「それにしても、俺が次席っすか。なんか理由がわからんっすね」
「どうして?」
久しぶりの散歩をしながら首を傾げていると、エドが問いかけてくる。いやだって。
「テストの内容も教科書に載ってたことを覚えりゃ済む話っすよ?」
「済む話って……範囲が膨大すぎて覚えるのだけでもおおごとだよ?」
「あと、絶対魔法学と剣術の実地試験、ガチでしくじったし……」
「……うーん……」
エドは頬をポリポリかきながら苦笑する。
「多分、それはしくじったって評価にならなかったんだろうね」
「……なんで?」
なんでって、と更に困った顔でエドが笑みを深くした。
「魔法学の試験のときは僕も見ていたけど、初級火炎魔法の詠唱も正しかったし、魔法を放つときの杖の振り方も姿勢も正しかったでしょ? そして結果火は出た」
「……火が出たどころか爆発炎上したっすけど」
ひた、とエドの足が止まる。
「……確かに爆発するとは僕も思ってなかったんだよね……」
「? どうしたっすか」
「う、ううん、なんでもないよ」
振り返って首を傾げると、首を振って追いついてくる。
「確かに爆発炎上はびっくりしたし、試験官の先生もびっくりしてたけど。試験中火が出なくてパニックを起こしている生徒もいた。それよりはずっとすごいよ」
「そういうもんすかね」
「そうそう。それに剣術の試験の時も、型の試験では先生に筋が良いって褒められたじゃないか」
「……それに続く対戦型の試験のときに相手の剣を粉砕して泣かしちゃいましたけど」
「あー……アレハンド侯爵子息ね。すごい泣き方してたね」
「よっぽど怖かったんすかね……力の加減ができなくて申し訳ないことしたっす」
「ウィル覚えてる? そのアレハンド侯爵子息。彼は君を危険なダンジョンに誘い込んだいじめっ子たちのリーダーだよ?」
言われて、思い出す。そういやダンジョンから素材を持って帰れば突っかかってくるのをやめると言ってくれたあの3人組のうちの一人だったか。
とはいえ……。
「あれ、っていじめだったんすか?」
俺にとっちゃ、あのダンジョンは良い散歩コースだ。流石にエドを連れて行くことはできないけども、奥まで行っては時々アスカリオンさんに遊んでもらっている。
けれどエドは俺の顔を見て、肩をすくめて首を横に振った。エドには心配をかけてばっかりのような気もするけど、あれがいじめだとかいうならずいぶん優しいよな、王都って。
「……君って本当、おおらかっていうか敵意に対して寛容っていうか」
「そうでもないっすよ。あの3人には拾ってきた素材の中で一番役に立たない石ころとか渡しといたんで」
「そこでアスカリオンの黒杖みたいな『一番危険なの』とか『一番グロテスクなの』とか渡さなかったところが、君の優しさだと思うよ」
そういうもんだろうか。ああいや、アスカリオンさんにもらった杖、素振りにいいからなぁ。
「だってあのダンジョンの素材、結構良いもんでしたから。まあうちのジジババが素材を取りに入る地元のダンジョンよか楽な道でしたけど」
「ホント、君の出身だって言うロシュトーク村、どんな村なのか想像がつきないよ」
「夏休み来てみるっすか? そんな面白いもんなんて特にないっすけど」
「いいのかい!?」
身を乗り出すエドに若干のけぞりながら頷く。
「や、問題があるとすりゃ、王子様が泊まれるようなしっかりした宿がねえってことくらいすかね」
「そんなの、君のご実家が迷惑でなければ君の家に泊まらせてもらいたいくらいなのに!」
なんでだ。なんでこんなに乗り気なんだ。そんな面白い村じゃねえぞ。
「ま、まあ、夏休みエドの親父さんが良いって言うなら、一緒に行きますか」
「ああ、ありがとうウィル!」
キラキラした目で嬉しそうに笑うエドを見ながら、なんとなく自分の村がこんなに興味を持ってもらえることにちょっとした照れくささを感じつつ。
俺は、鼻の頭をポリポリ掻きながら歩き出した。
◆ ◆ ◆
エトゥリー・ルスティカーナは困り果てていた。
貴族の中でも下級貴族に位置する男爵令嬢の彼女は、実を言えばあまり周囲とうまく行っていない。
愛らしいその見た目のおかげで男子生徒の覚えは良いものの、女子生徒からのやっかみというのはかなりおおきいのだ。
とはいえ、男に助けられているだけでは王立学園での生活はままならない。父であるルスティカーナ男爵の厳しい教えに応じ、彼女は勉学にも懸命だった。
結果、エトゥリーは学年の中でも上位、職員室にその成績が貼り出される成績を常にキープしている。
しかしそれ故に、クラスメイトの中からは面白くないというやっかみも大きくなっているのも事実だった。
だから、だろう。
エトゥリーは外に呼び出された。とある上級貴族の令嬢から。
リリーナではない。彼女はエトゥリーを歯牙にもかけていないし、そんなことはエトゥリーだって理解している。
「ファルレイン伯爵令嬢、参りましたわ。こちらにいらっしゃるのですか?」
呼び出した令嬢の名前を呼びながら、足を踏み入れる。
凶獣の森に次ぐ危険区域とも言われる、「黄昏の平原」に。
◆ ◆ ◆
「ん?」
足を止める。何か聞こえたような。
「どうした、ウィル?」
振り返ったエドが首を傾げる。
「悲鳴が聞こえたっす。こっち」
言いながら足を向ける。そっちは、とエドが呼び止めてきた。
「そっちは黄昏の平原だ。火炎球を飛ばしてくる魔物がいるから危険だよ」
「じゃ、誰かが襲われてるんすかね」
だとすると問題だ。誰か呼びに行って間に合うだろうか。
「エド、ここにいてください。俺ちょっと行ってくるっす」
「あ、まってウィル!」
ほうっておくのはちょっと気分が悪い。危険だと言うならエドには申し訳ないがここにいてもらって、俺だけちょっと見てこよう。と思っていると、後ろからエドがついてきた。
「危ないんじゃないんすか」
「僕は護衛がついているからある程度は大丈夫。それより君が一人で行くのは心配だよ」
「あざっす。じゃちょっと様子だけ見に行きましょう」
悲鳴が聞こえた方に向かって暫く進むと、見覚えのある女子生徒がへたり込んでいる。
その向こうには、大きく口を開けた魔物の姿。
「あれっすか、火炎球を飛ばしてくる魔物」
「あれだ! それにあれは……ルスティカーナ男爵令嬢?」
「あ、やっぱりエトゥリーさんっすか」
俺はエトゥリーさんの方へ駆け寄ると、アスカリオンさんにもらった杖を取り出す。
「うぃ、ウィル様!?」
「うっす、ここ危ないらしいっすよ」
「い、いやあの、その黒杖一体どこから取り出したんです!?」
「話はあとっすね」
ブンブン、と杖を振ると結構な重み。おお、これはいいや。
「ちょ、ちょっと待ったウィル、君その黒杖で何をする気だ……!?」
ついてきたエドがなにか言っているけれど、とりあえずあれをどうにかしなければいけない。
ゴッ、と音を立てて、口から吐き出された火炎球がこちらに向かって飛んでくる。
「きゃあっ!」
叫ぶエトゥリーさん。
俺は一度杖を火炎球に向かって突きつけ、クルンと回して足を肩幅に開き——。
「秘技——」
飛んできた火炎球を打ち返した。
「——ピッチャー返しっ」
「えええええっ!?」
かきーん、と音を立てて打ち返された火炎球は、次の瞬間ゴウン、と音を立てて黒い炎を纏うと、そのまま魔物に打ち返された。
着弾し、黒い炎を上げて燃えあがる魔物の姿。よっしゃ。
「何したのウィル!?」
叫んで駆け寄ってきたエドを振り返る。
「いや、火炎球打ち返しただけっす」
「だけって……! 普通に物理的に打ち返せるものじゃないからね!?」
「いやあ、いい杖っすねこれ。振り心地が最高っす」
ブン、ともう一度素振りをすると、周囲の草が枯れた。なんと。
「あの、ウィル様……」
「ケガないっすか、エトゥリーさん」
「あ、は、はい……」
何故かこちらを潤んだ目で見上げながら何度も頷くエトゥリーさん。よほど怖かったんだな。
「なんの用事でここまで来たか知らんすけど、ここらへん危険らしいんでさっさと帰った方がいいっすよ」
「そ、そうですね、あの、ありがとう、ございます……」
何度も振り返りながら頭を下げて帰っていくエトゥリーさんを見送って、それからエドが呻く。
「さすがはアスカリオンの黒杖というべきか、それともさすがはウィルというべきか……」
「そんなすごいんすか、アスカリオンさんって」
「あの『偽聖者の祠』が発見されてから250年、だったかな。今まで最奥にいるとされる偽聖者アスカリオンの討伐に成功した者はいないよ」
「マジで。俺時々遊びに行ってるんすけど、道理で暇そうにしてると思ったっす」
「遊びに行く場所じゃないって言っても、ウィルにとっては通用しないからねぇ。あと」
びし、とエドが指を突きつけてきたので、俺はもう一度素振りをしようと振り上げた構えを解除した。
「それは伝説級の黒魔法研究者が使っていた伝説級の装備なんだから! おいそれとブンブン振り回すの禁止!」
「ええ……振り心地めっちゃいいのに……」
「ええじゃない! さっきも見たでしょ、火炎球に黒い炎が足されたの。あれはアスカリオンの黒魔法だ。君、無意識にアスカリオンの黒魔法を使っちゃったんだよ?」
そう言われてしまうと、流石においそれとブンブンは問題ありそうな気がする。
「さ、僕たちもここにいると危険だ。さっさと帰ろう」
「そっすね」
そういいながら杖をしまうと、エドが目を見張った。
「ちょ、どこに片付けたのさっきの黒杖!」
「いや、なんか必要なときにヒョイッと手元に出てくるし、必要ねえなと思ったらヒョイッとどこか行っちゃうんで」
「収納魔法まで掛けられてる上に、その所有権までウィルに譲渡されちゃってるじゃないか!」
「なんか問題なんすか?」
「いや、このあいだウィルが言っていた『殴りかかってきたので殴り返したら、土下座で差し出してきた』って、アスカリオンは本気で負けを認めてたんだなぁ、って思ってね」
「そういうもんっすかね」
肩をすくめて笑うエドに、俺はどう返したものかわからなくなって首を傾げるしかなかったのだった。
「どうして?」
久しぶりの散歩をしながら首を傾げていると、エドが問いかけてくる。いやだって。
「テストの内容も教科書に載ってたことを覚えりゃ済む話っすよ?」
「済む話って……範囲が膨大すぎて覚えるのだけでもおおごとだよ?」
「あと、絶対魔法学と剣術の実地試験、ガチでしくじったし……」
「……うーん……」
エドは頬をポリポリかきながら苦笑する。
「多分、それはしくじったって評価にならなかったんだろうね」
「……なんで?」
なんでって、と更に困った顔でエドが笑みを深くした。
「魔法学の試験のときは僕も見ていたけど、初級火炎魔法の詠唱も正しかったし、魔法を放つときの杖の振り方も姿勢も正しかったでしょ? そして結果火は出た」
「……火が出たどころか爆発炎上したっすけど」
ひた、とエドの足が止まる。
「……確かに爆発するとは僕も思ってなかったんだよね……」
「? どうしたっすか」
「う、ううん、なんでもないよ」
振り返って首を傾げると、首を振って追いついてくる。
「確かに爆発炎上はびっくりしたし、試験官の先生もびっくりしてたけど。試験中火が出なくてパニックを起こしている生徒もいた。それよりはずっとすごいよ」
「そういうもんすかね」
「そうそう。それに剣術の試験の時も、型の試験では先生に筋が良いって褒められたじゃないか」
「……それに続く対戦型の試験のときに相手の剣を粉砕して泣かしちゃいましたけど」
「あー……アレハンド侯爵子息ね。すごい泣き方してたね」
「よっぽど怖かったんすかね……力の加減ができなくて申し訳ないことしたっす」
「ウィル覚えてる? そのアレハンド侯爵子息。彼は君を危険なダンジョンに誘い込んだいじめっ子たちのリーダーだよ?」
言われて、思い出す。そういやダンジョンから素材を持って帰れば突っかかってくるのをやめると言ってくれたあの3人組のうちの一人だったか。
とはいえ……。
「あれ、っていじめだったんすか?」
俺にとっちゃ、あのダンジョンは良い散歩コースだ。流石にエドを連れて行くことはできないけども、奥まで行っては時々アスカリオンさんに遊んでもらっている。
けれどエドは俺の顔を見て、肩をすくめて首を横に振った。エドには心配をかけてばっかりのような気もするけど、あれがいじめだとかいうならずいぶん優しいよな、王都って。
「……君って本当、おおらかっていうか敵意に対して寛容っていうか」
「そうでもないっすよ。あの3人には拾ってきた素材の中で一番役に立たない石ころとか渡しといたんで」
「そこでアスカリオンの黒杖みたいな『一番危険なの』とか『一番グロテスクなの』とか渡さなかったところが、君の優しさだと思うよ」
そういうもんだろうか。ああいや、アスカリオンさんにもらった杖、素振りにいいからなぁ。
「だってあのダンジョンの素材、結構良いもんでしたから。まあうちのジジババが素材を取りに入る地元のダンジョンよか楽な道でしたけど」
「ホント、君の出身だって言うロシュトーク村、どんな村なのか想像がつきないよ」
「夏休み来てみるっすか? そんな面白いもんなんて特にないっすけど」
「いいのかい!?」
身を乗り出すエドに若干のけぞりながら頷く。
「や、問題があるとすりゃ、王子様が泊まれるようなしっかりした宿がねえってことくらいすかね」
「そんなの、君のご実家が迷惑でなければ君の家に泊まらせてもらいたいくらいなのに!」
なんでだ。なんでこんなに乗り気なんだ。そんな面白い村じゃねえぞ。
「ま、まあ、夏休みエドの親父さんが良いって言うなら、一緒に行きますか」
「ああ、ありがとうウィル!」
キラキラした目で嬉しそうに笑うエドを見ながら、なんとなく自分の村がこんなに興味を持ってもらえることにちょっとした照れくささを感じつつ。
俺は、鼻の頭をポリポリ掻きながら歩き出した。
◆ ◆ ◆
エトゥリー・ルスティカーナは困り果てていた。
貴族の中でも下級貴族に位置する男爵令嬢の彼女は、実を言えばあまり周囲とうまく行っていない。
愛らしいその見た目のおかげで男子生徒の覚えは良いものの、女子生徒からのやっかみというのはかなりおおきいのだ。
とはいえ、男に助けられているだけでは王立学園での生活はままならない。父であるルスティカーナ男爵の厳しい教えに応じ、彼女は勉学にも懸命だった。
結果、エトゥリーは学年の中でも上位、職員室にその成績が貼り出される成績を常にキープしている。
しかしそれ故に、クラスメイトの中からは面白くないというやっかみも大きくなっているのも事実だった。
だから、だろう。
エトゥリーは外に呼び出された。とある上級貴族の令嬢から。
リリーナではない。彼女はエトゥリーを歯牙にもかけていないし、そんなことはエトゥリーだって理解している。
「ファルレイン伯爵令嬢、参りましたわ。こちらにいらっしゃるのですか?」
呼び出した令嬢の名前を呼びながら、足を踏み入れる。
凶獣の森に次ぐ危険区域とも言われる、「黄昏の平原」に。
◆ ◆ ◆
「ん?」
足を止める。何か聞こえたような。
「どうした、ウィル?」
振り返ったエドが首を傾げる。
「悲鳴が聞こえたっす。こっち」
言いながら足を向ける。そっちは、とエドが呼び止めてきた。
「そっちは黄昏の平原だ。火炎球を飛ばしてくる魔物がいるから危険だよ」
「じゃ、誰かが襲われてるんすかね」
だとすると問題だ。誰か呼びに行って間に合うだろうか。
「エド、ここにいてください。俺ちょっと行ってくるっす」
「あ、まってウィル!」
ほうっておくのはちょっと気分が悪い。危険だと言うならエドには申し訳ないがここにいてもらって、俺だけちょっと見てこよう。と思っていると、後ろからエドがついてきた。
「危ないんじゃないんすか」
「僕は護衛がついているからある程度は大丈夫。それより君が一人で行くのは心配だよ」
「あざっす。じゃちょっと様子だけ見に行きましょう」
悲鳴が聞こえた方に向かって暫く進むと、見覚えのある女子生徒がへたり込んでいる。
その向こうには、大きく口を開けた魔物の姿。
「あれっすか、火炎球を飛ばしてくる魔物」
「あれだ! それにあれは……ルスティカーナ男爵令嬢?」
「あ、やっぱりエトゥリーさんっすか」
俺はエトゥリーさんの方へ駆け寄ると、アスカリオンさんにもらった杖を取り出す。
「うぃ、ウィル様!?」
「うっす、ここ危ないらしいっすよ」
「い、いやあの、その黒杖一体どこから取り出したんです!?」
「話はあとっすね」
ブンブン、と杖を振ると結構な重み。おお、これはいいや。
「ちょ、ちょっと待ったウィル、君その黒杖で何をする気だ……!?」
ついてきたエドがなにか言っているけれど、とりあえずあれをどうにかしなければいけない。
ゴッ、と音を立てて、口から吐き出された火炎球がこちらに向かって飛んでくる。
「きゃあっ!」
叫ぶエトゥリーさん。
俺は一度杖を火炎球に向かって突きつけ、クルンと回して足を肩幅に開き——。
「秘技——」
飛んできた火炎球を打ち返した。
「——ピッチャー返しっ」
「えええええっ!?」
かきーん、と音を立てて打ち返された火炎球は、次の瞬間ゴウン、と音を立てて黒い炎を纏うと、そのまま魔物に打ち返された。
着弾し、黒い炎を上げて燃えあがる魔物の姿。よっしゃ。
「何したのウィル!?」
叫んで駆け寄ってきたエドを振り返る。
「いや、火炎球打ち返しただけっす」
「だけって……! 普通に物理的に打ち返せるものじゃないからね!?」
「いやあ、いい杖っすねこれ。振り心地が最高っす」
ブン、ともう一度素振りをすると、周囲の草が枯れた。なんと。
「あの、ウィル様……」
「ケガないっすか、エトゥリーさん」
「あ、は、はい……」
何故かこちらを潤んだ目で見上げながら何度も頷くエトゥリーさん。よほど怖かったんだな。
「なんの用事でここまで来たか知らんすけど、ここらへん危険らしいんでさっさと帰った方がいいっすよ」
「そ、そうですね、あの、ありがとう、ございます……」
何度も振り返りながら頭を下げて帰っていくエトゥリーさんを見送って、それからエドが呻く。
「さすがはアスカリオンの黒杖というべきか、それともさすがはウィルというべきか……」
「そんなすごいんすか、アスカリオンさんって」
「あの『偽聖者の祠』が発見されてから250年、だったかな。今まで最奥にいるとされる偽聖者アスカリオンの討伐に成功した者はいないよ」
「マジで。俺時々遊びに行ってるんすけど、道理で暇そうにしてると思ったっす」
「遊びに行く場所じゃないって言っても、ウィルにとっては通用しないからねぇ。あと」
びし、とエドが指を突きつけてきたので、俺はもう一度素振りをしようと振り上げた構えを解除した。
「それは伝説級の黒魔法研究者が使っていた伝説級の装備なんだから! おいそれとブンブン振り回すの禁止!」
「ええ……振り心地めっちゃいいのに……」
「ええじゃない! さっきも見たでしょ、火炎球に黒い炎が足されたの。あれはアスカリオンの黒魔法だ。君、無意識にアスカリオンの黒魔法を使っちゃったんだよ?」
そう言われてしまうと、流石においそれとブンブンは問題ありそうな気がする。
「さ、僕たちもここにいると危険だ。さっさと帰ろう」
「そっすね」
そういいながら杖をしまうと、エドが目を見張った。
「ちょ、どこに片付けたのさっきの黒杖!」
「いや、なんか必要なときにヒョイッと手元に出てくるし、必要ねえなと思ったらヒョイッとどこか行っちゃうんで」
「収納魔法まで掛けられてる上に、その所有権までウィルに譲渡されちゃってるじゃないか!」
「なんか問題なんすか?」
「いや、このあいだウィルが言っていた『殴りかかってきたので殴り返したら、土下座で差し出してきた』って、アスカリオンは本気で負けを認めてたんだなぁ、って思ってね」
「そういうもんっすかね」
肩をすくめて笑うエドに、俺はどう返したものかわからなくなって首を傾げるしかなかったのだった。


