学園一の女に一目惚れされて

主人公の南雲 結芽(なぐも ゆめ)は春休みの楽園を終わらせるべく、時を刻み続ける時計を睨む。

 明日からは高校2年生としての生活が始まる。

 私は夜中のベットの中で明日のことにあれこれと不安を抱きながら眠りについた。



 朝、部屋中に目覚まし時計が鳴り響く。

「…はぁー…」

 電子時計の日付けを見ると、しっかりと学校に行く日に日付けを進めていた。

 当たり前のことだが、この日ばかりは何度経験しても心臓が痛い。

「結芽ー!そろそろ起きなさーい!」

 お母さんの声が私の意識を現実に引き戻す。

「はーい!」

 返事をしてからさっさと着替えて学校へ向かうべく、まずは階段を降りてリビングに向かった。



「おはよー、結芽。お弁当は要る?」

「ううん、大丈夫」

「結芽?顔色悪いわよ?緊張する?」

 私の顔をマジマジと見つめてから、お母さんは心配そうに私に問いかけた。

「大丈夫。それに、ここで行かなかったらぼっち確定するじゃん」

「ぼっちの何がいけないの?」

「…わかんないけど、とにかく笑われるの!」

「そうなの?」

「そうなの!」

 お母さんは「何がダメなのかよく分からないわ」と首を傾げていたが、諦めて朝食の食パンと胃薬を渡して来た。
 
 それらを受け取り、流し込むと私は気を取り直して学校に向かう。


 通い慣れた通学路を通り学校に着くと、既に掲示板の前には沢山の人でごった返していた。

「きゃー!あの望美様と同じクラスメイトよ!」

「えっ!?本当に!?」

 1組の欄に自分の名前を見つけて、私は親友の名前を探し始める。

「結芽ー!おはよー」

 すると、4組の掲示板が掲示されている方角から親友の心愛がやって来る。

「あたし4組だったよー!結芽は?何組だったの?」

 私が挨拶を返すよりも早く心愛は早口で捲し立てる。

「おはよう、1組だったよ」

「えっ!?嘘!あの山丸望美様とクラスメイトじゃん!」

「うん」

「嬉しくないの?」

「だって、興味無いし…私みたいな一般人は近付けもしないって」

 そう、山丸望美様とは学力は学年で一位、運動だって得意の才色兼備で1年の時はリレーでアンカーを務めていた。

 ボランティア活動にも積極的に臨み、先生からの信頼も厚く、隙が無いといった印象を抱いている。

「何でも完璧にこなせる上に超絶美人なんだよ?私には、縁もゆかりも無いよ」

「まあ、実際クラスメイト全員からチヤホヤされるのって最早、山丸望美様にしかできないんじゃないの?とは思うけどねー?」

 心愛は人混みを華麗に避けながら、教室の前に着くと私に手を振り4組の中へと消えて行った。



 私も自分のクラスに着くと、見知らぬクラスメイト達でいっぱいの教室の中へと入った。

 誰に声をかけようか悩んでいると、教室の後方から悲鳴が聞こえて来た。

「きゃー!!望美様、おはようございます!!」

 1人の熱狂的なファンから黄色悲鳴が上がると次々と伝染して行き、先生が飛んで来るほどだった。

「望美様…えっと、お近づきの印に放課後一緒に遊びに行きませんか!?」

「…ごめんなさい、今日は予定がありまして…」

 サラッと女の子のお誘いを断ると、私の隣の席に座る。

 どうやら、山丸望美様の席と隣だったらしい。

「ひゃー…!お誘いしちゃた…!!」

「相変わらず姿勢すらも美しいなんて…」

 みんながヒソヒソと騒ぐ中、望美は前を向き座り続けていた。

 その近寄り難いオーラに挨拶を交わす気も消え失せ、私はスマホを弄って時間を潰した。



 始業式も終わり、放課後になるとみんなは遊びに行く計画を立てて浮き足立っていた。

 その雰囲気の中、誘われないように早急に教室を出て早足で駐輪場に辿り着くと、膝に手を置いて呼吸を整える。

「あの、すみません」

「…え?」

 後から呼び止められて振り向くと、なんとあの山丸望美が立っていた。

「クラスメイトの方々が貴女を捜していましたよ?戻らなくても良のですか?」

「…あー…私も今日は予定があるので早めに帰るんです」

 嘘をついたことによるほんの少しのうしろめたさを隠して、私はその場を立ち去ろうとした。
 
「なるほど。だったら、わたくしも単刀直入に伝えた方が良さそうですね。わたくし、貴女のことが好きです」

「…え?」

「付き合ってください」

 突然のことに戸惑う私に、望美はもう一度先程の台詞を述べた。

「いや、付き合ってって言われても…第一、私達同性ですし、それに、私じゃなくてももっと良い人が沢山居るんじゃないんですか?」
 
「そうですわね…でも、今までのどの人よりも貴女が1番綺麗だと思いました」

「…え?」

 聞き間違い…かな?と思ったのも束の間

「私は、確かに沢山の人に告白される…でも、感謝こそするけど私には響かないことが多かった」
 
すると、望美は熱く語り出した。
 
「でも、貴女は違う。貴女とは一言も話していないのに、こんなに心に響く人は初めてなの!」

 だが、私には自分のどこが望美に響いたのかがイマイチ分からなかった。

「その、貴女の気持ちはよく分かったんだけど、私のどこがそんなに好きなの?それに、その好きってどういう意味なの?」

「まずは、わたくしの想いを受け取ってくれてありがとうございます。そうね…彼女にしたいって意味かしら」

「かっ彼女!?」

「えぇ」

 優雅に頷き、微笑む望美を私はマジマジと見つめる。

「…それは…本気で仰ってます?」

「えぇ、本気よ。貴女のことが好き、愛していますわ」

 そう言った望美は私にそっと近づき、抱き寄せる。

「あ、あの!ここじゃ人目に触れ…!?」

「えっ!?望美様……?なんで…女性を抱き寄せて…!?」

 その時、偶然通りかかった女子生徒が悲鳴を上げる。

 その悲鳴で集まった人達で人溜まりができる前に私は望美の手を掴み、走り出していた。


「……はぁ、はぁっ」

「はぁ……っ!はぁ……!」

 しばらく走り、誰も追ってきてないことを確認してから息を整えると、望美が口を開いた。

「今日は……もう、一緒に居ない方が良いかしら?さっきは驚かせてしまってごめんなさい。返事はいつでもいいから…それじゃ、また明日」

「あっ、また明日!」

 手を振る望美に手を振り返すと、望美の後ろ姿が遠のくのを見送った。
 

 帰宅すると、スマホにお母さんからのメールが届いていた。

 確認すると、昼食は冷蔵庫に入れてあるという業務連絡みたいな内容だった。

 それに返事を返し、昼食を終えるとソファーでダラダラとスマホを弄って過ごした。