「……あのさ、福井」
百合人は、慎重に言葉を選んだ。
「どうしてそう思ったのかわからないけど、僕は美大に進むつもりはない。絵は、単なる趣味だ」
「え、マジ?」
福井が、目を見張る。
「いや、俺、お前が顧問と話してるの、聞いたことがあったから。てっきり、X美大を受けるつもりかと」
ようやく、腑に落ちた。確かにかつて、美術部の顧問教師に、その大学を勧められたことがある。そこは、顧問の母校なのだ。結局断ったのだが、その会話を聞いたなら、誤解しても当然かもしれなかった。
「うー、何かみっともないな、俺って。せっかくの接点も活かせなかったし、早とちりはするし……」
福井は、ひどく落ち込んでいる。そんなことないって、と百合人は言った。
「僕も進路のこと、はっきり話してなかったし。……それに、鈍感、だったみたいで……」 何だか気恥ずかしくなり、百合人は下を向いた。唐突に、福井が咳払いする。
「止めろって。お前のそういう顔、ヤバいから」
「――え?」
「花岡」
福井が、じっと百合人の顔を見つめる。
「南原がお前の見舞いに来たって聞いて、ようやく俺も決心がついたわ。回りくどいことしてないで、ハッキリ言わなきゃな。……俺、お前のことが好きなんだ」
「福井……」
まさか、二日連続で告白されるとは。百合人は、あんぐりと口を開けた。
――正直、南原との関係は気まずいままなんだけど。でも、それとこれとは別。
例え南原とはあれっきりだったとしても、福井の気持ちには応えられない。それだけは確かだった。
申し訳ないけれど、きちんと断らなくては。だが、百合人が口を開こうとしたその時、トイレのドアが開いた。
「花岡は、俺のだからな!」
百合人は、唖然とした。息せき切って飛び込んで来たのは、南原だったのだ。彼は、百合人に向かってぺこりと頭を下げた。
「昨日は、突然帰ってごめん! 何だか、急に恥ずかしくなっちまったんだよ。……でも、お前に対する気持ちに嘘は無い」
そう言うと南原は、福井の方へ向き直った。
「昨日、花岡に告白したんだ。それで、両想いだとわかった」
福井の顔が、すうっと青ざめる。彼は、答を求めるかのように百合人を見た。
「南原の言った通りだよ。ごめん。さっきも言おうとしたんだけど、福井の気持ちには応えられない」
福井は肩を落とすと、ふうっとため息を吐いた。
「そっか。ま、そんな予感はしてたけどな」
「ごめん……」
「何度も謝んなって。逆に辛いわ」
そう言うと福井は、くるりと踵を返した。
「仲良くやれよな。んじゃ、また学校で」
足早に、福井が出て行く。百合人と南原は、思わず顔を見合わせ合っていた。
「えっと……。今日はどうしてここに?」
とりあえず、聞いてみる。南原は、軽く肩をすくめた。
「退院の手伝いに来たんだよ……ってのは半分口実で、昨日のこと謝りたかった」
「もういいよ。正直悩んだけど、理由がわかったからスッキリ」
百合人は微笑んだ。ごめんな、と南原が呟く。
「昨日帰ってから、すっげー後悔してさ。絶対誤解させたよな、って。○INEで謝ろうかと思ったけど、よく考えたらID知らねーじゃん、て気づいて。俺馬鹿過ぎんだろ、とか思ったら余計自己嫌悪でさ……」
ぶつぶつと呟く南原を見ていると、百合人は、逆に心がほっこりしてくるのを感じていた。
――いっつも完璧だと思ってた南原だけど。可愛い面もあんじゃん……。
「本当に、もう気にしてないからいいって」
さあ出よう、と南原を促す。二人並んで病院の廊下を歩いていると、南原の手が百合人の手に軽く触れてきた。
――これって……、そういうことだよな?
百合人がそっと手を握れば、力強く握り返された。百合人は、鞄の中をチラと見た。南原からもらったプリザーブドフラワーが顔をのぞかせている。
――家に帰ったら、どこに飾ろうかな……?
鮮やかに咲き誇るゼラニウムを見つめながら、あれこれと想像を膨らませる。その赤色は、昨日よりもずっと輝いて見えた。
了
百合人は、慎重に言葉を選んだ。
「どうしてそう思ったのかわからないけど、僕は美大に進むつもりはない。絵は、単なる趣味だ」
「え、マジ?」
福井が、目を見張る。
「いや、俺、お前が顧問と話してるの、聞いたことがあったから。てっきり、X美大を受けるつもりかと」
ようやく、腑に落ちた。確かにかつて、美術部の顧問教師に、その大学を勧められたことがある。そこは、顧問の母校なのだ。結局断ったのだが、その会話を聞いたなら、誤解しても当然かもしれなかった。
「うー、何かみっともないな、俺って。せっかくの接点も活かせなかったし、早とちりはするし……」
福井は、ひどく落ち込んでいる。そんなことないって、と百合人は言った。
「僕も進路のこと、はっきり話してなかったし。……それに、鈍感、だったみたいで……」 何だか気恥ずかしくなり、百合人は下を向いた。唐突に、福井が咳払いする。
「止めろって。お前のそういう顔、ヤバいから」
「――え?」
「花岡」
福井が、じっと百合人の顔を見つめる。
「南原がお前の見舞いに来たって聞いて、ようやく俺も決心がついたわ。回りくどいことしてないで、ハッキリ言わなきゃな。……俺、お前のことが好きなんだ」
「福井……」
まさか、二日連続で告白されるとは。百合人は、あんぐりと口を開けた。
――正直、南原との関係は気まずいままなんだけど。でも、それとこれとは別。
例え南原とはあれっきりだったとしても、福井の気持ちには応えられない。それだけは確かだった。
申し訳ないけれど、きちんと断らなくては。だが、百合人が口を開こうとしたその時、トイレのドアが開いた。
「花岡は、俺のだからな!」
百合人は、唖然とした。息せき切って飛び込んで来たのは、南原だったのだ。彼は、百合人に向かってぺこりと頭を下げた。
「昨日は、突然帰ってごめん! 何だか、急に恥ずかしくなっちまったんだよ。……でも、お前に対する気持ちに嘘は無い」
そう言うと南原は、福井の方へ向き直った。
「昨日、花岡に告白したんだ。それで、両想いだとわかった」
福井の顔が、すうっと青ざめる。彼は、答を求めるかのように百合人を見た。
「南原の言った通りだよ。ごめん。さっきも言おうとしたんだけど、福井の気持ちには応えられない」
福井は肩を落とすと、ふうっとため息を吐いた。
「そっか。ま、そんな予感はしてたけどな」
「ごめん……」
「何度も謝んなって。逆に辛いわ」
そう言うと福井は、くるりと踵を返した。
「仲良くやれよな。んじゃ、また学校で」
足早に、福井が出て行く。百合人と南原は、思わず顔を見合わせ合っていた。
「えっと……。今日はどうしてここに?」
とりあえず、聞いてみる。南原は、軽く肩をすくめた。
「退院の手伝いに来たんだよ……ってのは半分口実で、昨日のこと謝りたかった」
「もういいよ。正直悩んだけど、理由がわかったからスッキリ」
百合人は微笑んだ。ごめんな、と南原が呟く。
「昨日帰ってから、すっげー後悔してさ。絶対誤解させたよな、って。○INEで謝ろうかと思ったけど、よく考えたらID知らねーじゃん、て気づいて。俺馬鹿過ぎんだろ、とか思ったら余計自己嫌悪でさ……」
ぶつぶつと呟く南原を見ていると、百合人は、逆に心がほっこりしてくるのを感じていた。
――いっつも完璧だと思ってた南原だけど。可愛い面もあんじゃん……。
「本当に、もう気にしてないからいいって」
さあ出よう、と南原を促す。二人並んで病院の廊下を歩いていると、南原の手が百合人の手に軽く触れてきた。
――これって……、そういうことだよな?
百合人がそっと手を握れば、力強く握り返された。百合人は、鞄の中をチラと見た。南原からもらったプリザーブドフラワーが顔をのぞかせている。
――家に帰ったら、どこに飾ろうかな……?
鮮やかに咲き誇るゼラニウムを見つめながら、あれこれと想像を膨らませる。その赤色は、昨日よりもずっと輝いて見えた。
了

