「ていうか、そもそもこの学校の七不思議ってなんでしたっけ?」
翌日。
僕は再び第三音楽室へと足を運んでいた。
ガラリと扉を開ければ、窓際で外を眺める幽霊さん改めユーレイさん。
僕の気分的な問題だけど、幽霊さんだと他の幽霊も寄ってきそうだからね。
ユーレイさんと呼ぶことにした。
んだけど……。
まるで今にも消えてしまいそうなその姿に、思わずと手を伸ばす。
手を伸ばしそうになって、自分の愚かな行為に呆れてしまう。
だってそもそも、相手は幽霊なんだから……。
成仏したほうがいいに決まってる。
それを引き留めるだなんてとんでもない所業だ。
むやみやたらと引き留めて悪霊化して憑りつかれなんてしたら目も当てられない。
「お、来てくれたんだ」
ニコリと、それこそ窓の外から差し込む明るい光に負けないくらい明るい笑顔を向けられて、さらに罪悪感がつのった。
この人……僕よりよっぽど生身の人間らしいな。なんて自虐の一つも言いたくなるってもんだ。
「まぁ……約束しましたからね……」
渋々といった表情を作りながら、僕は音楽室の机に持参したノートを広げる。
ちょっとだけワクワクした気持ちを隠しながら。
そう、内心の僕は開き直っていた。
このよくわかんない状況から逃れられないなら、楽しんでしまうしかないと。
やけっぱちとも言えそうな感情を胸に秘めて、僕は七つの数字をかき出してく。
「えッとまずは……。夜になると目が光る銅像でしたっけ? あの校門のところにある胸像のことですよね? それから西棟の階段の踊り場の鏡に血まみれの女子生徒が映る……でしたっけ?」
つらつらとノートに文字を書きながら、ぼんやりと考える。
こんなの誰が目撃したんだろう? とか不思議に思いながらもあと五個はなんだっけと首を傾げた。
「あとはあれだよ。東棟の資料室という名の物置部屋にある黒板には、何度消しても文字が浮かび上がるってヤツ。たしか『命』だっけ?」
相変わらずふよふよと音楽室を飛び回りながら、ユーレイさんが口を挟む。
「『命』って……なんでまた……?」
まぁ、七不思議になにがしかの根拠を求めるものではないだろう。
「さぁな? あとは、夜になるとプールで誰かが泳いでるとか、南棟に開かずの部屋があるとか……」
ユーレイさんの言葉を書き写しながら、僕は首を傾げた。
「あと……二つ? あぁ、確か一つは図書室にある呪われた本だった気がします。……ってユーレイさん、どうかしました?」
七不思議の六番目を告げた途端、目に見えてユーレイさんの挙動がおかしくなった。
「あ……いや……。……なんでもない。えーっとあと一つは……?」
「……なんでしょう?」
首を傾げる僕に、ユーレイさんも首を傾げる。
「えぇ? ほくちゃんも知らねぇの?」
「幽霊さんもご存じないんですか? ていうかほくちゃんって……」
パッと見通り、ユーレイさんは陽キャなんだろう。
距離のつめ方がえぐい。
ほくちゃんなんて呼ばれたことなくて……ちょっとだけ胸がドキドキしたのは僕だけの秘密だ。
「だって北斗君だろ? だからほくちゃん。にしても……あと一個わかんねぇの困るな……。ちょっとほくちゃんクラスメイトとかに聞き込みしてきてくんね?」
「えぇー。なんで僕が……」
「だって俺、他の人に見えねぇみたいだし……」
少しだけ寂し気に落とされた呟きに、僕は慌ててユーレイさんを振り仰いだ。
「え? 誰かに見つかったんですか?!」
「いやだから誰にも気付いてもらえなかったんだって……。今日も一日学校中をフラフラしてたけど、だんれも俺に気付かねぇでやんの。……ほくちゃんだけだよ」
くしゃりと笑うユーレイさん。その笑みは少しだけ寂し気だ。
そりゃそうだろう。誰にも存在をわかってもらえないなんて……辛すぎる。
だからこそ……僕は少しだけ沸き上がった優越感を、胸の奥に押し込めた。
「……じゃあ、ちょっと明日クラスメイトに聞いてきますね。それじゃ今日はこれで……」
「え? ほくちゃんもう帰っちゃうの?」
「うわっ?!」
ふわりと僕の頭上を飛び越えて、ドアの前に立ちふさがるユーレイさん。
マジでビビるから止めて欲しい……。
「え、えぇ。いちおう受験生だし勉強しないと……」
「えー。寂しいじゃーん。ここで勉強してけばいいんじゃね?」
え、集中できなさそう……。
うっかり思ってしまったことが思いっきり顔に出てしまったらしい。
ユーレイさんがむすりと下唇を突き出した。
「あ、何そのかおぉ~。俺だって高三だからね? 同じ受験生だからね?」
「はぁ、そうですね?」
優しい僕はいつの高三なのか、ユーレイさんを問い詰めることはしかなった。
ほら、逆上されて憑りつかれても困るし?
こうして僕は誰も来ない音楽室で、ユーレイさんと勉強することになったのだった。
翌日。
僕は再び第三音楽室へと足を運んでいた。
ガラリと扉を開ければ、窓際で外を眺める幽霊さん改めユーレイさん。
僕の気分的な問題だけど、幽霊さんだと他の幽霊も寄ってきそうだからね。
ユーレイさんと呼ぶことにした。
んだけど……。
まるで今にも消えてしまいそうなその姿に、思わずと手を伸ばす。
手を伸ばしそうになって、自分の愚かな行為に呆れてしまう。
だってそもそも、相手は幽霊なんだから……。
成仏したほうがいいに決まってる。
それを引き留めるだなんてとんでもない所業だ。
むやみやたらと引き留めて悪霊化して憑りつかれなんてしたら目も当てられない。
「お、来てくれたんだ」
ニコリと、それこそ窓の外から差し込む明るい光に負けないくらい明るい笑顔を向けられて、さらに罪悪感がつのった。
この人……僕よりよっぽど生身の人間らしいな。なんて自虐の一つも言いたくなるってもんだ。
「まぁ……約束しましたからね……」
渋々といった表情を作りながら、僕は音楽室の机に持参したノートを広げる。
ちょっとだけワクワクした気持ちを隠しながら。
そう、内心の僕は開き直っていた。
このよくわかんない状況から逃れられないなら、楽しんでしまうしかないと。
やけっぱちとも言えそうな感情を胸に秘めて、僕は七つの数字をかき出してく。
「えッとまずは……。夜になると目が光る銅像でしたっけ? あの校門のところにある胸像のことですよね? それから西棟の階段の踊り場の鏡に血まみれの女子生徒が映る……でしたっけ?」
つらつらとノートに文字を書きながら、ぼんやりと考える。
こんなの誰が目撃したんだろう? とか不思議に思いながらもあと五個はなんだっけと首を傾げた。
「あとはあれだよ。東棟の資料室という名の物置部屋にある黒板には、何度消しても文字が浮かび上がるってヤツ。たしか『命』だっけ?」
相変わらずふよふよと音楽室を飛び回りながら、ユーレイさんが口を挟む。
「『命』って……なんでまた……?」
まぁ、七不思議になにがしかの根拠を求めるものではないだろう。
「さぁな? あとは、夜になるとプールで誰かが泳いでるとか、南棟に開かずの部屋があるとか……」
ユーレイさんの言葉を書き写しながら、僕は首を傾げた。
「あと……二つ? あぁ、確か一つは図書室にある呪われた本だった気がします。……ってユーレイさん、どうかしました?」
七不思議の六番目を告げた途端、目に見えてユーレイさんの挙動がおかしくなった。
「あ……いや……。……なんでもない。えーっとあと一つは……?」
「……なんでしょう?」
首を傾げる僕に、ユーレイさんも首を傾げる。
「えぇ? ほくちゃんも知らねぇの?」
「幽霊さんもご存じないんですか? ていうかほくちゃんって……」
パッと見通り、ユーレイさんは陽キャなんだろう。
距離のつめ方がえぐい。
ほくちゃんなんて呼ばれたことなくて……ちょっとだけ胸がドキドキしたのは僕だけの秘密だ。
「だって北斗君だろ? だからほくちゃん。にしても……あと一個わかんねぇの困るな……。ちょっとほくちゃんクラスメイトとかに聞き込みしてきてくんね?」
「えぇー。なんで僕が……」
「だって俺、他の人に見えねぇみたいだし……」
少しだけ寂し気に落とされた呟きに、僕は慌ててユーレイさんを振り仰いだ。
「え? 誰かに見つかったんですか?!」
「いやだから誰にも気付いてもらえなかったんだって……。今日も一日学校中をフラフラしてたけど、だんれも俺に気付かねぇでやんの。……ほくちゃんだけだよ」
くしゃりと笑うユーレイさん。その笑みは少しだけ寂し気だ。
そりゃそうだろう。誰にも存在をわかってもらえないなんて……辛すぎる。
だからこそ……僕は少しだけ沸き上がった優越感を、胸の奥に押し込めた。
「……じゃあ、ちょっと明日クラスメイトに聞いてきますね。それじゃ今日はこれで……」
「え? ほくちゃんもう帰っちゃうの?」
「うわっ?!」
ふわりと僕の頭上を飛び越えて、ドアの前に立ちふさがるユーレイさん。
マジでビビるから止めて欲しい……。
「え、えぇ。いちおう受験生だし勉強しないと……」
「えー。寂しいじゃーん。ここで勉強してけばいいんじゃね?」
え、集中できなさそう……。
うっかり思ってしまったことが思いっきり顔に出てしまったらしい。
ユーレイさんがむすりと下唇を突き出した。
「あ、何そのかおぉ~。俺だって高三だからね? 同じ受験生だからね?」
「はぁ、そうですね?」
優しい僕はいつの高三なのか、ユーレイさんを問い詰めることはしかなった。
ほら、逆上されて憑りつかれても困るし?
こうして僕は誰も来ない音楽室で、ユーレイさんと勉強することになったのだった。



