夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

「ほくちゃん! こっちこっち!」

 ざわざわと騒めく大学の食堂。
 今日のおすすめ定食が乗ったトレーを手にきょろきょろと辺りを見回していると、僕に向かって大きく手を振る存在が目に入った。
 そしてその人物に集中する周囲の視線。
 さらにその人物が見つめる先にいる僕を見て、納得の感情が広がっていく。

 ……どうしてこうなった。

「ほくちゃん? どしたの? ほら、こっち! 早くいこう? お昼休みなくなっちゃうよ?」

 少しだけ現実逃避してただけなのに、気づいたら雄志さんが目の前にいた。
 え? 瞬間移動した?
 それ位のスピード感だった。

 あっという間にトレーを奪われ、こっちこっちと手招く雄志さんの後をついていく。

「(ほら……あの子が……)」

「(あぁ……噂の……滅茶苦茶溺愛してるっていう……)」

「(へぇ……)」

 ……あぁ、そのへぇの後が悪口ではありませんように。
 そんなことを願いながら、雄志さんの向かいに座ろうとしたら、何故か違うと首を振られた。

「ほくちゃんこっち。てかそもそもそっちにトレー置いてないでしょ」

「……はぁ」

「ほらほら、早く食べちゃおう?」

「はぁ……。って雄志さんは?」

 雄志さんの前にはカップのコーヒーが置いてあるだけだ。

「ん? 前コマ空きだったからもう食べちゃった。これでじっくりと食事するほくちゃんを見てられるねっ!」

「……あんまり見ないでください」

 ぷいっと横を向いても、耳が赤くなってるのはまるわかりだろう。

「……いただきます」

 そう言って定食に箸を付ける。
 雄志さんは何が面白いのか、僕の食べる姿をニコニコと見ていた。

「……まぁたやってるんですね。あ、ここ空いてますよね?」

「空いてないっ! どっかいけっ!」

「……沢渡先生? 生徒に優しくしましょう?」

 ため息を吐きつつちゃっかり僕の向かいに腰を下ろしたのは葛西君だ。

「もう生徒じゃないもんね」

 子どもっぽく拗ねる雄志さんは少し可愛い。

「あ、島ちゃん。次の講義に出すレポート、講義前に提出だったのが、講義が終わった後に回収になったって」

「え? そうなんだ。ありがとー」

 口の中に入っていたご飯を飲み込んで、慌てて返事をする。
 レポートのことがあったから、昼休みを早めに切り上げないとって思ってたんだよね。

「ってことは、次の講義ギリギリまで一緒にいられるね?」

 僕らの会話に喰いついてきたのは、もちろん雄志さんだった。

「もともとそのつもりで、レポート出すのにもついていくつもりだったんじゃないですかー?」

 しらっとした葛西君の声を無視して雄志さんがニコニコと微笑む。

「それはそうだけど、やっぱ用事があるのとないのとは違うっていうか……!」

 どこまでも嬉しそうに笑う雄志さんに僕も微笑みを返す。
 だって僕だって雄志さんと少しでも長く一緒にいられるのは嬉しいからね。
 
「……はぁ、このバカップルめ」

 葛西君の呟きに、なんとでも思うがいい! なんて返せるぐらいには、今の僕は幸せだった。

 窓の外にはあの日と同じ五月の光がキラキラと輝いている。
 あの日、ユーレイさんに出逢ってから、僕の人生は変わり始めた。
 どこまでもどんよりとしていた僕の人生に光が満ちた。
 それはすべて……。
 
「ね、雄志さん。大好きですよ」

 ユーレイさんが、雄志さんがいてくれたからだ。
 だから今の僕は……とても幸せだ。

 雄志さんが僕の告白に喜びを露にするまであと……。