――あ~、集中できないな。
続く柔道の授業中も、百合人は上の空だった。密かに見つめるだけの存在だと思っていた南原と、思いがけず親しく話すことができた。それだけでなく、福井から自分を庇ってくれた。
――嬉しすぎるんだけど……。
「じゃあ、実際にやってみるぞー」
教師の声に、百合人ははっと我に返った。あれこれ反芻しているうちに、いつの間にか技の説明は終わっていた。今日やる技は、背負い投げだ。
――ええと、ポイントは……。
百合人は、南原の方をチラと見やった。長身の彼は、同じく大柄な生徒と組むようだ。運動神経の良い彼なら、さぞかし技もカッコ良く決めることだろう。
「おい、ぼーっとすんなよ」
ぐいと腕を捕まれて、百合人はとたんに陰鬱な気分になった。よりによって、今日組む相手は福井だったのだ。
――さっきの今で、やりづらいなあ……。
百合人はクラスの男子の中でも、かなり小柄な方だ。似たような体格同士で組むとなると、同じような身長の福井と当たることが多いのである。とはいえ、福井も根は真面目だ。乱暴な真似はされたことがない。百合人は、気を取り直して礼をした。
練習が開始すると、福井は早速技をかけてきた。百合人は、あわてて受け身のやり方を思い出そうとした。
――ええと、前回り受け身は……。
しっかり受け身を取れよ、と教師がわめく。体を回転させて受け身を取ろうとしたその時、百合人は違和感を覚えた。
――あれ、違った……?
教師と福井の、焦ったような声が聞こえる。次の瞬間、百合人は床に倒れ込んでいた。
百合人は、すぐに病院に運ばれた。着地の際に鎖骨を強打し、骨折したのだ。幸いにも、手術はスムースにしてもらえることになり、一週間も経たずに退院できるとのことだった。
入院当初は、ちょっとした騒ぎだった。両親はすぐに駆けつけ、教師や親しい友人らも見舞いに来てくれた。だが、それもすぐに落ち着いた。部屋は四人部屋だが、ベッドは二つしか埋まっていないので、静かすぎて寂しいくらいだ。ちなみにもう一人の患者は無愛想な中年男で、百合人には無関心だった。
暇になった百合人は、あれこれ物思いにふけった。
――福井の奴、来ないのかよ。やっぱ、嫌な奴……。
当事者である彼だけが、一度も病室に姿を現さないのだ。今回の事故は、百合人が受け身の取り方を間違えたせいで、福井に責任はない。しかしそうはいっても、見舞いにも来ないなんて、と百合人は内心毒づいた。
――止め止め。あんな奴のこと、考えるのは止そう。
百合人は瞳を閉じて、南原に思いを馳せた。学校を休む間、顔を見られないのは辛い。入院するとわかっていたら、自室にある秘蔵写真を持ってきたのに。それだけが、ひたすら悔しかった。
続く柔道の授業中も、百合人は上の空だった。密かに見つめるだけの存在だと思っていた南原と、思いがけず親しく話すことができた。それだけでなく、福井から自分を庇ってくれた。
――嬉しすぎるんだけど……。
「じゃあ、実際にやってみるぞー」
教師の声に、百合人ははっと我に返った。あれこれ反芻しているうちに、いつの間にか技の説明は終わっていた。今日やる技は、背負い投げだ。
――ええと、ポイントは……。
百合人は、南原の方をチラと見やった。長身の彼は、同じく大柄な生徒と組むようだ。運動神経の良い彼なら、さぞかし技もカッコ良く決めることだろう。
「おい、ぼーっとすんなよ」
ぐいと腕を捕まれて、百合人はとたんに陰鬱な気分になった。よりによって、今日組む相手は福井だったのだ。
――さっきの今で、やりづらいなあ……。
百合人はクラスの男子の中でも、かなり小柄な方だ。似たような体格同士で組むとなると、同じような身長の福井と当たることが多いのである。とはいえ、福井も根は真面目だ。乱暴な真似はされたことがない。百合人は、気を取り直して礼をした。
練習が開始すると、福井は早速技をかけてきた。百合人は、あわてて受け身のやり方を思い出そうとした。
――ええと、前回り受け身は……。
しっかり受け身を取れよ、と教師がわめく。体を回転させて受け身を取ろうとしたその時、百合人は違和感を覚えた。
――あれ、違った……?
教師と福井の、焦ったような声が聞こえる。次の瞬間、百合人は床に倒れ込んでいた。
百合人は、すぐに病院に運ばれた。着地の際に鎖骨を強打し、骨折したのだ。幸いにも、手術はスムースにしてもらえることになり、一週間も経たずに退院できるとのことだった。
入院当初は、ちょっとした騒ぎだった。両親はすぐに駆けつけ、教師や親しい友人らも見舞いに来てくれた。だが、それもすぐに落ち着いた。部屋は四人部屋だが、ベッドは二つしか埋まっていないので、静かすぎて寂しいくらいだ。ちなみにもう一人の患者は無愛想な中年男で、百合人には無関心だった。
暇になった百合人は、あれこれ物思いにふけった。
――福井の奴、来ないのかよ。やっぱ、嫌な奴……。
当事者である彼だけが、一度も病室に姿を現さないのだ。今回の事故は、百合人が受け身の取り方を間違えたせいで、福井に責任はない。しかしそうはいっても、見舞いにも来ないなんて、と百合人は内心毒づいた。
――止め止め。あんな奴のこと、考えるのは止そう。
百合人は瞳を閉じて、南原に思いを馳せた。学校を休む間、顔を見られないのは辛い。入院するとわかっていたら、自室にある秘蔵写真を持ってきたのに。それだけが、ひたすら悔しかった。

