛錬場は爆笑で包まれた。でしょうね。
「この栄えある王立学園に、平民が出入りするなんて!」
「俺も何かの間違いじゃないかと思うんですけどね」
「当然だ、平民ごときがこの学園に立ち入れると思うな!」
突然声を荒らげられて、俺は無意識にのけぞった。
あー、この人貴族なのか。まあそうだろうとは思ってた。
「彼は学園が決めた特待生だ。君たちがなんと言おうと、4月には彼もこの学生寮から学園に通うことになる」
「馬鹿な。こんな田舎者が特待生だなんて!」
みんなそう言うってことは、やっぱり俺、なんかの間違いじゃないかな……?
そう思ってたところ、まあいいじゃないか、と誰かが叫んだ。
「特待生だって言うなら、入学前から特殊な才能や能力があるってことなんだろう。どうだ、その力がどんなものか知らないが、ちょっと見せてくれないか」
「いや、そんな力ないんですけど」
「そんな謙遜せずに」
絶対そんな力ないってわかってて言ってんじゃんこの人。あー恥かかせる気だ。絶対そうだ。
とはいえ、そこでかく恥とやらもあんまりない俺は、とりあえずと腕をまくって首を傾げた。
「何を見せりゃいいっすか」
「そうだな、そこのサンドバッグ……実はとても重くてかつ頑丈だ。剣で切っても、魔法で撃ち抜いても、穴が開くどころか傷一つつかず、揺れることもほどんどない」
「はあ」
このサンドバッグが?
「そこで君がこのサンドバッグを……そうだな、少しでも揺らせたら、僕たちは君のことを認めてやってもいい」
なあ? と周囲を見渡す学生。
「ゆらせばいいんすか」
「ああ、揺らせるものならね」
意味深にそういう学生を横目に、俺はサンドバッグの前に立つ。
いや、揺らせって言われたって。
眼の前の見るからにデカい鎖で繋がれた、分厚そうな袋。手触り的に、中にはいっているのはただの砂じゃないらしい。
すげえな、王都。いや王立学園、っていうのか。こんなサンドバッグを毎日叩いて訓練するんだ。
やっぱり俺の住んでる世界とまるで違う。
「で、揺らすんですよね」
「そうだよ」
「じゃあまあ……やってみるっす」
拳を握り、半歩引いて、見様見真似の正拳突き。
「よいしょ」
その瞬間。
ずがぁぁぁぁぁぁん、と音を立てて、サンドバッグが裂けた。
頭の部分の鎖がちぎれ、思いっきり揺れたサンドバッグの上部分が吹っ飛ぶ。
ずだぁぁぁん、と吹っ飛んだサンドバッグの上半分が壁にぶちあたり、ギィコ、ギィコ、と鎖が揺れて、爆裂した砂埃が顔面を直撃。口ん中がジャリッジャリだ。
頭から砂をかぶった俺は、手で周囲の砂埃を払いながら思い切り咳込んだ。
「げっほ、ゴッホ……なんすかこれ、壊れてるじゃないっすか」
振り返った先で、最初ににらみつけてきた男子生徒が座り込んでいる。
「? どしたっすか?」
「ひぃっ!?」
座り込んだまま四つん這いで俺から距離を取ろうとする。
別の方を見やれば、砂を同じように被ったもう一人の男子生徒がなぜか這い蹲っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」
あ、そうか俺、もともと壊れかかってたとはいえ、備品をぶっ壊しちゃったんだ。
「すんません、これ弁償ってどのくらいするっすかね……?」
振り返った先で面接官も、なぜかへたり込んでいた。
「……ウィリアム・エバンス」
「? ハイ」
呼びかけられて、絶対叱られるんだと思って慌てて居住まいを正す。
しかし、その後に続いたのは、よくわからん言葉だった。
「君は紛れもなく特待生だ」
「? イヤ、絶対なんかの間違いですって」
俺はさっきまで俺と同じく「絶対何かの間違い」と言ってくれていた面接官の突然の手のひら返しに、首をひねって言い返すことしかできなかった。
エバンス破壊録・その1
ミスリル片入り、魔法・物理防御の掛かったサンドバッグ1点。
「え、王子様とかもっすか」
「とかって言うな。今年は王太子殿下もご入学あそばされるが、学園の制度に関しては王族の皆様にも適用される」
「マジか」
さっきの面接官に案内してもらいながら、俺は学校の中を見て回ることになった。
「制服は寮の君の部屋に届けさせよう。何か質問は?」
「あれなんすか」
指さした先には、サンドバッグや藁人形。アイテムショップの店員には見慣れないものばかりだ。
「ああ、寮内にも自主鍛錬用の備品が配られる。もちろん学園内にも自主鍛錬用の部屋はあるし、剣技、魔法、錬金と、様々な知識や技術を学ぶことができる」
「アイテムショップ店員に必要なのはギリッギリ錬金かなぁ」
「残念ながら剣技や魔法に関しても授業は逃げられん。覚悟しておくことだ」
「まあそこでボロが出れば退学できるんだし」
俺の言葉に、面接官は微妙な顔をした。そんな顔をされても。
「そうだ、少し触ってみるか」
気を取り直したようにそう言われ、俺は面接官に続いて鍛錬場に入り込む。その瞬間、突き刺さる「よそもん」への冷たい視線、視線、視線。
「……何か」
木剣を構えていた、上品そうな男子生徒に敵意剥き出しでそう言われ、俺はペコリと頭を下げた。
「なんでもないっす。失礼します」
「いや待て待て」
面接官が俺を止める。
「なんで止めるんすか、明らか場違いっしょ」
「君は4月からこの学び舎で彼らと生活をともにするんだぞ。今から『場違いっしょ』とか言っててどうする」
そんな事言われたって。
「……4月から、生活をともに?」
先ほどの男子生徒が鼻を鳴らして笑い出す。まあそうだよな、当然だ。この状況俺でも笑う。
「失礼ですが、どちらの家のご出身で?」
明らかにバカにされている感じだったが、素直に答えておくことにした。
「ロシュトーク村っす。北の辺境にあります」
「辺境」
「はい」
「聞いたことのない村の名前だし、何より家名を名乗らないのはなぜだ」
「俺平民なんで」
一瞬後、鍛錬場は爆笑で包まれた。でしょうね。
「この栄えある王立学園に、平民が出入りするなんて!」
「俺も何かの間違いじゃないかと思うんですけどね」
「当然だ、平民ごときがこの学園に立ち入れると思うな!」
突然声を荒らげられて、俺は無意識にのけぞった。
あー、この人貴族なのか。まあそうだろうとは思ってた。
「彼は学園が決めた特待生だ。君たちがなんと言おうと、4月には彼もこの学生寮から学園に通うことになる」
「馬鹿な。こんな田舎者が特待生だなんて!」
みんなそう言うってことは、やっぱり俺、なんかの間違いじゃないかな……?
そう思ってたところ、まあいいじゃないか、と誰かが叫んだ。
「特待生だって言うなら、入学前から特殊な才能や能力があるってことなんだろう。どうだ、その力がどんなものか知らないが、ちょっと見せてくれないか」
「いや、そんな力ないんですけど」
「そんな謙遜せずに」
絶対そんな力ないってわかってて言ってんじゃんこの人。あー恥かかせる気だ。絶対そうだ。
とはいえ、そこでかく恥とやらもあんまりない俺は、とりあえずと腕をまくって首を傾げた。
「何を見せりゃいいっすか」
「そうだな、そこのサンドバッグ……実はとても重くてかつ頑丈だ。剣で切っても、魔法で撃ち抜いても、穴が開くどころか傷一つつかず、揺れることもほどんどない」
「はあ」
このサンドバッグが?
「そこで君がこのサンドバッグを……そうだな、少しでも揺らせたら、僕たちは君のことを認めてやってもいい」
なあ? と周囲を見渡す学生。
「ゆらせばいいんすか」
「ああ、揺らせるものならね」
意味深にそういう学生を横目に、俺はサンドバッグの前に立つ。
いや、揺らせって言われたって。
眼の前の見るからにデカい鎖で繋がれた、分厚そうな袋。手触り的に、中にはいっているのはただの砂じゃないらしい。
すげえな、王都。いや王立学園、っていうのか。こんなサンドバッグを毎日叩いて訓練するんだ。
やっぱり俺の住んでる世界とまるで違う。
「で、揺らすんですよね」
「そうだよ」
「じゃあまあ……やってみるっす」
拳を握り、半歩引いて、見様見真似の正拳突き。
「よいしょ」
その瞬間。
ずがぁぁぁぁぁぁん、と音を立てて、サンドバッグが裂けた。
頭の部分の鎖がちぎれ、思いっきり揺れたサンドバッグの上部分が吹っ飛ぶ。
ずだぁぁぁん、と吹っ飛んだサンドバッグの上半分が壁にぶちあたり、ギィコ、ギィコ、と鎖が揺れて、爆裂した砂埃が顔面を直撃。口ん中がジャリッジャリだ。
頭から砂をかぶった俺は、手で周囲の砂埃を払いながら思い切り咳込んだ。
「げっほ、ゴッホ……なんすかこれ、壊れてるじゃないっすか」
振り返った先で、最初ににらみつけてきた男子生徒が座り込んでいる。
「? どしたっすか?」
「ひぃっ!?」
座り込んだまま四つん這いで俺から距離を取ろうとする。
別の方を見やれば、砂を同じように被ったもう一人の男子生徒がなぜか這い蹲っていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」
あ、そうか俺、もともと壊れかかってたとはいえ、備品をぶっ壊しちゃったんだ。
「すんません、これ弁償ってどのくらいするっすかね……?」
振り返った先で面接官も、なぜかへたり込んでいた。
「……ウィリアム・エバンス」
「? ハイ」
呼びかけられて、絶対叱られるんだと思って慌てて居住まいを正す。
しかし、その後に続いたのは、よくわからん言葉だった。
「君は紛れもなく特待生だ」
「? イヤ、絶対なんかの間違いですって」
俺はさっきまで俺と同じく「絶対何かの間違い」と言ってくれていた面接官の突然の手のひら返しに、首をひねって言い返すことしかできなかった。
エバンス破壊録・その1
ミスリル片入り、魔法・物理防御の掛かったサンドバッグ1点。


