夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

「たぶん最初っからほくちゃんに惹かれてたんだ。幽霊になった時も、確かに最初はピアノの音に惹かれてたからだけど……。
 あの時全然自分のこと覚えてなかったし、どうして学校にいたのかも、何をするつもりだったかも全然わかんなくて……。
 確かなモノなんて何一つなくて不安定で……。なんにも信じることができなかったけど、だけどほくちゃんだけは信じられた。
 あんなよくわかんない存在(幽霊)と真摯に向き合ってくれるほくちゃんがどんどん好きになってて……。
 だからこそ階段から落ちたほくちゃんを助けられなかったのは……痛かったなぁ」

 くしゃりと泣きそうな顔になる雄志さんの頬を撫でる。
 つないでいた手はいつの間にか解放され、片手は僕の唇に触れたまま、もう片方は頬にあてた僕の手を逃がさないと言わんばかりに包み込んだ。

「ね? だからさ……。俺のこと好きになって……?」

 アップライトの照明に照らされた部屋で、雄志さんの黒い瞳がきらりと輝く。
 瞳の奥を覗き込んでも、ユーレイさんだった時に感じた昏い影はない。
 だから僕は……。

「それは……無理です……」

 さっと顔色を変えて、僕の手に添えていた雄志さんの手が離れていきそうになる。
 ぎゅっと上から押さえ込めば、くしゃりと泣き笑いのような表情になった。

「だってもう……! 雄志さんが好きだから……っ!」

 あぁ、ホント。
 ここがカラオケ用の部屋で良かった。
 こんなの、他の誰かに聞かせられる訳がない。

「————っ! ほくちゃん……それホント?」

 やっぱり泣き笑いのままだけど、激情を押さえるように震える唇が歪な三日月を描いていく。

「ホントです……。ていうか絶対僕の方が先に好きだった!」

 きっぱりと言い切れば、艶めいた黒い瞳が大きく見開かれて……破顔した。

「ふはっ……! そ、そうなんだ?」

「そうですよ。絶対僕の方が先でしたって。だから……ユーレイさんが消えた時は大変だったんですからねっ!」

 ケラケラと笑い続ける雄志さんの胸を軽く叩く。
 まったく……本当に大変だったんだぞ? 勉強に身が入らなくなるし……。受験生としてはあるまじき事態だった。

「そう……だったね……」

 とうとうお腹を抱えて笑い始めた雄志さん。
 まったくもう……!

「だから! 責任取ってください!」

 ぴしりと指をさして言い切った。
 いつの間にか目尻に溜まっていたらしい涙を拭ってから、雄志さんが僕の手を取った。

「じゃ、改めて……。俺とお付き合いしてくれる? いや、お付き合いしてください」

「……はい。よろしくお願いします」

 こうして僕は、失恋で終わるはずだった恋を手に入れたのだった。