夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

「ほくちゃ~ん!!」

 てっきり図書館の、僕たちがたまたま隣り合って座っていたあの場所にいると思ってた僕の予想は、早々に裏切られた。
 まだ待ち合わせ時間の十分前だっていうのに、すでに沢渡先生は図書館の入り口に立っていた。

 最近冷えてきたからか、白い息を整った唇から吐き出しながら立っている沢渡先生は、それだけで周囲の視線を集めている。
 すらりとした長躯に似合ったニットにジャケット、太めのワイドパンツは何故かその足の長さを強調している。
 ていうか、なんでワイドパンツ着てるのに短足に見えないんだ?
 僕が履いたら、たぶんだらしなく見えるだろう。
 整った顔は相変わらずで、僕を見つけて嬉しそうに笑み崩れた沢渡先生を見て、通りすがりの女子高生たちから小さな悲鳴が上がっていた。
 そして、待ち合わせ相手が僕だとわかって、少しだけ奇妙なモノを見るような視線を向けられる。
 まるでシフォンケーキに添えられた生クリームが、実はマヨネーズだったみたいな。
 ……いやだな、シフォンケーキにマヨネーズは……。

「ほくちゃん? おはよ。どしたの? 具合悪い? 俺、無理言った?」

 その長い足をさくさく動かして、あっという間に僕との距離を詰める沢渡先生。
 覗き込むように僕の顔を真剣な表情で見つめる沢渡先生に、僕の心臓は鼓動を早めた。

「いや、いえ。はい。大丈夫ですはい。体調もいいです」

 しろどもどろな僕の答えを聞いて、沢渡先生は満面の笑みを浮かべた。
 その笑みに、たまたま後ろを通った女性が少しだけ動揺する。
 すごいな、本当……。

「そう? 俺、無理言っちゃったかと思った。あ、でさ。図書館結構混んでて……。良かったらどっか別の場所で話そ?」

「あ、はい……って、ひぇ?!」

 頷いた途端、僕の手は温かいものに包まれていた。
 それが沢渡先生の手だと気付いた時には、僕たちはその場を後にしていたのだった。