実家のアイテムショップを継ぎたくて〜実家で鳴かず飛ばずだった俺が何故か王立学園に入学することになったんですが、これって何かの間違いですよね?〜

 王立学園はその名の通りときの国王によって王都アルデイルに作られた教育機関だ。中には歴史的に有名な建物もたくさん建っていて、見るだけでもいい勉強になるらしい。

 まあ、うちの店にアルデイル土産を置くわけにもいかんので、あまり意味はないが。

 乗合馬車を乗り継いで1日半。その後地図を見ながらどでかい道を歩いて学園前についた頃には、学園は夕暮れに沈もうとしていた。

「ウィリアム・エバンスっす」
「……ああ、話は聞いている。そこに用紙があるから記入して」

 学園の事務室に通された俺は、その場に用意された履歴書に必要事項を書くことになった……のだが。

「学歴:なし」
「職歴:家業手伝い」
「特記事項:特になし」

 出来上がったのはたった3行の履歴書。寂しすぎる。

 だって本当にないんだもん。表彰歴? 所持資格? ないない。

「……これだけ?」

 提出した履歴書を見て、面接官は胡散臭そうな顔だ。俺の上から下までをジロジロと見た。
 ええい、そんな目で俺を見るな。わかってんだから。こっちだって。こんな場所、自分には全く向いてないってことくらい。
 いたたまれなくなって、俺は視線をそらした。

「いやわかってるんで。人違いかなんかの間違いですよね」
「……いや、名前は間違いなく君のようだが。……でもなぜ?」

 知らんよ、俺に聞かれても。
 はあ、とため息を付いて、面接官は俺を睨みつける。

「いいかね。王立学園とは設立から200年を超える長き歴史を持つ学園だ。歴代国王となられた方々、そしてその王妃となられた方々も、王太子、王太子婚約者の時代にこの学園に通われている。王族だけではない。この学園からは国を支える優秀な官僚、軍人が多数輩出されている。この意味がわかるね?」
「だから人違いっすよね?」
「だから困ったことに人違いではないんだよ!」

 ばあん、と机を叩かれて、俺は思わずビクッと肩をすくめた。そんな事言われても。

「君が! そんな学園の特待生になるのだから! それなりのナニがあるものと! こちらは期待して、期待してきたのに! なんでたった3行!」
「だって事実っすから」
「こう、特技とか!」
「ポーション作り?」
「実務経験とか!」
「ポーション一日20本とかなら作ったことならあるっすけど」
「推薦実績とか!」
「誰が推薦してんのかも知らんのに、そんなの俺に聞かれても困るっす」

 面接官は突然表情をすべて消した。
 なんかもう、めっちゃ疲れた。とほっぺたに書いてある感じの顔になった。

「……もういい。きっと何かの間違いだ」
「だから最初からそう言ってるじゃないっすか」

 俺はかばんを手にとってそのまま回れ右する。さあ、面倒事は終わった。今夜は一応宿取ってるし、ゆっくり王都を見て回ろう。うまい店とかあるかな。でも王都って物価高いって言うしな。

 そんな事を考えていたら、突然声をかけられた。

「いや、彼の特待生は間違いのないことだ」
「……が、学園長!?」

 面接官が困った声で叫んでいる。学園長? ってことは、この学園の一番偉い人ってことか。
 振り返ってみると、学園長、と呼ばれたその人は、シルバーヘアをしっかり撫でつけ、黒縁のメガネを掛けた一見すると普通のおじいさんって感じの人だった。

「いや、何かの間違いじゃないですかね?」

 一応そう言い返してみると、首を傾げた学園長は、俺の方を見て問いかけてくる。

「ウィリアム・エバンス君?」
「……ハイ」
「『ロシュトーク村』の、ウィリアム・エバンス君、だよね?」
「はい、そっすけど」

 なぜか村の名前を強調してそういうので、身構えながら素直に頷く。と、やっぱりそうだ、という顔をして、学園長は笑った。

「ようこそ、エバンス君。君は確かに、この4月から我が学園の学徒となる子だ」
「……えっ」
「ウソでしょ!?」

 面接官まで素で驚いている。

「学園長、言っときますけど彼ほんとに何もないですよ? 学歴もないし職歴家業手伝いだし、日がな一日ポーション作ってただけの田舎者ですよ!?」
「悪かったな田舎モンでよ!」

 まあまあ、と学園長はほのぼのとした笑顔を浮かべてこちらの肩を叩いてきた。

「今まで何者でもなかったものが、この学園で大きく羽ばたくことはよくあること。彼とてその例外ではないと思うがね」
「……最初からエリート揃いの学園に一般人放り込んで、その理論が成立するとは思えねえなあ……」

 思わずボソリと言い返すと、面接官も深々と頷く。よう、気が合うなこの点に関しては。

「ともかく、彼の特待入学は間違いのないこと。僕は君が、この学園で素晴らしい力を発揮してくれることを期待しているよ」

 ぽんっ、と肩をたたかれ、そのまま歩き去る学園長。
 俺はどうしようもなくなって、面接官に救いを求めた。

「……ど、どうなるっすか、俺これから」
「……い、いや、私に聞かれても……」

 学園長が俺の顔を見て、間違いないと言ったからには、恐ろしいことにこの学園入学は間違いのないことなのだろう。が。

「……さっさと帰れると思ったのに……っ!」

 俺の悔しそうな声に、面接官も微妙そうな顔をする。

「一応、この栄えある学園の学徒となることは君世代の学生にとっては喜ばしいというか、誇りというか、そういうステータスになるんだけども。なんで君そんな嫌そうなの」
「いや誇りとかそんなんじゃなくて。俺実家のアイテムショップ継ぐ予定なんで」
「……この学園卒業して?」
「ていうか、卒業できるんすかね、この俺が」

 そもそも論。

 うーん、と考え込んだ面接官は、申し訳なさそうな顔をして、沈痛そうに首を横に振った。でしょうね。

「じゃ、まあ入学して、何かの間違いってことがわかったら退学ってことで」

 そう言いながら、俺はため息を付く。
 ……数日で帰れると思ったのに、最低4月まではここにいなくちゃいけなくなっちまった、と。