「え~? この学校の七不思議ぃ? ……島ちゃん、受験勉強やり過ぎなんじゃない? 息抜きにどっか付き合おっか?」
「いや……その……」
葛西君にどこまでも真剣に心配されてしまい、だいぶ気まずい。
僕がいきなり七不思議を調べるとか、そんなおかしなことかな……?
……だいぶおかしいかもしれない。受験ノイローゼを心配されても仕方ないかも……。
視線を泳がせて動揺を露にしてしまう僕に対して、葛西君は一つため息を吐いてから口を開いた。
「えっと、まずはプールだろ。それから資料室。あと校門の銅像。西棟の踊り場にある鏡に、南棟の開かずの扉」
ふんふんと頷きながら、自分のノートと見比べる。
うん。だいたい一緒だ。
「あと比較的新しいのが二つ。図書室の呪いの本と、使われてない第三音楽室の怪異だ」
「ふんふん。……ふ、ん?」
パッとノートから顔をあげた僕を、葛西君が訝し気に見る。
いやでも……。
「……図書室の呪いの本の話って、そんなに新しいの?」
本題はそっちじゃないけど、気になったことは聞いておくスタンスだ。
……けっして問題を後回しにしたわけじゃない。ないったらない。
「ん? あぁ、そうらしいよ。ウチのねーちゃんが俺と入れ違いで卒業してったんだけど、ねーちゃんが卒業する直前に噂が回ってきたって言ってたくらいだから……。少なくともここ二、三年の間に出てきた噂だろうな」
「……ふぅん」
ノートにメモを取りながら、二、三年前の部分に赤丸を付ける。
入れ違いで卒業したってことは……。
「お姉さん、今大学三年生とか?」
「んぁ? あぁ、そだよ。就活とかインターンが大変だって毎日ひぃひぃ言ってる」
「あー、大変だっていうよね……。三年ってことは、今度来る予定だった教育実習生の人と同い年なのかなぁ?」
なんでそんなこと気になったのか、僕にもよくわからない。
ただ、なんとなく保坂先生の動揺した様子が頭の片隅に残っていたんだろう。
「ん? あぁ、保坂っちが言ってた人な。事情があってこれなくなった教育実習生。……そうだな。たぶんねーちゃんも保坂っちのクラスだったから知ってんじゃね?」
「そっか……。まぁ、だからなんだって話なんだけどね。保坂先生のあの様子見ちゃうと……ちょっと心配だよね」
頬を掻きながら言い訳がましい言葉を口にする。
それで納得してくれたのか、同意を示すように頷いてくれた。
「だなぁ。教育学部ってことは、ガチで先生目指してたクチだろうしなぁ」
「……そうなの?」
「ん? あぁ、五月に教育実習に来る学生って、教育学部の人が多いんだと。ほら、一般学部だと今の時期それこそねーちゃんみたいに就活とかインターンとかがあるから。だから一般学部に行ってて、ついでに教育免許取ろうとする人はだいたい十一月ころに教育実習するらしいぜ。ねーちゃんがそうだって言ってたし」
「そう……なんだ……」
真剣に先生を目指して教育実習に来るはずだった人。
事故でめちゃくちゃになって……その人は今どういう心境なんだろう。
顔も名前も知らないその人が、なんだかとても気になった。
「あ、最後の一つも説明してく?」
「ん? え? あぁ、お願いシマス」
友達に呼び出されたのか、スマホをタップしながら葛西君が少しだけ早口になった。
「えっと……第三音楽室の怪異だっけ?」
ユーレイさんと会ったのは五月の連休明け。
今は五月最後の週だから……。
ユーレイさんが七不思議に加入するには早すぎるような気もするし、それに……。
僕以外にユーレイさんを見たことがある人がいるって事実がなんだか落ち着かない。
「そ、これは図書室の呪いの本より後、第三音楽室が使われなくなってからの話らしいんだが……。なんでも誰もいないはずの第三音楽室からピアノの音が聞こえてくるらしいぜ」
まるで内緒話をするかのようにぐっと声を落とした葛西君の顔が、僕の視界一面に映る。
「……ぇ?!」
他人にここまで近づかれたことがないからもっと動揺すべきなんだろうけど、今の僕はそれどころではなかった。
「え? ピアノの……音?」
「そ。放課後とか、誰もいないはずなのに、第三音楽室からきれぇなピアノの音が聞こえてくるんだってさ。なんでもピアニストを目指してた女生徒の幽霊が弾いてるらしいぜ?」
「へ、へぇ……? そ、そうなんだ……」
背中を冷や汗が伝う。
それってもしかしてもしかしなくとも……。
「そ。これで七不思議は全部かな? んじゃ、俺カノジョに呼ばれたから行くわ~」
ひらりと手を振って去っていく葛西君。
「あ、ありがとー!」
教室を出る直前にやっと投げたお礼はなんとか相手に伝わったらしい。
ニコリと笑いながら去っていく葛西君を、曖昧な笑みのまま見送って……。
僕は頭を抱えた。
第三音楽室の怪異って……っ!
もしかしなくとも僕のこと?!
確か第三音楽室が閉鎖されたのは、僕が入学するタイミングで。
鍵がかかってないのをいいことに、ちゃっかり侵入してピアノを弾き始めたのは入学して早々のことだった。
今、自宅にピアノはないから……。
だけど時々どうしてもピアノに触れたくなって……。
だから誰も来ない第三音楽室に出入りしてたんだけど……。
「僕自身が、七不思議になってるとか……想定外なんだけど~」
べちょりと机に突っ伏した僕は、文字通り頭を抱えたのだった。
「いや……その……」
葛西君にどこまでも真剣に心配されてしまい、だいぶ気まずい。
僕がいきなり七不思議を調べるとか、そんなおかしなことかな……?
……だいぶおかしいかもしれない。受験ノイローゼを心配されても仕方ないかも……。
視線を泳がせて動揺を露にしてしまう僕に対して、葛西君は一つため息を吐いてから口を開いた。
「えっと、まずはプールだろ。それから資料室。あと校門の銅像。西棟の踊り場にある鏡に、南棟の開かずの扉」
ふんふんと頷きながら、自分のノートと見比べる。
うん。だいたい一緒だ。
「あと比較的新しいのが二つ。図書室の呪いの本と、使われてない第三音楽室の怪異だ」
「ふんふん。……ふ、ん?」
パッとノートから顔をあげた僕を、葛西君が訝し気に見る。
いやでも……。
「……図書室の呪いの本の話って、そんなに新しいの?」
本題はそっちじゃないけど、気になったことは聞いておくスタンスだ。
……けっして問題を後回しにしたわけじゃない。ないったらない。
「ん? あぁ、そうらしいよ。ウチのねーちゃんが俺と入れ違いで卒業してったんだけど、ねーちゃんが卒業する直前に噂が回ってきたって言ってたくらいだから……。少なくともここ二、三年の間に出てきた噂だろうな」
「……ふぅん」
ノートにメモを取りながら、二、三年前の部分に赤丸を付ける。
入れ違いで卒業したってことは……。
「お姉さん、今大学三年生とか?」
「んぁ? あぁ、そだよ。就活とかインターンが大変だって毎日ひぃひぃ言ってる」
「あー、大変だっていうよね……。三年ってことは、今度来る予定だった教育実習生の人と同い年なのかなぁ?」
なんでそんなこと気になったのか、僕にもよくわからない。
ただ、なんとなく保坂先生の動揺した様子が頭の片隅に残っていたんだろう。
「ん? あぁ、保坂っちが言ってた人な。事情があってこれなくなった教育実習生。……そうだな。たぶんねーちゃんも保坂っちのクラスだったから知ってんじゃね?」
「そっか……。まぁ、だからなんだって話なんだけどね。保坂先生のあの様子見ちゃうと……ちょっと心配だよね」
頬を掻きながら言い訳がましい言葉を口にする。
それで納得してくれたのか、同意を示すように頷いてくれた。
「だなぁ。教育学部ってことは、ガチで先生目指してたクチだろうしなぁ」
「……そうなの?」
「ん? あぁ、五月に教育実習に来る学生って、教育学部の人が多いんだと。ほら、一般学部だと今の時期それこそねーちゃんみたいに就活とかインターンとかがあるから。だから一般学部に行ってて、ついでに教育免許取ろうとする人はだいたい十一月ころに教育実習するらしいぜ。ねーちゃんがそうだって言ってたし」
「そう……なんだ……」
真剣に先生を目指して教育実習に来るはずだった人。
事故でめちゃくちゃになって……その人は今どういう心境なんだろう。
顔も名前も知らないその人が、なんだかとても気になった。
「あ、最後の一つも説明してく?」
「ん? え? あぁ、お願いシマス」
友達に呼び出されたのか、スマホをタップしながら葛西君が少しだけ早口になった。
「えっと……第三音楽室の怪異だっけ?」
ユーレイさんと会ったのは五月の連休明け。
今は五月最後の週だから……。
ユーレイさんが七不思議に加入するには早すぎるような気もするし、それに……。
僕以外にユーレイさんを見たことがある人がいるって事実がなんだか落ち着かない。
「そ、これは図書室の呪いの本より後、第三音楽室が使われなくなってからの話らしいんだが……。なんでも誰もいないはずの第三音楽室からピアノの音が聞こえてくるらしいぜ」
まるで内緒話をするかのようにぐっと声を落とした葛西君の顔が、僕の視界一面に映る。
「……ぇ?!」
他人にここまで近づかれたことがないからもっと動揺すべきなんだろうけど、今の僕はそれどころではなかった。
「え? ピアノの……音?」
「そ。放課後とか、誰もいないはずなのに、第三音楽室からきれぇなピアノの音が聞こえてくるんだってさ。なんでもピアニストを目指してた女生徒の幽霊が弾いてるらしいぜ?」
「へ、へぇ……? そ、そうなんだ……」
背中を冷や汗が伝う。
それってもしかしてもしかしなくとも……。
「そ。これで七不思議は全部かな? んじゃ、俺カノジョに呼ばれたから行くわ~」
ひらりと手を振って去っていく葛西君。
「あ、ありがとー!」
教室を出る直前にやっと投げたお礼はなんとか相手に伝わったらしい。
ニコリと笑いながら去っていく葛西君を、曖昧な笑みのまま見送って……。
僕は頭を抱えた。
第三音楽室の怪異って……っ!
もしかしなくとも僕のこと?!
確か第三音楽室が閉鎖されたのは、僕が入学するタイミングで。
鍵がかかってないのをいいことに、ちゃっかり侵入してピアノを弾き始めたのは入学して早々のことだった。
今、自宅にピアノはないから……。
だけど時々どうしてもピアノに触れたくなって……。
だから誰も来ない第三音楽室に出入りしてたんだけど……。
「僕自身が、七不思議になってるとか……想定外なんだけど~」
べちょりと机に突っ伏した僕は、文字通り頭を抱えたのだった。



