「おん? どしたの? そんな幽霊でも見たような顔してさ?」
そんなことを宣いながら、ふわりと相手が近づいてきた。
そう……ふわりと。
柔らかそうな髪も、好奇心に輝く瞳も、女子にモテそうな柔和な顔立ちも。
ウチの夏服に身を包んだ僕よりも背の高そうな身体も。
全部が全部、半分透けて、ついでに宙に浮いているんだから。
「ひぇぇぇぇぇ……」
くっと近づいてきた顔を避けようと後ずさる。
だけど、ピアノの足が邪魔してこれ以上進めない。
追い詰められた僕はもう、情けない悲鳴をあげることしかできなかった。
「いや、そんなに怯えんでも……。お前、見たことない顔だけど一年?」
「いや……僕はもう三年で……。ていうかこの状況で怯えるなって方が無理がある!」
飄々と訊ねられて、僕の思考もなんだか吹っ切れてきた。
「どなたか存じませんが、僕に憑りついてもなんのいいこともありませんよ! 何せ見た目通りの陰キャですからね! 女子にモテたことなど人生で一度もないですからね! そっち関係の心残りを解消するお手伝いはできかねます!」
一息に言い切って、はぁはぁと荒く息を吐く。
全く陰キャにあんまり喋らせないでほしい。
あと、可愛い顔してんのに? とか余計なコメントはいらない。
「え? お前三年? おない? マジで? こんなヤツいたっけ?」
「……その言葉、そっくりそのままお返しします」
僕をまじまじと眺めながら首を傾げる幽霊。
うん、とってもシュールだ。
……これ、他の人から見たらどう見えてんだろ?
この幽霊が僕にしか見えてなかったら虚空に叫ぶ変な奴だし、他の人にも見えてたとしても幽霊と喋るヤバいヤツになる。
あれ? 結構八方塞がりだな?
これからの学校生活に軽く絶望してると、首を傾げてた幽霊が口を開いた。
「え? マジで記憶にねぇ。二年ちょっと通ってて顔合わせたことねぇってあり得る? ちな、お前何組の何君?」
幽霊のいうことはもっともだ。
この高校は一学年百人ちょっと。そこまで規模の大きな学校ではない。
同じ学年なら直接話したことはなくても、顔は知ってる程度の面識はある。
三年に上がってから初めましてはかなり珍しいだろう。
なのに……ぷかぷかと僕の頭上近くに浮かんでる相手の顔に心当たりはない。
女子にモテそうな雰囲気を感じるし、同じ学年だったら絶対話題に出てるタイプなのに……。
「僕ですか? 三年二組の島原北斗です」
なんとなくぺこりと頭を下げてしまうのは、日本人の性だろうか。
「え? マジで? お前その顔で理系なの?」
「……顔は関係なくないですか?」
思わずむすりと唇を突き出してしまう。
確かに童顔だけどさぁ。童顔が理系に行っちゃ悪いのかよ……。
なお、僕の高校は理系、文系のコース別にクラスが分かれているため、どのクラスにいるかによって、だいたい進路が分かる形になっている。
「めっちゃ文系っぽい顔してるし、あんだけピアノが上手いなら、そっち系にすすむんかなぁって……」
相手の言葉がチクリと胸を刺す。
諦めた夢の残滓が沸き上がりそうになって、ぐっと息を呑んだ。
「つか、マジで二組? ダチが二組にもいるからよく出入りしてんのに、顔覚えてねぇって……俺ヤバくね?」
それはヤバいですが……。
でも僕も彼が同じ学年にいた記憶がないので、お互い様だろうか……?
いや、いないよな? うん、いない。
「あの……失礼ですがお名前は……」
幽霊に名前を聞くって……どうなんだろう? なんて思いつつ恐る恐る訊ねる。
そもそも幽霊に名前を教えるのもどうだったんだろう……? なんて今更ながら後悔に襲われた。
「んぁ? 俺? 俺は……」
黙り込んでしまった相手をマジマジと見つめる。
名前を聞かれて黙り込むとか……ある?
まぁ、僕が不審者だから教えたくないって可能性も……いや、それは僕も一緒だって。
ぷかぷか浮いてる明らかに生きてない人に自分の名前教えたくなかったって!
心の中でだけ憤慨していると、どんどん相手の顔が曇っていく。
ぎゅっと寄った眉根や、少しだけ伏せられた瞼、そして半透明なのに何故かわかる。どんどん顔色が悪くなってることが。
「あ……の……?」
思わずと声をかけた僕に、縋るような視線が向けられた。
いったいどうしたどした?
「なぁ……俺の名前って……なんだっけ?」
相手の言葉に、僕はぽっかりと口を開くことしかできなかった。
そんなことを宣いながら、ふわりと相手が近づいてきた。
そう……ふわりと。
柔らかそうな髪も、好奇心に輝く瞳も、女子にモテそうな柔和な顔立ちも。
ウチの夏服に身を包んだ僕よりも背の高そうな身体も。
全部が全部、半分透けて、ついでに宙に浮いているんだから。
「ひぇぇぇぇぇ……」
くっと近づいてきた顔を避けようと後ずさる。
だけど、ピアノの足が邪魔してこれ以上進めない。
追い詰められた僕はもう、情けない悲鳴をあげることしかできなかった。
「いや、そんなに怯えんでも……。お前、見たことない顔だけど一年?」
「いや……僕はもう三年で……。ていうかこの状況で怯えるなって方が無理がある!」
飄々と訊ねられて、僕の思考もなんだか吹っ切れてきた。
「どなたか存じませんが、僕に憑りついてもなんのいいこともありませんよ! 何せ見た目通りの陰キャですからね! 女子にモテたことなど人生で一度もないですからね! そっち関係の心残りを解消するお手伝いはできかねます!」
一息に言い切って、はぁはぁと荒く息を吐く。
全く陰キャにあんまり喋らせないでほしい。
あと、可愛い顔してんのに? とか余計なコメントはいらない。
「え? お前三年? おない? マジで? こんなヤツいたっけ?」
「……その言葉、そっくりそのままお返しします」
僕をまじまじと眺めながら首を傾げる幽霊。
うん、とってもシュールだ。
……これ、他の人から見たらどう見えてんだろ?
この幽霊が僕にしか見えてなかったら虚空に叫ぶ変な奴だし、他の人にも見えてたとしても幽霊と喋るヤバいヤツになる。
あれ? 結構八方塞がりだな?
これからの学校生活に軽く絶望してると、首を傾げてた幽霊が口を開いた。
「え? マジで記憶にねぇ。二年ちょっと通ってて顔合わせたことねぇってあり得る? ちな、お前何組の何君?」
幽霊のいうことはもっともだ。
この高校は一学年百人ちょっと。そこまで規模の大きな学校ではない。
同じ学年なら直接話したことはなくても、顔は知ってる程度の面識はある。
三年に上がってから初めましてはかなり珍しいだろう。
なのに……ぷかぷかと僕の頭上近くに浮かんでる相手の顔に心当たりはない。
女子にモテそうな雰囲気を感じるし、同じ学年だったら絶対話題に出てるタイプなのに……。
「僕ですか? 三年二組の島原北斗です」
なんとなくぺこりと頭を下げてしまうのは、日本人の性だろうか。
「え? マジで? お前その顔で理系なの?」
「……顔は関係なくないですか?」
思わずむすりと唇を突き出してしまう。
確かに童顔だけどさぁ。童顔が理系に行っちゃ悪いのかよ……。
なお、僕の高校は理系、文系のコース別にクラスが分かれているため、どのクラスにいるかによって、だいたい進路が分かる形になっている。
「めっちゃ文系っぽい顔してるし、あんだけピアノが上手いなら、そっち系にすすむんかなぁって……」
相手の言葉がチクリと胸を刺す。
諦めた夢の残滓が沸き上がりそうになって、ぐっと息を呑んだ。
「つか、マジで二組? ダチが二組にもいるからよく出入りしてんのに、顔覚えてねぇって……俺ヤバくね?」
それはヤバいですが……。
でも僕も彼が同じ学年にいた記憶がないので、お互い様だろうか……?
いや、いないよな? うん、いない。
「あの……失礼ですがお名前は……」
幽霊に名前を聞くって……どうなんだろう? なんて思いつつ恐る恐る訊ねる。
そもそも幽霊に名前を教えるのもどうだったんだろう……? なんて今更ながら後悔に襲われた。
「んぁ? 俺? 俺は……」
黙り込んでしまった相手をマジマジと見つめる。
名前を聞かれて黙り込むとか……ある?
まぁ、僕が不審者だから教えたくないって可能性も……いや、それは僕も一緒だって。
ぷかぷか浮いてる明らかに生きてない人に自分の名前教えたくなかったって!
心の中でだけ憤慨していると、どんどん相手の顔が曇っていく。
ぎゅっと寄った眉根や、少しだけ伏せられた瞼、そして半透明なのに何故かわかる。どんどん顔色が悪くなってることが。
「あ……の……?」
思わずと声をかけた僕に、縋るような視線が向けられた。
いったいどうしたどした?
「なぁ……俺の名前って……なんだっけ?」
相手の言葉に、僕はぽっかりと口を開くことしかできなかった。



