「ね? だから俺、ほくちゃんが好きなんだ。だからさ……付き合お?」
「ひぇぇぇ?!」
連れてこられたのは駅前にあるカラオケ。
スイッチが切られてなかったらしいマイクが、僕の情けない悲鳴を拾ってハウリングを起こす。
少しだけうるさそうに顔を顰めた沢渡先生が手を伸ばし、清掃済みのビニールの上からスイッチを切った。
ついでにと言わんばかりにリモコンも手に取り、カラオケ会社のCMを流していたテレビの音量を下げた。
「って、なんでそんなに驚いてんの? そもそも俺の告白を教育実習期間だからって保留にしたのはほくちゃんだよね? だったら教育実習が終わった今、こうなるって予定調和だよね?」
グイグイと距離を詰めてくる沢渡先生。
そもそもカラオケの部屋なんてそんな広くない。
僕はどんどんと壁際に追い詰められ、気がついたら壁ドンならぬソファードンで沢渡先生を見上げていた。
「ひぇ?!」
ぐっと整った顔が近づいてきて、まつ毛の長さまでよく見える。
あ、虹彩はちょっと色が薄いんだな。なんて幽霊の頃にはわからなかった気づきに現実逃避してると……。
「ひぇぇぇ?!」
長い指が僕の頬を撫でていった。
「ねぇほくちゃん? もしかしたらその気がなかったのかもしれないけど、そしたらさぁ? こうやってホイホイついてきちゃダメだよ? 男なんていつだって好きになった相手を手に入れてやろうと虎視眈々と狙ってるんだからね?」
すりすりと頬を撫でられた場所に意識が集中する。
なんならそこだけ赤くなってない? なんて余計な心配をしてると、撫で下ろされた指先が僕の唇に触れた。
「ね? ほくちゃん? いやならちゃんと拒絶しないと……キスされちゃうよ?」
視点が定まらなくほどに近づかれ、拒否を告げるはずの唇は呼気ごと相手の口内に吸い込まれていった。
「むぅ……っ!」
息苦しさと、動揺と、喜びと、そして得も言われぬ……快楽。
不慣れな僕にそれは覿面に作用した。
ちゅ、ちゅと静まり返った部屋に響く擦過音。
開いた唇からそろりと侵入してきた相手の舌を、僕はおずおずと、それでも確かに自分の意思で迎え入れてしまう。
「んふぅ……」
上顎を誰かに舐められるという未知の感覚に、僕の脳内は霞がかかったように現実が遠くなっていく。
「ほくちゃん……」
まるでどろどろに煮詰めたシロップみたいな甘い声で自分の名前を呼ばれて、僕の意識は現実に引き戻された。
「ちょ?! ちょっと待って?! 沢渡先生?!」
「なぁに? ほくちゃん。あと先生は止めて。教育実習は終わったんだよ。だから俺は今、ただの沢渡雄志」
「……ユーレイさん?」
僕の呼びかけに、面白そうに笑うユーレイさん。その唇がなんだか艶めいてる理由には言及してはいけない。
「そうだよ。俺がユーレイさん。君のおかげで幽霊じゃなくなった沢渡雄志だよ」
「そ……れは……。だって僕はなにも……」
「してくれたよ。ほくちゃんが、俺のことを先生に向いてるって言ってくれたから、俺は自分の夢を、なりたいものを思い出した。
それに……俺にそう言ってくれたのは……二度目だよね? あの図書館で俺の背中を押してくれた中学生。あれ、ほくちゃんでしょ?」
疑問の態を取っていても、ユーレイさん改め雄志さんはどこか確信してる様子だった。
だから僕もおずおずと口を開く。
「確かに僕はあの日、たまたま隣り合った高校生の方に勉強を教えてもらいましたが……。僕が教わるばかりで、特に僕が何かをした記憶は無いんですが……?」
そう。僕はあの日勉強に躓いていた。そんな僕に丁寧に勉強を教えてくれたのが、たまたま隣り合った雄志さんだったとしても、僕から彼に何かした記憶は無い。
僕の言葉にふむと思案気な表情を浮かべる雄志さん。
「ふぇ?!」
くっと腕を引っ張られ、身体を起こされる。
やっと押し倒されてると錯覚するような状態から解放されるとほっとしたのもつかの間。
気が付けば雄志さんと向かい合って手を取られていた。
そしてやっぱり距離が近い。
「そんなことない。そんなことないんだよ。あの日俺は……ほくちゃんに会わなければたぶん……教師になる夢を諦めてたんだ」
「……え?」
意外な言葉に、僕は目を丸くすることしかできなかった。
「ひぇぇぇ?!」
連れてこられたのは駅前にあるカラオケ。
スイッチが切られてなかったらしいマイクが、僕の情けない悲鳴を拾ってハウリングを起こす。
少しだけうるさそうに顔を顰めた沢渡先生が手を伸ばし、清掃済みのビニールの上からスイッチを切った。
ついでにと言わんばかりにリモコンも手に取り、カラオケ会社のCMを流していたテレビの音量を下げた。
「って、なんでそんなに驚いてんの? そもそも俺の告白を教育実習期間だからって保留にしたのはほくちゃんだよね? だったら教育実習が終わった今、こうなるって予定調和だよね?」
グイグイと距離を詰めてくる沢渡先生。
そもそもカラオケの部屋なんてそんな広くない。
僕はどんどんと壁際に追い詰められ、気がついたら壁ドンならぬソファードンで沢渡先生を見上げていた。
「ひぇ?!」
ぐっと整った顔が近づいてきて、まつ毛の長さまでよく見える。
あ、虹彩はちょっと色が薄いんだな。なんて幽霊の頃にはわからなかった気づきに現実逃避してると……。
「ひぇぇぇ?!」
長い指が僕の頬を撫でていった。
「ねぇほくちゃん? もしかしたらその気がなかったのかもしれないけど、そしたらさぁ? こうやってホイホイついてきちゃダメだよ? 男なんていつだって好きになった相手を手に入れてやろうと虎視眈々と狙ってるんだからね?」
すりすりと頬を撫でられた場所に意識が集中する。
なんならそこだけ赤くなってない? なんて余計な心配をしてると、撫で下ろされた指先が僕の唇に触れた。
「ね? ほくちゃん? いやならちゃんと拒絶しないと……キスされちゃうよ?」
視点が定まらなくほどに近づかれ、拒否を告げるはずの唇は呼気ごと相手の口内に吸い込まれていった。
「むぅ……っ!」
息苦しさと、動揺と、喜びと、そして得も言われぬ……快楽。
不慣れな僕にそれは覿面に作用した。
ちゅ、ちゅと静まり返った部屋に響く擦過音。
開いた唇からそろりと侵入してきた相手の舌を、僕はおずおずと、それでも確かに自分の意思で迎え入れてしまう。
「んふぅ……」
上顎を誰かに舐められるという未知の感覚に、僕の脳内は霞がかかったように現実が遠くなっていく。
「ほくちゃん……」
まるでどろどろに煮詰めたシロップみたいな甘い声で自分の名前を呼ばれて、僕の意識は現実に引き戻された。
「ちょ?! ちょっと待って?! 沢渡先生?!」
「なぁに? ほくちゃん。あと先生は止めて。教育実習は終わったんだよ。だから俺は今、ただの沢渡雄志」
「……ユーレイさん?」
僕の呼びかけに、面白そうに笑うユーレイさん。その唇がなんだか艶めいてる理由には言及してはいけない。
「そうだよ。俺がユーレイさん。君のおかげで幽霊じゃなくなった沢渡雄志だよ」
「そ……れは……。だって僕はなにも……」
「してくれたよ。ほくちゃんが、俺のことを先生に向いてるって言ってくれたから、俺は自分の夢を、なりたいものを思い出した。
それに……俺にそう言ってくれたのは……二度目だよね? あの図書館で俺の背中を押してくれた中学生。あれ、ほくちゃんでしょ?」
疑問の態を取っていても、ユーレイさん改め雄志さんはどこか確信してる様子だった。
だから僕もおずおずと口を開く。
「確かに僕はあの日、たまたま隣り合った高校生の方に勉強を教えてもらいましたが……。僕が教わるばかりで、特に僕が何かをした記憶は無いんですが……?」
そう。僕はあの日勉強に躓いていた。そんな僕に丁寧に勉強を教えてくれたのが、たまたま隣り合った雄志さんだったとしても、僕から彼に何かした記憶は無い。
僕の言葉にふむと思案気な表情を浮かべる雄志さん。
「ふぇ?!」
くっと腕を引っ張られ、身体を起こされる。
やっと押し倒されてると錯覚するような状態から解放されるとほっとしたのもつかの間。
気が付けば雄志さんと向かい合って手を取られていた。
そしてやっぱり距離が近い。
「そんなことない。そんなことないんだよ。あの日俺は……ほくちゃんに会わなければたぶん……教師になる夢を諦めてたんだ」
「……え?」
意外な言葉に、僕は目を丸くすることしかできなかった。



